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金貨の娘  作者: 美穂
第6章 暗晦の道(後)

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第6章 第5節 十二の歴(第1項)

分(ぶん)水(すい)街(がい)の暑(あつ)さに慣(な)れてしばらく経(た)つと、

雨(あめ)の日(ひ)が長(なが)く続(つづ)いた。



日(ひ)陰(かげ)の庭(にわ)に張(は)った天(てん)蓋(がい)は巻(ま)かれたまま、

花(か)園(えん)に咲(さ)いていた花(はな)は雨(あめ)で散(ち)っていった。



風(かぜ)が出(で)ると外(そと)廊(ろう)下(か)に雨(あめ)が入(はい)るので、

従(じゅう)業(ぎょう)員(いん)達(たち)はブラシで砂(すな)埃(ぼこり)ごと掃(は)き流(なが)し、

スポンジやタオルで残(のこ)った水(みず)を吸(す)い出(だ)す。



黴(かび)を防(ふせ)ぐ為(ため)に部屋(へや)の中(なか)から扇(おうぎ)を振(ふ)り、

フランジも忙(いそが)しく働(はたら)く。



挿絵(By みてみん)



小(ちい)さな生(せい)物(ぶつ)の黴(かび)の繁(はん)殖(しょく)は肺(はい)を患(わずら)わせ、

服(ふく)や本(ほん)を劣(れっ)化(か)させて食(しょく)材(ざい)を腐(くさ)らせる。



長(なが)雨(あめ)の影(えい)響(きょう)で来(らい)客(きゃく)が減(へ)っても、

館(やかた)の保(ほ)全(ぜん)を目(もく)的(てき)に従(じゅう)業(ぎょう)員(いん)は増(ぞう)員(いん)される。



ヤゴウの妻(つま)、ミョーンとラッタマ以(い)外(がい)にも、

普(ふ)段(だん)は子(こ)供(ども)の世(せ)話(わ)をしているフォッターが、

ノーマ、ゼルマ、ウェルの3人(にん)の娘(むすめ)を連(つ)れて

手伝(てつだ)いに来(き)た。




挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



毎(まい)年(とし)この時(じ)期(き)になると館(やかた)に来(く)るらしく、

厨(ちゅう)房(ぼう)や浴(よく)場(じょう)などの仕(し)事(ごと)を見(み)て、手伝(てつだ)ったり、

舞(ぶ)踏(とう)室(しつ)で走(はし)り回(まわ)る姿(すがた)があった。



一(いち)番(ばん)下(した)の子(こ)のウェルは6歳(さい)なので、

まだ仕(し)事(ごと)を頼(たの)むのは難(むずか)しい。



それでも閑(かん)散(さん)期(き)にやってきた彼(かの)女(じょ)達(たち)は、

フランジの息(いき)抜(ぬ)きにもなった。



長(ちょう)女(じょ)のデーンだけは

いつも以(い)上(じょう)に表(ひょう)情(じょう)が険(けわ)しかった。



挿絵(By みてみん)



わたしはフランジの仕(し)事(ごと)を手伝(てつだ)いはせず、

奪(うば)ったりもしないように努(つと)めた。



スーはまだサンサと一(いっ)緒(しょ)に部屋(へや)で、

ルービィの本(ほん)の作(さ)業(ぎょう)に追(お)われている。



アルとイオスも雨(あめ)と子(こ)供(ども)達(たち)を警(けい)戒(かい)して、

部屋(へや)から出(で)ようとはしなかった。



日(ひ)陰(かげ)の庭(にわ)も使(つか)えず居(い)場(ば)所(しょ)のないわたしは、

そのあいだ食(しょく)堂(どう)で本(ほん)を読(よ)みながら

内(ない)容(よう)を書(しょ)字(じ)板(ばん)に書(か)き写(うつ)した。



ヤゴウの子(こ)供(ども)達(たち)は、この島(しま)の歴(れき)史(し)に

繋(つな)がりのあるメーニェ島(とう)海(かい)戦(せん)に興(きょう)味(み)を示(しめ)し、

わたしが読(よ)み聞(き)かせることもあった。



大《たい》陸(りく)のソーンの艦(かん)隊(たい)に囲(かこ)われたこの海(かい)戦(せん)は、

メーニェ側(がわ)のハーフガン将(しょう)軍(ぐん)が

島(しま)に残(のこ)した囮(おとり)を犠(ぎ)牲(せい)にして勝(しょう)利(り)する。



読(よ)み聞(き)かせは子(こ)供(ども)達(たち)以(い)外(がい)にも、

世(せ)話(わ)をしていたフォッターの他(ほか)に

ミョーンやラッタマまで一(いっ)緒(しょ)に座(すわ)って、

涙(なみだ)を零(こぼ)しながら話(はなし)を聞(き)いていた。



厨(ちゅう)房(ぼう)長(ちょう)のヤゴウがいつもの渋(しぶ)顔(がお)で、

変(か)わった料(りょう)理(り)を作(つく)ってくれた。



湿(しっ)気(け)で傷(いた)みかけた残(のこ)りの食(しょく)材(ざい)を使(つか)った料(りょう)理(り)。



妻(つま)二人(ふたり)の手(て)が止(と)まると困(こま)るので、

わたしを食(しょく)堂(どう)から追(お)い出(だ)したかったらしい。



以(い)降(こう)はサンサの部屋(へや)から遠(とお)く離(はな)れた、

フランジ棟(とう)の南(なん)端(たん)にある教(きょう)育(いく)室(しつ)で、

子(こ)供(ども)達(たち)に本(ほん)を読(よ)み聞(き)かせるようになった。



知(ち)識(しき)に貪(どん)欲(よく)な子(こ)供(ども)達(たち)から質(しつ)問(もん)攻(ぜ)めに遭(あ)い、

スーのような対(たい)応(おう)力(りょく)が求(もと)められた。



挿絵(By みてみん)



長(なが)雨(あめ)が終(お)わると来(らい)客(きゃく)はまた増(ふ)え、

フォッターも子(こ)供(ども)達(たち)も別(わか)れを惜(お)しんで

泣(な)いて大(おお)騒(さわ)ぎして帰(かえ)っていく。



外(そと)は一(いっ)転(てん)して涼(すず)しくなり、

空(くう)気(き)は澄(す)んで過(す)ごしやすくなる。



急(きゅう)な気(き)温(おん)の変(へん)化(か)に体(たい)調(ちょう)を崩(くず)してしまう

ドレイプやフランジが出(で)て、暇(ひま)なわたしは

サンサについて回(まわ)って診(しん)療(りょう)を教(おそ)わった。



喉(のど)の奥(おく)の腫(は)れを見(み)つけたり鼻(び)腔(くう)を見(み)る。



呼(こ)吸(きゅう)時(じ)の肺(はい)の動(うご)き、心(しん)臓(ぞう)の拍(はく)動(どう)、

手(て)足(あし)の血(けっ)行(こう)、血(けっ)色(しょく)を見(み)て、食(しょく)事(じ)の偏(かたよ)りや

歯(は)の掃(そう)除(じ)の確(かく)認(にん)、指(し)導(どう)などを行(おこな)う。



身体(からだ)の痒(かゆ)みを訴(うった)えたり炎(えん)症(しょう)や瘤(こぶ)があれば、

仕(し)事(ごと)を休(やす)ませて病(びょう)院(いん)で検(けん)査(さ)をする。



サンサの診(しん)療(りょう)は、メノー以(い)外(がい)にも、

衣(い)装(しょう)室(しつ)に大(たい)量(りょう)の服(ふく)を置(お)いていった

ノーラにも教(おし)えていたという。



サンサのように診(しん)断(だん)を下(くだ)せないわたしは

デーンに頼(たの)んで、体(たい)調(ちょう)を崩(くず)した子(こ)の為(ため)に

ナショーとヨーグルトに蜂(はち)蜜(みつ)を掛(か)けた

食(しょく)事(じ)を作(つく)って貰(もら)い、持(も)っていった。



トレイを持(も)って食(しょく)堂(どう)を出(で)た時(とき)に、

これを羨(うらや)んだドレイプのミュパが

率(そっ)先(せん)して詐(さ)病(びょう)をした。



挿絵(By みてみん)



彼(かの)女(じょ)の行(こう)動(どう)によって、

わたしの責(せき)任(にん)で夕(ゆう)食(しょく)の後(あと)は

全(ぜん)員(いん)に同(おな)じものを提(てい)供(きょう)することになった。



ヤゴウとデーンが喜(よろこ)ぶフランジを見(み)て、

同(おな)じように口(くち)元(もと)を緩(ゆる)める。



一(いっ)方(ぽう)で詐(さ)病(びょう)したミュパは

レデとジールの姉(し)妹(まい)にまた叱(しか)られていた。



挿絵(By みてみん)




 ◆




挿絵(By みてみん)



朝(あさ)の貯(ちょ)蔵(ぞう)室(しつ)には業(ぎょう)者(しゃ)の荷(に)車(ぐるま)が入(はい)り、

季(き)節(せつ)の食(しょく)材(ざい)が搬(はん)入(にゅう)される。



わたしはその話(はなし)をファウナから聞(き)きつけて、

誰(だれ)よりも早(はや)く起(お)きてその仕(し)事(ごと)を見(けん)物(ぶつ)した。



ファウナや他(ほか)のフランジは

自(じ)分(ぶん)達(たち)の食(た)べる食(しょく)材(ざい)には興(きょう)味(み)がないらしく、

誰(だれ)も作(さ)業(ぎょう)を見(み)に来(こ)ない。



貯(ちょ)蔵(ぞう)室(しつ)の隅(すみ)でわたしが見(み)ていると、

仕(し)入(い)れ業(ぎょう)者(しゃ)の若(わか)い男(おとこ)がこちらの視(し)線(せん)を

気(き)にして作(さ)業(ぎょう)を進(すす)めてくれない。



そのせいで盗(ぬす)み食(ぐ)いを警(けい)戒(かい)したヤゴウに、

貯(ちょ)蔵(ぞう)室(しつ)を追(お)い出(だ)されてしまった。



「興(こう)奮(ふん)した業(ぎょう)者(しゃ)が積(つ)んだポッポの箱(はこ)や

 豆(まめ)の袋(ふくろ)で女(おんな)を押(おし)し潰(つぶ)して、

 抵(てい)抗(こう)できなくしてから犯(おか)すんだって。」



一(いっ)緒(しょ)に見(み)ていたヤゴウの娘(むすめ)のデーンが、

浅(あさ)ましい話(はなし)をわたしに吹(ふ)き込(こ)む。



挿絵(By みてみん)



館(やかた)で仕(し)事(ごと)中(ちゅう)は無(む)口(くち)なデーンから

話(はな)し掛(か)けてくれることはあまりない。



「男(おとこ)を発(はつ)情(じょう)期(き)の犬(いぬ)みたいに言(い)うのね。

 デーン。」



起(お)きて間(ま)もない彼(かの)女(じょ)の髪(かみ)は、

癖(くせ)がついて一(いち)部(ぶ)が盛(も)り上(あ)がっている。



賑(にぎ)やかだった妹(いもうと)達(たち)が帰(かえ)ったので、

仕(し)事(ごと)中(ちゅう)の張(は)り詰(つ)めた表(ひょう)情(じょう)とは違(ちが)って

髪(かみ)型(がた)と相(あい)俟(ま)って気(き)が抜(ぬ)けて見(み)える。



「女(おんな)はそのくらい警(けい)戒(かい)して

 利(り)用(よう)した方(ほう)が身(み)の為(ため)よ。


 ほい。

 囮(おとり)になってくれたお姫(ひめ)様(さま)への

 ご褒(ほう)美(び)と口(くち)止(ど)め料(りょう)ね。」



彼(かの)女(じょ)が貯(ちょ)蔵(ぞう)室(しつ)から取(と)ってきた

ダギラの果(か)実(じつ)を分(わ)けてくれた。



挿絵(By みてみん)



ヤゴウがわたしに

注(ちゅう)意(い)を向(む)けていたあいだに、

デーンが取(と)ってきた。



「囮(おとり)って…。


 そんなの誰(だれ)から教(おそ)わるの。」



「あなたの部屋(へや)のドレイプ。」



「名(な)前(まえ)を言(い)わないだけ

 思(おも)いやりがあるのね…。」



以(い)前(ぜん)はスーもわたしを囮(おとり)にしたので、

ヤゴウに貯(ちょ)蔵(ぞう)室(しつ)から追(お)い出(だ)された。



デーンは取(と)ってきたダギラを

皮(かわ)ごと囓(かじ)って口(くち)元(もと)を緩(ゆる)める。



暑(あつ)さも落(お)ち着(つ)き、

厨(ちゅう)房(ぼう)には木(もく)炭(たん)などの燃(ねん)料(りょう)の量(りょう)も増(ふ)えていた。




 ◆




挿絵(By みてみん)



わたしは衣(い)装(しょう)室(しつ)から上(うわ)着(ぎ)を出(だ)して、

日(ひ)陰(かげ)の庭(にわ)の椅(い)子(す)の背(せ)に掛(か)けた。



長(なが)雨(あめ)で花(か)園(えん)の花(はな)を失(うしな)った庭(にわ)の中(なか)では、

シルクの赤(あか)色(いろ)が主(しゅ)張(ちょう)する。



防(ぼう)虫(ちゅう)剤(ざい)の香(かお)りは屋(おく)外(がい)に放(ほう)置(ち)すると、

空(くう)気(き)が吸(きゅう)着(ちゃく)して薄(うす)まっていく。



ファウナから借(か)りた『ゼズ島(とう)冒(ぼう)険(けん)記(き)』は、

スーが図(と)書(しょ)館(かん)で買(か)ってくれた写(しゃ)本(ほん)のおかげで

読(よ)み進(すす)めることができた。



ゼズ島(とう)に上(じょう)陸(りく)したソーマの話(はなし)も始(はじ)まり、

エルテル領(りょう)など知(し)っている名(な)前(まえ)が出(で)てきた。



庭(にわ)で本(ほん)の続(つづ)きを読(よ)んでいると、

休(きゅう)養(よう)日(び)の館(やかた)は外(そと)の業(ぎょう)者(しゃ)を見(み)かける。



庭(にわ)師(し)が植(うえ)木(き)を剪(せん)定(てい)し、花(か)園(えん)に花(はな)苗《なえ》を植(う)え、

枯(か)れた緑(みどり)の一(いち)部(ぶ)を引(ひ)き剥(は)がして

掘(ほ)った穴(あな)に堆(たい)肥(ひ)を詰(つ)めていく。



玉(たま)石(いし)の庭(にわ)で洗(せん)濯(たく)を行(おこな)う外(そと)の従(じゅう)業(ぎょう)員(いん)達(たち)は、

大(たい)量(りょう)のタオルやシーツ、クッションを、

行(ぎょう)商(しょう)人(にん)のように背(せ)負(お)って交(こう)換(かん)してくれた。



彼(かの)女(じょ)達(たち)は気(き)軽(がる)にわたしに声(こえ)を掛(か)けたので、

わたしは頭(あたま)を下(さ)げて挨(あい)拶(さつ)を返(かえ)す。



初(しょ)老(ろう)の女(おんな)達(たち)はスポンジやブラシ、

石(せっ)鹸(けん)、歯(し)木(ぼく)などの日(にち)用(よう)品(ひん)を補(ほ)充(じゅう)して、

気(き)になる服(ふく)の解(ほつ)れも直(なお)してくれる。



女(おんな)達(たち)はわたしの上(うわ)着(ぎ)を見(み)て燥(はしゃ)ぎ、

要(よう)望(ぼう)に応(こた)えて着(き)てみせると、

身体(からだ)に合(あ)うように縫(ぬ)い直(なお)して整(ととの)えてくれた。



繊(せん)細(さい)な作(さ)業(ぎょう)も手(て)早(ばや)く器(き)用(よう)に熟(こな)す女(おんな)達(たち)は、

ドレイプの仕(し)立(た)てもやっていた。



煤(すす)染(ぞ)めの仕(し)事(ごと)で連(つ)れられてきた少(しょう)年(ねん)達(たち)は、

娼(しょう)館(かん)の玄(げん)関(かん)と出(で)口(ぐち)を間(ま)違(ちが)えて騒(さわ)ぐ。



わたしの椅(い)子(す)に掛(か)けた上(うわ)着(ぎ)に見(み)蕩(と)れ、

動(うご)きを止(と)めてしまう子(こ)も居(い)た。



手(て)を振(ふ)って戻(もど)る場(ば)所(しょ)を示(しめ)すと、

出(で)口(ぐち)からやってきた指(し)導(どう)役(やく)の女(おんな)に

襟(えり)首(くび)を引(ひ)っ張(ぱ)られて叱(しか)られていた。



挿絵(By みてみん)



楽(がっ)器(き)専(せん)門(もん)の業(ぎょう)者(しゃ)も来(き)て、

2階(かい)の舞(ぶ)踏(とう)室(しつ)から、湿(しっ)気(け)で鈍(にぶ)くなった

弦(げん)楽(がっ)器(き)の音(おと)が漏(も)れ聞(き)こえる。



わたしも舞(ぶ)踏(とう)室(しつ)に四(しい)時(じ)の札(ふだ)を持(も)って行(い)き、

業(ぎょう)者(しゃ)にニスでの手(て)入(い)れを学(まな)ぼうとしたら、

若(わか)い生(せい)徒(と)が練(れん)習(しゅう)代(が)わりにやってくれた。



ファウナとセセラはドレイプ棟(とう)の

自(じ)分(ぶん)達(たち)の部屋(へや)の前(まえ)に集(あつ)まって、

通(かよ)いの商(しょう)人(にん)が仕(し)入(い)れた趣(しゅ)味(み)の本(ほん)を

静(しず)かに吟(ぎん)味(み)している。



挿絵(By みてみん)



夜(よる)の館(やかた)という娼(しょう)館(かん)は、

ドレイプやフランジだけでは成(せい)立(りつ)しない。



広(ひろ)く深(ふか)く考(かんが)えるというのを、

スーは視(し)野(や)や観(かん)点(てん)と例(たと)えていた。



わたしは塔(とう)から見(み)下(お)ろす感(かん)覚(かく)で、

館(やかた)全(ぜん)体(たい)を並(なら)べた食(しょっ)器(き)に見(み)立(た)てて眺(なが)める。



館(やかた)の仕(し)事(ごと)や物(もの)の動(うご)きを知(し)れば、

生(せい)活(かつ)の仕(し)組(く)みを理(り)解(かい)しやすくなる。



食(しょく)材(ざい)を仕(し)入(い)れて下(した)準(じゅん)備(び)をし、

熱(ねつ)を加(くわ)えて味(あじ)見(み)をして味(あじ)を整(ととの)える。



食(た)べ終(お)えれば廃(はい)棄(き)物(ぶつ)を集(あつ)め、

調(ちょう)理(り)道(どう)具(ぐ)や食(しょっ)器(き)の洗(せん)浄(じょう)を行(おこな)う。



食(しょく)材(ざい)の生(せい)産(さん)、流(りゅう)通(つう)から廃(はい)棄(き)までの

循(じゅん)環(かん)という円(えん)環(かん)が形(けい)成(せい)される。



いくつもの円(えん)環(かん)から重(かさ)なった接(せっ)点(てん)によって、

人(にん)間(げん)の社(しゃ)会(かい)は構(こう)築(ちく)されている。



連(つら)なる二(ふた)つの円(えん)――、

湖(みずうみ)を象(かたど)ったネルタの繍(しゅう)旗(き)を思(おも)い浮(う)かべた。



挿絵(By みてみん)



高(たか)い視(し)点(てん)で見(み)下(お)ろせば、

仕(し)事(ごと)もせずに食(しょっ)器(き)に用(よう)意(い)された

料(りょう)理(り)を食(た)べるだけのわたしが、

この館(やかた)に居(い)る理(り)由(ゆう)はない。



「ニクス、あなたどこを見(み)てるの?

 また本(ほん)を読(よ)んでたのね?


 もうみんな出(で)掛(か)けるわよ。」



雲(くも)一(ひと)つない空(そら)を見(み)ていると、

頭巾(フード)に宝飾巾(ヴェール)をしたサンサと共(とも)に

アルとイオスも庭(にわ)に戻(もど)ってきた。



挿絵(By みてみん)



「だってまだ開(かい)墾(こん)の最(さい)中(ちゅう)だから。」



ソーマが牛(うし)を使(つか)って耕(こう)起(き)し、

島(しま)の東(ひがし)にエルテル領(りょう)を作(つく)る様(よう)子(す)が

本(ほん)に綴(つづ)られている。



サンサが息(いき)を吐(つ)いて、

戯(たわむ)れに宝飾巾(ヴェール)を靡(なび)かせる。



「本(ほん)を読(よ)むのはいいけれど、

 本(ほん)が世(よ)の全(すべ)てではないわよ。


 これを着(き)ていた方(ほう)がいいわね。


 日(ひ)が暮(く)れると寒(さむ)くなるわよ。」



椅(い)子(す)に掛(か)けていた赤(あか)い上(うわ)着(ぎ)に袖(そで)を通(とお)す。



シルクの服(ふく)は着(き)ても肌(はだ)触(ざわ)りがとても優(やさ)しい。



「暑(あつ)ければレナに着(き)せてもいいわよ。


 色(いろ)のある服(ふく)はあの子(こ)、着(き)ないのよ。」



「サンサもレナタも黒(くろ)い服(ふく)ばかりだよね。」



「誰(だれ)にも買(か)うことのできない

 ドレイプのわたしが、

 他(ほか)の子(こ)より目(め)立(だ)っても

 仕(し)方(かた)がないでしょ。


 レナの服(ふく)はそのついでね。


 二人(ふたり)はもう

 出(で)口(ぐち)で待(ま)ってるわよ。」



この休(きゅう)養(よう)日(び)はレナタとスーの3人(にん)で、

アイリアの館(やかた)に出(で)掛(か)ける予(よ)定(てい)があった。



「サンサも行(い)くの?」



「行(い)かないわよ。

 わたしはまたルービィの館(やかた)。


 メノーの様(よう)子(す)を見(み)にね。」



「メノーは大(だい)丈(じょう)夫(ぶ)?」



少(すこ)し前(まえ)からメノーは仕(し)事(ごと)を休(やす)み、

ルービィの家(いえ)で静(せい)養(よう)している。



「心(しん)配(ぱい)ないわよ。


 この前(まえ)見(み)に行(い)った時(とき)は

 ドロシアと踊(おど)ってたもの。


 寝(ね)てばかりの方(ほう)が身体(からだ)に悪(わる)いのよ。」



「ドロシア?」



「ルービィの妹(いもうと)ね。


 いまはこの館(やかた)の

 経(けい)営(えい)の手伝(てつだ)いをしてるひとよ。」



サンサが前(まえ)を歩(ある)くと、

アルとイオスもそれに続(つづ)く。



イオスはもう並(なら)んで歩(ある)くアルに

近(ちか)い大(おお)きさに成(せい)長(ちょう)していた。



「サンサはアイリアってひとも

 知(し)ってるんだよね?」



「あなたも知(し)っての通(とお)り、

 メノーの壁(へき)画(が)を作(つく)った女(おんな)の画(が)工(こう)よ。


 女(おんな)で画(が)工(こう)なんだから、

 この街(まち)では閨(けい)秀(しゅう)とも呼(よ)ばれているわね。」



彼(かの)女(じょ)は言(い)って笑(わら)っている。



「どんなひと?」



「これから会(あ)うのだから、

 自(じ)分(ぶん)の目(め)で確(たし)かめればいいわよ。」



「だってスーの様(よう)子(す)、

 ちょっとおかしかったでしょ?」



サンサに遣(つか)いを言(い)い渡(わた)された時(とき)、

いつものスーとは様(よう)子(す)が違(ちが)って見(み)えた。



「スーが言(い)わないのなら、

 ニクスに知(し)られたくないことが

 あの子(こ)にもあるのよ。


 あなたが秘(ひ)め事(ごと)を抱(かか)えているのと同(おな)じ。」



「…サンサにもあるんでしょ?」



「もちろん、あるわよ。」



秘(ひ)め事(ごと)の内(ない)容(よう)までは教(おし)えてくれない。



「広(ひろ)く深(ふか)く考(かんが)えるからいいよ。


 なにか悪(わる)さしたんだもんね。

 アルはなにか知(し)ってる?」



無(む)言(ごん)の返(へん)答(とう)をサンサがすると、

ついて歩(ある)くアルがミャオと返(へん)事(じ)をした。



「聞(き)いた?

 アルがしてるって言(い)った。」



「言(い)ってないわよ。」



「わたし猫(ねこ)の言(こと)葉(ば)なんて分(わ)からないし。


 イオスも、サンサがまた

 悪(わる)いことを企(たくら)んでると思(おも)う?」



イオスもビャオと鳴(な)いて返(へん)事(じ)をしたので

勝(か)ち誇(ほこ)ってみせた。



同(どう)時(じ)にイオスはわたしの胸(むね)に跳(と)びついて、

太(ふと)腿(もも)を爪(つめ)で引(ひ)っ掻(か)かれた。



「痛(いた)っ。」



「あなた、スーに似(に)てきたわね。」



「そんなことないよ。ねぇ?」



少(すこ)し意(い)地(じ)悪(わる)を言(い)ったせいで、

外(そと)に出(で)るまでサンサは

口(くち)を聞(き)いてくれなかった。




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