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金貨の娘  作者: 美穂
第5章 混濁の庭

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第5章 第4節 四時の札(第1項)

いつもの庭(にわ)のいつものテーブル。



サンサがいつも座(すわ)る北(きた)側(がわ)の椅(い)子(す)に、

今日(きょう)はわたしが座(すわ)らせられていた。



南(みなみ)側(がわ)の椅(い)子(す)にはスーが座(すわ)っていて、

アルは西(にし)側(がわ)の椅(い)子(す)からテーブルに

前(まえ)足(あし)を置(お)いてこちらを見(み)ている。



猫(ねこ)が食(た)べられるお菓(か)子(し)は、

テーブルには置(お)いていない。



まだ幼(おさな)いイオスはわたしの太(ふと)腿(もも)に挟(はさ)まり、

食(しょく)後(ご)の膨(ふく)れたお腹(なか)を上(うえ)にして寝(ね)ている。



札(ふだ)立(た)てと呼(よ)ばれる木(もく)製(せい)の道(どう)具(ぐ)が、

わたしの目(め)の前(まえ)に置(お)かれていた。



傾(けい)斜(しゃ)が掛(か)かった状(じょう)態(たい)で自(じ)立(りつ)する板(いた)に、

札(ふだ)が立(た)てられるだけの溝(みぞ)が彫(ほ)られている。



「四(しい)時(じ)は船(ふね)の上(うえ)で貴(き)族(ぞく)が始(はじ)めた、

 商(しょう)人(にん)との商(しょう)談(だん)を真似(まね)た札(ふだ)遊(あそ)び、

 という話(はなし)はまだ覚(おぼ)えているよね。


 自(じ)分(ぶん)の土(と)地(ち)から品(しな)物(もの)になる札(ふだ)を選(えら)んで、

 組(く)み合(あ)わせたものを市(し)場(じょう)に並(なら)べて、

 相(あい)手(て)の品(しな)物(もの)より良(い)い品(しな)物(もの)を出(だ)して競(きそ)うんだよ。」



「品(しな)物(もの)っていうのが札(ふだ)?」



わたしが訊(たず)ねると、スーは頷(うなず)く。



「2枚(まい)一(ひと)組(くみ)で優(ゆう)位(い)な値(あたい)を作(つく)って、

 先(さき)に手(て)札(ふだ)を無(な)くすか、相(あい)手(て)が自(じ)分(ぶん)より

 優(ゆう)位(い)な札(ふだ)を出(だ)せなくなったら勝(か)ちだよ。


 同(おな)じ種(しゅ)類(るい)と枚(まい)数(すう)の札(ふだ)から、

 数(すう)字(じ)の組(く)み合(あ)わせを競(きそ)って

 相(あい)手(て)を包(ほう)囲(い)する遊(あそ)びだね。


 札(ふだ)の絵(え)柄(がら)を楽(たの)しむことを

 目(もく)的(てき)としたりもするけど、

 駆(か)け引(ひ)きがあった方(ほう)が楽(たの)しいから、

 基(き)本(ほん)の10巡(じゅん)ルールを覚(おぼ)えて行(い)こう。


 ニクスならすぐ覚(おぼ)えられるよ。


 このルールはとっても簡(かん)単(たん)。」



「…簡(かん)単(たん)?」



耳(みみ)馴(な)染(じ)みのない単(たん)語(ご)がいくつも並(なら)んだ。



「簡(かん)単(たん)簡(かん)単(たん)。」



今日(きょう)は来(らい)客(きゃく)の予(よ)定(てい)もなく、

スーが作(つく)ってくれた札(ふだ)を使(つか)って、

四(しい)時(じ)の札(ふだ)遊(あそ)びを教(おし)えて貰(もら)う日(ひ)になった。



「札(ふだ)の種(しゅ)類(るい)は前(まえ)に説(せつ)明(めい)したけど、

 ニクスは体(たい)調(ちょう)を崩(くず)してたから、

 改(あらた)めて説(せつ)明(めい)するね。


 0から9の数(すう)字(じ)札(ふだ)と記(き)号(ごう)を彫(ほ)った星(ほし)札(ふだ)、

 その星(ほし)札(ふだ)に関(かか)わる恐(きょう)慌(こう)札(ふだ)があるよね。」



同(おな)じ数(すう)字(じ)が書(か)かれた札(ふだ)は2枚(まい)ずつあり、

2種(しゅ)類(るい)の紋標(スート)が描(か)かれている。



星(ほし)札(ふだ)には鏃(やじり)のような絵(え)図(ず)があり、

地(ち)平(へい)線(せん)が引(ひ)かれて上(じょう)下(げ)左(さ)右(ゆう)は方(ほう)角(がく)を示(しめ)す。



先(せん)端(たん)が右(みぎ)向(む)きの鏃(やじり)が朝(あさ)、上(うえ)が昼(ひる)、左(ひだり)が夕(ゆう)、

下(した)が夜(よる)となり、太(たい)陽(よう)の位(い)置(ち)を描(えが)く。



斜(しゃ)線(せん)が交(こう)差(さ)した絵(え)図(ず)の札(ふだ)が恐(きょう)慌(こう)札(ふだ)になる。



「まず札(ふだ)の配(はい)置(ち)を教(おし)えるね。


 札(ふだ)立(た)ての手(て)前(まえ)が自(じ)分(ぶん)の土(と)地(ち)。


 相(あい)手(て)から見(み)えない位(い)置(ち)なら、

 椅(い)子(す)の上(うえ)やテーブルの網(あみ)棚(だな)でもいいよ。


 椅(い)子(す)や棚(たな)に置(お)くと動(うご)きが忙(せわ)しいから、

 今日(きょう)は優(ゆう)美(び)にその札(ふだ)立(た)てを使(つか)ってね。


 サンサがやってたみたいに、

 トレイで段(だん)差(さ)を作(つく)って隠(かく)すのもありだね。


 土(と)地(ち)には数(すう)字(じ)札(ふだ)と星(ほし)札(ふだ)、

 恐(きょう)慌(こう)札(ふだ)をとりあえず全(ぜん)部(ぶ)置(お)いて。


 自(じ)分(ぶん)の好(す)きな並(なら)びでいいよ。


 次(つぎ)は数(すう)字(じ)札(ふだ)の0を1枚(まい)、

 相(あい)手(て)から見(み)える位(い)置(ち)に置(お)いてね。」



札(ふだ)立(た)ての前(まえ)に、0と数(すう)字(じ)の書(か)かれた

札(ふだ)を出(だ)してスーに見(み)せる。



「土(と)地(ち)の札(ふだ)は見(み)せてはいけないけれど、

 これは見(み)せてもいいんだよね?」



「うん。

 2枚(まい)あるうちの0の札(ふだ)を1枚(まい)だけ。


 それ以(い)外(がい)の、

 相(あい)手(て)に見(み)せない土(と)地(ち)の札(ふだ)は、

 自(じ)分(ぶん)の領(りょう)地(ち)の資(し)源(げん)だと思(おも)ってね。


 対(たい)等(とう)な資(し)源(げん)で品(しな)物(もの)を競(きそ)っていくよ。


 土(と)地(ち)に札(ふだ)を並(なら)べて、

 準(じゅん)備(び)が整(ととの)ったら次(つぎ)の説(せつ)明(めい)をするよ。」



首(くび)を捻(ひね)りながら頷(うなず)く。



数(すう)字(じ)を左(ひだり)側(がわ)から値(あたい)の小(ちい)さい順(じゅん)に2段(だん)で並(なら)べ、

右(みぎ)端(はし)には4枚(まい)の星(ほし)札(ふだ)を置(お)く。



数(すう)字(じ)札(ふだ)と星(ほし)札(ふだ)の22枚(まい)の札(ふだ)を並(なら)べて、

0の札(ふだ)と恐(きょう)慌(こう)札(ふだ)は左(ひだり)端(はし)に上(じょう)下(げ)に並(なら)べた。



挿絵(By みてみん)



「こんな感(かん)じだったかな?」



サンサの札(ふだ)の並(なら)べ方(かた)を再(さい)現(げん)してみたけれど、

精(せい)確(かく)さには欠(か)けていた。



「次(つぎ)は並(なら)べた土(と)地(ち)から6枚(まい)を選(えら)んで、

 札(ふだ)立(た)てに並(なら)べていってね。


 そこに立(た)てた札(ふだ)が手(て)札(ふだ)になるからね。


 表(おもて)面(めん)を相(あい)手(て)に見(み)せたり、

 札(ふだ)を重(かさ)ねて枚(まい)数(すう)を隠(かく)すのもダメだよ。」



「なにを選(えら)んでも良(い)いものなの?

 選(えら)ぶ札(ふだ)の目(め)安(やす)は?」



「まずは数(すう)字(じ)札(ふだ)の真(ま)ん中(なか)あたりの値(あたい)の札(ふだ)を

 4枚(まい)と、星(ほし)札(ふだ)を2枚(まい)かな。


 手(て)札(ふだ)にした札(ふだ)を土(と)地(ち)に戻(もど)したり、

 差(さ)し替(か)えたりはできないよ。


 狡(ずる)いやり方(かた)ができるもんね。」



数(すう)字(じ)の中(ちゅう)央(おう)の値(あたい)は0を除(のぞ)けば4・5・6。



札(ふだ)には同(おな)じ数(すう)字(じ)が2枚(まい)ずつあって

同(おな)じ数(すう)字(じ)でも、札(ふだ)の左(ひだり)上(うえ)と右(みぎ)下(した)に

刻(きざ)まれた紋標(スート)は異(こと)なっている。



「この紋標(スート)になにか意(い)味(み)はあるの?」



わたしの札(ふだ)の紋標(スート)は杯(さかづき)と水(みず)瓶(がめ)に見(み)える。



「同(おな)じ数(すう)字(じ)の2枚(まい)を区(く)別(べつ)するものだから、

 紋標(スート)の柄(がら)に特(とく)に意(い)味(み)はないよ。


 でも私(わたし)から見(み)た場(ば)合(あい)に、

 紋標(スート)は逆(ぎゃく)向(む)きになって似(に)てるから

 紛(まぎ)らわしくなるよね?」



「確(たし)かに似(に)てる。


 …スーの絵(え)は?」



「これが私(わたし)の札(ふだ)ね。

 動(どう)物(ぶつ)の足(そく)跡(せき)。奇(き)蹄(てい)と偶(ぐう)蹄(てい)。


 馬(うま)や驢馬(ろば)と、羊(ひつじ)や牛(うし)だね。」



スーの持(も)ってきた数(すう)字(じ)札(ふだ)は、

四(よ)隅(すみ)全(すべ)てに紋標(スート)が描(えが)かれている。



上(じょう)半(はん)円(えん)に形(かたち)作(づく)られた馬(うま)の蹄(ひづめ)と、

先(せん)端(たん)の割(わ)れた羊(ひつじ)の蹄(ひづめ)。



これも札(ふだ)を逆(ぎゃく)向(む)きにすると、

紋標(スート)がそれとなく似(に)て見(み)える。



「綺(き)麗(れい)な札(ふだ)だね。

 これもスーが作(つく)ったの?」



「こんなに巧(うま)くは彫(ほ)れないよ。


 これはサンサが、

 知(し)り合(あ)いの『道(どう)楽(らく)者(もの)』に

 作(つく)って貰(もら)ったんだって。


 道(どう)楽(らく)にしては巧(うま)いよね。


 市(いち)場(ば)で売(う)られてても、

 おかしくない出(で)来(き)だもんね。


 制(せい)作(さく)者(しゃ)は誰(だれ)なんだろ。


 私(わたし)がこの館(やかた)に来(き)た時(とき)に、

 サンサから貰(もら)ったんだよ。


 ニクスもこの札(ふだ)を使(つか)いたくなったら、

 いつでも使(つか)って良(い)いよ。」



「わたしはこれを大(たい)切(せつ)に使(つか)うよ。」



「あはは。ありがとう。


 それはまだニスをしてないから、

 すぐに悪(わる)くなるよ。


 私(わたし)の作(つく)った札(ふだ)を比(くら)べられると、

 なんだか恥(は)ずかしいね。」



木(もく)材(ざい)の保(ほ)護(ご)には

ニスと呼(よ)ばれる樹(じゅ)脂(し)を表(ひょう)面(めん)に塗(ぬ)ることで、

細(こま)かな傷(きず)や湿(しっ)気(け)から木(き)を守(まも)れる。



舞(ぶ)踏(とう)室(しつ)で見(み)たドレイプが使(つか)う弦(げん)楽(がっ)器(き)も、

表(ひょう)面(めん)に艶(つや)の出(で)るニスが塗(ぬ)られているのは、

見(み)栄(ば)え以(い)外(がい)の理(り)由(ゆう)もあった。



「今(こん)度(ど)、手(て)入(い)れの方(ほう)法(ほう)を

 調(しら)べてやってみるね。」



「ニスなら道(どう)具(ぐ)倉(そう)庫(こ)にあったかな?


 あ、話(はなし)が逸(そ)れちゃった。」



「本(ほん)当(とう)だ。

 サンサにまた言(い)われるよ。」



サンサのいない日(ひ)陰(かげ)の庭(にわ)で、

わたし達(たち)は笑(わら)い合(あ)う。



「始(はじ)める前(まえ)に、お互(たが)いの札(ふだ)を

 確(かく)認(にん)しなくちゃいけないんだけど。


 四(しい)時(じ)は絵(え)柄(がら)を自(じ)由(ゆう)にできても、

 両(りょう)者(しゃ)の合(ごう)意(い)の上(うえ)でやるものだから。」



スーは絵(え)が描(か)かれた5枚(まい)の札(ふだ)を見(み)せる。



「スーの星(ほし)札(ふだ)は動(どう)物(ぶつ)だね。」



星(ほし)札(ふだ)の上(じょう)下(げ)左(さ)右(ゆう)の縁(えん)近(ぢか)に、星(ほし)になる点(てん)が

1枚(まい)に一(ひと)つだけ彫(ほ)られている。



点(てん)が右(みぎ)・上(うえ)・左(ひだり)・下(した)、そして右(みぎ)に戻(もど)り、

4枚(まい)の札(ふだ)で円(えん)弧(こ)を描(えが)き、天(てん)体(たい)の運(うん)行(こう)のように

星(ほし)が札(ふだ)の縁(ふち)を1周(しゅう)する様(よう)子(す)が分(わ)かる。



札(ふだ)の短(たん)辺(ぺん)には下(した)側(がわ)に横(よこ)線(せん)が彫(ほ)られ、

この線(せん)が示(しめ)す大(だい)地(ち)の上(うえ)に動(どう)物(ぶつ)が描(か)かれる。



挿絵(By みてみん)




挿絵(By みてみん)



「全(すべ)て星(せい)座(ざ)? 猫(ねこ)も?」



札(ふだ)の中(ちゅう)央(おう)に座(すわ)って佇(たたず)む黒(くろ)い猫(ねこ)の姿(すがた)。



この札(ふだ)には星(ほし)が描(か)かれていない。



「星(せい)座(ざ)は関(かん)係(けい)ないよ。


 これは恐(きょう)慌(こう)札(ふだ)だね。

 この札(ふだ)の使(つか)い方(かた)は後(あと)でするね。


 サンサが言(い)うには、

 猫(ねこ)は気(き)紛(まぐ)れだからなんだって。


 ほら、アルが描(か)かれてる。」



恐(きょう)慌(こう)札(ふだ)は太(たい)陽(よう)の位(い)置(ち)や

天(てん)体(たい)の運(うん)行(こう)に関(かん)係(けい)なく、

疫(えき)病(びょう)や天(てん)災(さい)を表(あらわ)す札(ふだ)と言(い)っていた。



アルが鳴(な)き声(ごえ)で不(ふ)満(まん)を顕(あら)わにし、

寝(ね)ていたイオスも起(お)きてそれを真似(まね)した。



「この点(てん)の位(い)置(ち)が太(たい)陽(よう)。

 この動(どう)物(ぶつ)は季(き)節(せつ)を描(えが)いた星(ほし)札(ふだ)。


 絵(え)札(ふだ)や季(き)節(せつ)札(ふだ)なんて呼(よ)んだりもするよ。


 この4枚(まい)が星(ほし)札(ふだ)ね。


 東(ひがし)から昇(のぼ)る太(たい)陽(よう)は朝(あさ)を示(しめ)して、

 牛(うし)は土(つち)を起(お)こす春(はる)の輓(ばん)獣(じゅう)だね。


 昼(ひる)は羊(ひつじ)になるよ。

 夏(なつ)になればもうすぐ毛(け)刈(が)りが始(はじ)まるよね。


 馬(うま)は夕(ゆう)刻(こく)。

 沈(しず)む日(ひ)を追(お)いかける秋(あき)の姿(すがた)かな。」



「夜(よる)の兎(うさぎ)は雪(ゆき)?」



「厳(げん)寒(かん)の冬(ふゆ)でもおいしいからね。」



「なにそれ。」



スーが言(い)って笑(わら)ったので、わたしも笑(わら)った。




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