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金貨の娘  作者: 美穂
第8章 泥濘の澱

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第8章 第2節 シルクの綻(第2項)

挿絵(By みてみん)



わたし達(たち)が見(み)ていた店(みせ)の近(ちか)くで、

突(とつ)然(ぜん)ハンドベルが鳴(な)らされて、

広(ひろ)場(ば)にいる人(ひと)々(びと)の視(し)線(せん)が音(おと)の方(ほう)向(こう)に集(あつ)まる。



店(みせ)先(さき)にはカヴァの刃(は)物(もの)が大(たい)量(りょう)に並(なら)んでいて、

騎(き)士(し)の長(ちょう)剣(けん)、料(りょう)理(り)包(ほう)丁(ちょう)と解(かい)体(たい)用(よう)で使(つか)う鉈(なた)、

果物(くだもの)用(よう)の小(ちい)さなナイフまで揃(そろ)えられている。



店(てん)主(しゅ)はよく通(とお)る太(ふと)い声(こえ)で、

「絶(ぜっ)対(たい)に錆(さ)びない包(ほう)丁(ちょう)だ。」と嘯(うそぶ)く。



わたしは店(みせ)先(さき)に掲(かか)げられた

営(えい)業(ぎょう)許(きょ)可(か)証(しょう)を見(み)て、首(くび)を捻(ひね)った。



退(たい)化(か)の科(か)学(がく)論(ろん)に書(か)かれた遙(よう)遠(えん)代(だい)の技(ぎ)術(じゅつ)は、

非(ひ)常(じょう)に高(こう)度(ど)で製(せい)法(ほう)も複(ふく)雑(ざつ)な為(ため)、

再(さい)現(げん)が困(こん)難(なん)になる。



金(きん)や白(はっ)金(きん)だけで作(つく)れば

絶(ぜっ)対(たい)に錆(さ)びないかもしれないけれど、

柔(やわ)らかく包(ほう)丁(ちょう)としての機(き)能(のう)は期(き)待(たい)できない。



金(きん)も白(はっ)金(きん)も量(りょう)の限(かぎ)られる金(きん)属(ぞく)なので、

価(か)格(かく)は高(たか)くなる。



厨(ちゅう)房(ぼう)で使(つか)う鋼(はがね)の包(ほう)丁(ちょう)は、

鉄(てっ)鉱(こう)石(せき)に乾(かん)留(りゅう)した石(せき)炭(たん)を使(つか)って熔(と)かして、

水(みず)や空(くう)気(き)などを取(と)り除(のぞ)いて精(せい)錬(れん)していく。



鋼(はがね)でも空(くう)気(き)や水(みず)と結(むす)びつくと錆(さ)びてしまう。



人(にん)間(げん)が吸(す)った空(くう)気(き)は肺(はい)を通(とお)り、

血(けつ)液(えき)の中(なか)に鉄(てつ)を含(ふく)んだ細(さい)胞(ぼう)が、

空(くう)気(き)と結(むす)びついて身体(からだ)中(じゅう)を巡(めぐ)る。



その為(ため)『銅(どう)貨(か)の味(あじ)』と言(い)われている血(ち)は、

血(けつ)液(えき)に含(ふく)まれる鉄(てつ)の錆(さ)びに関(かん)係(けい)する。



人(にん)間(げん)や他(ほか)の動(どう)物(ぶつ)の血(ち)の色(いろ)は、

鉄(てつ)錆(さび)によって赤(あか)く見(み)える。



軟(なん)体(たい)動(どう)物(ぶつ)の蛸(たこ)や魷(いか)の血(ち)には、

鉄(てつ)ではなく銅(どう)が含(ふく)まれているらしく、

緑(ろく)青(しょう)と同(おな)じように青(あお)に見(み)えるという。



血(ち)を浴(あ)びた刃(は)物(もの)は錆(さ)びやすくなる

と、本(ほん)にもよく書(か)かれている。



錆(さ)びは水(みず)と空(くう)気(き)と金(きん)属(ぞく)によって発(はっ)生(せい)し、

身(み)近(ぢか)に存(そん)在(ざい)する現(げん)象(しょう)の一(ひと)つ。



金(きん)属(ぞく)が錆(さ)びつく現(げん)象(しょう)を『酸(さん)化(か)』と呼(よ)び、

乾(かん)留(りゅう)した石(せき)炭(たん)を使(つか)って高(こう)温(おん)で熱(ねっ)せば、

炭(たん)素(そ)と空(くう)気(き)が結(むす)びついて『還(かん)元(げん)』される。



館(やかた)の厨(ちゅう)房(ぼう)で使(つか)い終(お)えた包(ほう)丁(ちょう)は血(ち)や脂(あぶら)などの

汚(よご)れを拭(ぬぐ)い、洗(せん)洗(ざい)を使(つか)って洗(せん)浄(じょう)し、

水(みず)を拭(ふ)き取(と)ってから油(あぶら)を塗(ぬ)っておく。



金(きん)属(ぞく)を錆(さび)から防(ふせ)ぐにはガラス鏡(かがみ)のように、

空(くう)気(き)や水(みず)から守(まも)る膜(まく)を作(つく)る必(ひつ)要(よう)がある。



包(ほう)丁(ちょう)を油(あぶら)に漬(つ)けておき、

水(みず)や空(くう)気(き)に触(ふ)れさせずに使(つか)わなければ、

店(てん)主(しゅ)の言(い)う錆(さ)びない包(ほう)丁(ちょう)になる。



しかし油(あぶら)自(じ)体(たい)が酸(さん)化(か)するので、

この方(ほう)法(ほう)も絶(ぜっ)対(たい)とは言(い)い切(き)れない。



観(かん)賞(しょう)用(よう)では包(ほう)丁(ちょう)としての定(てい)義(ぎ)も怪(あや)しい。



こんな誇(こ)張(ちょう)でも騙(だま)されるひとは多(おお)かった。



刃(は)毀(こぼ)れしたものや先(さき)の欠(か)けたものが、

テマッサと同(おな)じ5ルースで安(やす)く売(う)られた。



錆(さ)びない包(ほう)丁(ちょう)を求(もと)めて、

店(みせ)の前(まえ)に人(ひと)々(びと)が群(むら)がる。



群(ぐん)衆(しゅう)に押(お)されたわたしは、

二人(ふたり)と逸(はぐ)れてしまった。



「あれ? トリン? どこ?」



「ここ。こっち。」



しばらく探(さが)していたのに、

彼(かの)女(じょ)はわたしの後(うし)ろに立(た)って、

乱(みだ)れた帯(おび)布(ぬの)を直(なお)している。



「わっ、そっち?

 逸(はぐ)れたのかと思(おも)ったわ。


 ムネモスは見(み)た?」



「あそこに居(い)るでしょ。」



「ムネモス!」



「あ、はぁい。見(み)てください。これ。」



「おいっ! ガキぃっ!」



ムネモスが銅(どう)の浮(う)き彫(ぼ)り細(ざい)工(く)を掲(かか)げた途(と)端(たん)、

後(うし)ろの男(おとこ)に腕(うで)を捕(つか)まれてしまった。



「えっ?」



「待(ま)って!」



わたしは叫(さけ)び、急(いそ)いで駆(か)けつけた。



「なんだぁ? 盗(とう)賊(ぞく)の仲(なか)間(ま)か?」



「違(ちが)うわよ。夜(よる)の館(やかた)の者(もの)よ。」



「夜(よる)のぉ? 赤(あか)土(つち)の娼(しょう)婦(ふ)か?」



男(おとこ)は街(まち)の商(しょう)人(にん)をしている店(てん)主(しゅ)らしく、

館(やかた)の名(な)前(まえ)でこちらの所(しょ)属(ぞく)を理(り)解(かい)してくれた。



巨(きょ)体(たい)の店(てん)主(しゅ)は貴(き)族(ぞく)病(びょう)のように太(ふと)っていて、

首(くび)周(まわ)りの肉(にく)がキャシュクの襟(えり)から出(で)ている。



挿絵(By みてみん)



店(てん)主(しゅ)の毛(け)深(ぶか)い腕(うで)と太(ふと)い指(ゆび)が、

ムネモスの柔(やわ)い腕(うで)を握(にぎ)り捻(ね)じると、

彼(かの)女(じょ)は悲(ひ)鳴(めい)を漏(も)らした。



「彼(かの)女(じょ)は館(やかた)のフランジよ。

 その手(て)を離(はな)しなさい。」



「フランジぃ?

 どうせ元(もと)は盗(とう)賊(ぞく)のガキだろうがっ。」



夜(よる)の館(やかた)の名(な)前(まえ)を知(し)っている相(あい)手(て)でも、

子(こ)供(ども)ばかりでは館(やかた)の持(も)つ威(い)信(しん)は通(つう)じない。



――わたしがフランジの

  小(こ)娘(むすめ)だからなのね…。



「なんだこいつ。

 その汚(きたな)い手(て)をさっさと離(はな)せ。」



「ダメよトリン。

 グゥグス! ウント!」



護(ご)衛(えい)の二人(ふたり)を呼(よ)びつけた。



わたしは身(み)分(ぶん)証(しょう)を持(も)っておらず、

この場(ば)には後(こう)見(けん)人(にん)も居(い)ない。



騒(さわ)ぎを解(かい)決(けつ)できる正(せい)統(とう)な手(しゅ)段(だん)がない。



「お! 喧(けん)嘩(か)かぁ?

 いいぜ! オレがやってやらぁ!」



「しないわよっ!


 勘(かん)違(ちが)いしないでっ。」



ウントは人(ひと)混(ご)みの中(なか)で剣(けん)を抜(ぬ)きかけ、

騒(さわ)ぎを大(おお)きくしかねない行(こう)為(い)に

わたしはすぐに手(て)を掴(つか)んだ。



商(しょう)人(にん)相(あい)手(て)に護(ご)衛(えい)が剣(けん)を抜(ぬ)いて脅(おど)せば、

問(もん)題(だい)の解(かい)決(けつ)から遠(とお)のいてしまう。



「触(さわ)んなっ、ぐぇっ!」



わたしの手(て)を叩(たた)いたウントは、

足(あし)を縺(もつ)れさせると地(じ)面(めん)に倒(たお)れて顎(あご)を打(う)つ。



グルグスは名(な)前(まえ)を呼(よ)んでも気(き)付(づ)かず、

奴(ど)隷(れい)か道(どう)化(け)に間(ま)違(ちが)われて、

また子(こ)供(ども)達(たち)に囲(かこ)われている。



いまにも泣(な)き出(だ)しそうなムネモスに近(ちか)寄(よ)り、

彼(かの)女(じょ)の胸(むね)のあいだに右(みぎ)手(て)を捩(ねじ)じ込(こ)む。



「キャッ!」



短(みじか)い悲(ひ)鳴(めい)を放(はな)つムネモスのことは気(き)にせず、

首(くび)元(もと)から下(さ)げていた袋(ふくろ)を取(と)り出(だ)した。



「わたし達(たち)は、

 書(しょ)室(しつ)に飾(かざ)るレリーフを買(か)いに来(き)たのよ。


 見(み)なさい。」



袋(ふくろ)の中(なか)から金(きん)貨(か)を摘(つま)んで見(み)せつける。



「紛(まぎ)らわしい真似(まね)しやがって!」



それでも店(てん)主(しゅ)は怒(ど)鳴(な)ってわたし達(たち)を責(せ)める。



「あなたの方(ほう)こそ、

 勘(かん)違(ちが)いして大(おお)騒(さわ)ぎしないで欲(ほ)しいわね。


 それでこれはいくら?」



「その1,000ルース金(きん)貨(か)で許(ゆる)してやる。」



「その値(ね)段(だん)なら買(か)わないわ。


 この幅(はば)のレリーフなら、

 あなたの店(みせ)の相(そう)場(ば)は

 400ルースでしょう?」



店(みせ)の前(まえ)に並(なら)ぶ、

浮(う)き彫(ぼ)り細(ざい)工(く)の値(ね)札(ふだ)を指(し)示(じ)する。



両(りょう)の手(て)のひら程(てい)度(ど)のレリーフならば、

預(あず)かった金(きん)貨(か)1枚(まい)で二(ふた)つは買(か)える。



「眼(がん)識(しき)を疑(うたが)うわね。

 これなら100ルースで買(か)ってあげるわ。」



「ガキの癖(くせ)に、生(なま)意(い)気(き)な口(くち)を利(き)くな。」



「あなたが勘(かん)違(ちが)いして騒(さわ)いだせいで、

 恥(はじ)を掻(か)かされて迷(めい)惑(わく)したのよ?」



「安(やす)過(す)ぎる。500は出(だ)せっ。」



店(てん)主(しゅ)は譲(じょう)歩(ほ)して、

こちらの付(つ)け入(い)る隙(すき)を見(み)せた。



「盗(とう)賊(ぞく)扱(あつか)いして、

 1,000ルースで騙(だま)す腐(ふ)敗(はい)した店(てん)主(しゅ)なんて

 信(しん)用(よう)できないわ。


 広(ひろ)場(ば)の営(えい)業(ぎょう)許(きょ)可(か)証(しょう)を掲(かか)げてないものね。」



わたしが営(えい)業(ぎょう)許(きょ)可(か)証(しょう)の掲(けい)示(じ)を求(もと)めると、

なにかを言(い)い返(かえ)そうと口(くち)を開(かい)閉(へい)する。



許(きょ)可(か)証(しょう)を得(え)るには別(べっ)途(と)、納(のう)税(ぜい)が必(ひつ)要(よう)になる。



「い、言(い)い掛(が)かりはやめろ。

 ここにあるだろっ!」



店(てん)主(しゅ)は店(みせ)先(さき)に飾(かざ)ったただの板(いた)を指(し)示(じ)する。



「許(きょ)可(か)証(しょう)が違(ちが)うと言(い)っているのよ。


 あなたはレリーフ屋(や)だもの、

 同(おな)じものを作(つく)るのは容(よう)易(い)よね。


 夜(よる)の館(やかた)の女(おんな)に価(か)値(ち)が理(り)解(かい)できない

 とでも思(おも)ってるのかしら。


 それとも望(のぞ)み通(どお)り、

 徴(ちょう)税(ぜい)人(にん)を呼(よ)びましょうか?」



口(くち)を大(おお)きく開(ひら)いて大(おお)声(ごえ)を放(はな)つ振(ふ)りをすると、

店(てん)主(しゅ)は態(たい)度(ど)を改(あらた)めて頭(こうべ)を垂(た)らした。



「いや、…せめて300は必(ひつ)要(よう)だ。」



「わたしはあなたに、

 値(ね)段(だん)を訊(たず)ねてるわけではないのよ。」



わたしは店(みせ)先(さき)の偽(にせ)の許(きょ)可(か)証(しょう)を指(ゆび)先(さき)で小(こ)突(づ)く。



「200ルースで勘(かん)弁(べん)してくれねえか。

 でなきゃ収(しゅう)支(し)が合(あ)わねえ。」



「子(こ)供(ども)を脅(おど)して騙(だま)し売(う)ろうとした行(おこな)いを

 あなたの事(じ)情(じょう)で許(ゆる)す気(き)はないわ。


 信(しん)用(よう)を得(え)たいのなら、解(かい)決(けつ)方(ほう)法(ほう)は一(ひと)つよ。


 理(り)解(かい)できるように教(おし)えてあげるわ。」



わたしは柱(はしら)に掛(か)けてある、

偽(にせ)の許(きょ)可(か)証(しょう)を取(と)り上(あ)げた。



徴(ちょう)税(ぜい)人(にん)に見(み)つかれば、

彼(かれ)は店(みせ)の営(えい)業(ぎょう)が出(で)来(き)なくなり、

裁(さい)判(ばん)所(しょ)に連(つ)れて行(い)かれる可(か)能(のう)性(せい)もある。



「150で黙(だま)ってくれっ!


 家(か)族(ぞく)が居(い)るんだっ…。」



「詐(さ)欺(ぎ)師(し)に同(どう)情(じょう)するわけないでしょ。


 さぁ、これが最(さい)後(ご)よ。


 レリーフと100ルースの交(こう)換(かん)で、

 許(ゆる)してあげると言(い)ってるのよ。


 互(たが)いの利(り)益(えき)を尊(そん)重(ちょう)してね。」



手(て)にした許(きょ)可(か)証(しょう)で台(だい)を軽(かる)く叩(たた)くと、

店(てん)主(しゅ)は目(め)を潤(うる)ませて項(うな)垂(だ)れた。



――信(しん)用(よう)はお金(かね)で解(かい)決(けつ)するのね…。



わたしは許(きょ)可(か)証(しょう)の上(うえ)に、

1,000ルース金(きん)貨(か)を置(お)いた。



徴(ちょう)税(ぜい)人(にん)でもないわたしが、

広(ひろ)場(ば)の店(てん)主(しゅ)相(あい)手(て)に

罰(ばつ)を与(あた)えられる立(たち)場(ば)にはない。



こんな強(ごう)引(いん)な交(こう)渉(しょう)手(しゅ)段(だん)でも、

罪(つみ)の意(い)識(しき)がある彼(かれ)には良(よ)く効(き)いた。



レリーフの上(うえ)に置(お)かれた

5枚(まい)2種(しゅ)類(るい)の銀(ぎん)貨(か)を、トリンに見(み)せる。



「トリン。

 これで桁(けた)は合(あ)ってる?


 500ルースと100ルース4枚(まい)。


 9ルースでもないわよね?

 本(ほん)物(もの)?」



疑(うたが)いをかけられて店(てん)主(しゅ)は頷(うなず)く。



「合(あ)ってるけれど…。」



トリンから確(かく)認(にん)が取(と)れたので、

許(きょ)可(か)証(しょう)と1,000ルース金(きん)貨(か)を店(てん)主(しゅ)に渡(わた)した。



「こんなカヴァの物(もの)なんて

 買(か)う必(ひつ)要(よう)ないわよ。」



「わたしはレリーフ1枚(まい)を

 買(か)ったわけではないのよ。」



「なにを言(い)ってるの?

 おかしな子(こ)。」



トリンがわたしを評(ひょう)したことは、

褒(ほ)め言(こと)葉(ば)の言(い)い回(まわ)しと思(おも)って聞(き)き流(なが)す。



「ムネモスも、もう泣(な)かなくていいわよ。


 あなたのおかげで、

 良(い)いものが手(て)に入(はい)ったのよ。」



銅(どう)の板(いた)には馬(うま)の駆(か)ける姿(すがた)が彫(ほ)られている。



筋(きん)肉(にく)質(しつ)で鬣(たてがみ)を風(かぜ)に靡(なび)かせる様(よう)子(す)は、

100ルースという値(ね)段(だん)ほど悪(わる)くはない。



挿絵(By みてみん)



前(ぜん)肢(し)と後(こう)肢(し)が、前(ぜん)後(ご)に伸(の)びている

奇(き)妙(みょう)な走(はし)り方(かた)をした馬(うま)のレリーフは、

元(もと)の400ルースではやや高(たか)い。



彼(かの)女(じょ)のチュニックの半(はん)円(えん)のポケットに

レリーフをしまうと綺(き)麗(れい)に収(おさ)まった。



「買(か)い物(もの)って、

 本(ほん)で読(よ)んで想(そう)像(ぞう)した以(い)上(じょう)に楽(たの)しいわね。


 おつりも手(て)に入(はい)ったし、

 これでなにか買(か)って食(た)べましょうか。


 お腹(なか)が空(す)いてきたわ。」



ムネモスの持(も)つ袋(ふくろ)におつりを戻(もど)して、

彼(かの)女(じょ)の頬(ほお)を濡(ぬ)らす涙(なみだ)を拭(ぬぐ)った。



「ごめんなさい。私(わたし)…。

 …ごめんなさい。」



彼(かの)女(じょ)は小(こ)声(ごえ)でずっと謝(あやま)っていた。



シルクのような輝(かがや)きを持(も)つ彼(かの)女(じょ)の中(なか)に、

綻(ほころ)びを見(み)つけてしまった。




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