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日記

彼女の日記

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4月3日

今日は撮影。笑顔を作るのがつらかった。

みんなは「かわいい」「すごい」って褒めてくれるけど、私にはその言葉が刃物みたいに感じる。

“私じゃない誰か”が勝手に動いてる。

本当の私は、ここにはいない。

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4月20日

久しぶりに彼と会った。

でも、少しぎこちなかった。

「大丈夫か?」って聞かれて、「大丈夫」って答えたけど、心の中ではずっと叫んでた。

助けて。

でも言えなかった。彼に迷惑をかけたくなかった。

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5月8日

撮影でキスシーン。

唇が触れる瞬間、全身が凍りついた。

終わった後、シャワーを浴びても、何度身体をこすっても、汚れが落ちない気がした。

自分の体が、自分のものじゃないみたい。

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6月1日

母から電話があった。

「あなた、もっと頑張らないと。次は主演のチャンスよ」

その声が誇らしげで、私の心には響かなかった。

母は私を娘としてじゃなく、“商品”として見てる。

電話を切った後、鏡に映る自分に「ねぇ、私は誰?」って問いかけた。

答えはなかった。

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6月17日

雑誌に水着姿が載った。

街角のコンビニに並んでいる。

レジの男の人がちらっと私のページを見たのが分かって、全身に鳥肌が立った。

“裸を見られてる”。

息ができなくて、その場を走って逃げた。

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7月5日

眠れない。

ベッドで何度も寝返りを打つ。

頭の中で彼の声が響く。

「お前は人形じゃない!」

その言葉だけが、私をまだ繋ぎ止めている。

でも同時に思う。

私は、もう人形なのかもしれない。

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7月30日

今日、台本にヌードシーンがあることを知った。

文字を見た瞬間、頭の中が真っ白になった。

震える手で事務所に「やりたくない」と言ったら、冷たく笑われた。

「覚悟が足りないんだよ」

その一言が突き刺さって、声が出なくなった。

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8月10日

撮影が終わった。

ベッドに沈められ、カメラに囲まれ、私は何度もシャッターの音を聞いた。

“全国に流れる”。

そう思った瞬間、心が砕ける音がした。

撮影後、控室の鏡を見たら、そこに立っていたのは“私”じゃなかった。

誰か知らない女が笑っていた。

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9月2日

彼と別れた。

彼の言葉ーー「もう守れない」。

分かっていたけど、胸が裂けた。

「うん」と答えた自分を殺してやりたい。

私は、本当は言いたかった。

「お願い、行かないで」

でも、言えなかった。

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9月25日

週刊誌に、私の写真が載った。

社長とホテルに入る姿。

本物なのか、仕組まれたのか、もう分からない。

でも、世間の人にとっては“真実”なんだろう。

SNSで叩かれている。

「汚い」「裏切り」

私はただの“ネタ”になっている。

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10月13日

夜、叫んだ。

「助けて! 助けてぇぇ!」

でも誰も来ない。

壁に吸い込まれていくだけ。

手首を爪で引っかいて血が滲んでも、痛みを感じない。

痛みさえも、私から逃げていく。

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11月2日

もう書く力がなくなってきた。

心が空っぽで、何も感じない。

笑うことも、泣くことも、怒ることもできない。

私はただの肉の塊。

“芸能人”という名札を貼られた、空っぽの人形。

最後に、あなたの名前を小さくノートに書いた。

「……会いたい」

声にはできなかったけど、その文字に私の全部を込めた。


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