七章 再会
クレール王国にある武器屋。そこの主人は元騎士で今は元帝国騎士の少女とともに穏やかに過ごしていた。
戦争が始まった時、二人の耳にもその知らせが届いた。
「ど、どうしよう……」
少女が旦那に尋ねる。彼は少し考えて、
「……一緒に戦おう。あいつも今頃、戦っているハズだ」
幼馴染を思い浮かべながら、青年が言うと「うん、そうだね」と少女も頷いた。
そして、二人は再び鎧を纏い、槍を握った。
それから、国境付近で帝国とともに戦っていると遠くから魔法が飛んできた。間一髪、カミツレが魔法で壁を作ったため事なきを得た。
「これは……」
ドミニクが呟くと、遠くからあの日の暗殺者集団がやってきた。アルセーヌとエドワールがシャルルとカミツレを庇うように立つ。
「シャルル様、後ろに」
「カミツレも前に出ない方がいいよ」
二人の言葉に頷き、カミツレはいつでもサポートできるように弓を持った。
(シェーン様は遠くにいる……あそこまで攻撃が来ることはないかしら……)
この大陸の魔法には、遠くまで飛ばせるものはない。海の向こうにある魔法使いが大多数を占める国ならそんな魔法もあるのかもしれないが、少なくともカミツレは見たことがない。
シェーンをほかの人達に任せ、五人で暗殺者集団に立ち向かう。あちらはフロランがいるから大丈夫だろう。
「カミツレ、どうしたらいい?」
「……魔法なら私がどうにかします。多分、魔法使いは数人……それぐらいなら大丈夫です」
事実、カミツレなら魔法の攻撃に強い。だがほかの人達は下手をすると死にかねない。それに、さっきと同じように防御の手段は持っているため自分が引き受けるのは当然だろう。
「分かった、そちらはお前に任せる」
「僕達は他の奴を倒す、ですね」
そうやって役割を分けて、動き出す。
カミツレが弓を放つと、魔法が彼女に一斉に飛んでくる。何とかそれを耐え、カミツレが魔法使い達に向かってさらに弓矢を放った。
同時に、アルセーヌとドミニク、シャルルがほかの人に素早く近付き、斬り捨てる。その背後からエドワールが応戦した。
さらに、ほかの人達もこちらに駆け寄ってきて一緒に戦う。どうやらあちらの軍が一時撤退したようだ。
「何をすればいい?」
シリルに聞かれ、カミツレが「シェーン様を守っていてくれる?」と答えた。エクトルは兄の隣に立って弓を放った。
ドミニクとアメリーも槍で戦い、ジュストは紳士的な対応でシェーンを庇う。
「カミツレ、大丈夫か?」
フロランに聞かれ、カミツレは頷く。
カミツレはボロボロになっていた。あんなに攻撃を受けたにしては軽い怪我だが、それでもほかの人より酷い。
「大丈夫です、この程度なら祖父のしごきの方がきついので」
しかしあっけらかんとカミツレが答える。実際、ブラーヴの課した鍛錬の方が何倍もきついのだ。
「あいつは孫娘にどれほどの鍛錬を課したんだ……」
それにはフロランも苦笑するしか出来ない。確かにブラーヴは鍛錬させる時、絶対に手加減しないがそこまでだとは。
そのまま、カミツレも合流する。シャルルが一瞬ギョッとしたが、すぐに目の前の敵を見た。そこにいた人物に、全員が目を見開く。
「……セシリア」
そう、かつての仲間の姿。カミツレは一瞬ためらったが、その後ろにいた暗殺者達に矢を放って危険を取り除く。
「……カミツレ。ごめんなさい。でも、私はあの人の命令に背いたら……」
彼女は目を伏せながら、ギュッと持っていたナイフを握り締めた。
「セシリア、一度そのナイフを置いて。話をしましょう?」
カミツレの言葉に、「……無理ですよ、私は……」と震える声で呟いた。彼女は、何かに怯えていた。
それを見て、カミツレは自ら武器を地面に投げる。後ろから「カミツレ!?」と声が聞こえてくるが、彼女は気にしない。
「……これならいいかしら?」
「……わかり、ました……」
その行動にセシリアもナイフを置いて、カミツレに近付いた。ドミニクがカミツレに近付こうとするが、それに気付いた彼女に止められた。
「大丈夫よ、兄様だけでも守るわ」
「それは、どういう……」
聞こうとするが、気にせずカミツレもセシリアに近付いた。
「……ねぇ、教えて。あなたは、誰に指示されたの?」
「……答えられません」
「なぜ?脅されているの?」
「…………」
カミツレが一つ一つ質問していくが、彼女が答えようとしない。……それでも、構わなかった。
「無言は肯定とみなすわ。……セシリア、本当は私達と一緒に過ごしたかったんでしょう?」
「……そんなことは……だって、私は人形……」
「なら、なんで泣いているの?あなたは人形じゃないわ、私達と同じ人間よ」
カミツレのその言葉に何かが切れたのか、セシリアは置いたはずのナイフを拾って襲い掛かってきた。
「私だって、本当は……っ!ほん、とは……っ!」
涙を、流しながら。
シャルルがその凶器に刺される直前、カミツレがセシリアを抱きしめた。たった一瞬のことなのに、時間がゆっくり進んでいるように感じた。
「……あ、あ……」
いち早く状況に気付いたセシリアは呆然とする。それもそのハズ、彼女の手に何かが伝う感覚があったから。
カミツレの腹部から、赤いしみが広がって赤い液体が地面に落ちていく。
「かみ、つれ……?」
シャルルが絞り出すような声で名前を呼んだ。この嫌な鉄のにおいは、嫌でも鼻にかすむ。
「……もう、いいの。苦しまなくて」
それでもカミツレは、セシリアに言い聞かせるように告げた。
「ごめんなさい、私、あなたが泣いていることを気付いていたのに……目をそらしてた。あの時、手を差し伸べていたらあなたを助けられたかもしれないのに……」
カミツレの懺悔に、セシリアは震える腕で彼女を抱きしめた。
「い、いや……っ」
「……謝るから、戻ってきて……」
その言葉とともに力が抜けたのか、セシリアに倒れ込む。
「カミツレっ!」
「待ってろ、すぐ処置する……っ!」
「ぬ、布!早く持ってきて!」
目を閉ざしているカミツレは息も絶え絶えで、このままだと命はないだろう。先輩騎士達が必死に処置をしているがそれでも助かるか……。
同僚達もセシリアも、涙を流しながら先輩達に協力する。しかし、それもむなしくカミツレの身体が冷たくなっていった。
「まったく……この子は相変わらずだね」
その時、女性の声が聞こえてきた。ハッと顔をあげると、そこには不思議な服を着た茶髪の女性と銀髪の青年が立っていた。
「アポイナ、早くしないと」
「そうですね、ブーセ」
誰だろうと目を丸くしていると、女性が横になっているカミツレに近付き、手をかざす。すると淡い光に満ち、傷が癒えていった。
「……ん……」
カミツレが薄く目を開くと、「あなたはまだ死んだらダメだよ」と女性が告げた。
「……あなた達は?」
「ボク達のことはどうでもいいよ。……君には、この大陸を平和にするって役目があるんだから。ちゃんと兄を支えてあげるんだよ」
カミツレが尋ねるが、銀髪の青年は笑うだけで答えてはくれない。
「行きましょう、ブーセ。彼女を助けに来ただけですから」
「そうだね、アポイナ」
そう言って、二人はそのまま去っていく。呆然としていると、「……もしかして」とシェーンが呟いた。
「さっきの方達、アポイナ様とブーセ様じゃ……?この大陸の守り神の……」
「そう、かもしれないね。名前も同じだったし、少なくとも普通の人間じゃないと思う」
シャルルも頷く。その間にカミツレが起き上がり、「一体、何が……」と首を傾げていた。
「よかったぁ!」
アメリーが泣きながらカミツレに抱き着く。そのぬくもりがなくなりそうになっていたと思うと怖かった。
「大丈夫よ、アメリー」
「死ぬところだったのよ!?本当に怖かったんだからぁ……!」
泣き止まないアメリーにカミツレが困ったようにしていると、「じ、実際そうですよ」とエクトルが続けた。
「ほ、本当に死んじゃうんじゃないかって思ったんですから……!」
「エクトル、泣きすぎだよ。でも本当に無茶はしたらダメだって言ったでしょ」
「いたっ」
いつかと同じようにエトワールがデコピンする。カミツレは額をさすりながら「ごめんなさーい……」と謝る。
「まったくだ。……セシリア、あとでお前に話がある」
アルセーヌがセシリアに声をかけると、彼女は怯えながらコクッと頷いた。そして、カミツレの方を見る。
「……あの、カミツレ……」
「どうしたの?」
あの時と変わらない彼女が少し恐ろしく見える。それに気付いたのか、カミツレは背中を合わせて座った。
「……よかった。これで戻ってこなかったらどうしようかと思ったわ」
「死ぬ気、だったんですか?」
「まさか。本当に最終手段だったよ、それは。私だってまだやることあるし、こんなところで死ねないわ」
その言葉にホッとする。彼女なら、自分の命を捨ててでもおかしくない。だからこそ、分からなかった。
「……私、本当に酷いことをしたんですよ。あなたに許してもらう資格なんて……」
「それは私が決めることよ」
不安げに呟くと、カミツレがはっきり答えた。
「ごめんなさい」
「え……?なんであなたが謝るんですか……?悪いのは、私なのに……」
「さっきも言ったけれど私、本当は気付いていたの。あなたが、苦しんでいるって。……でも、そんなわけないって目をそらしてた……」
カミツレの後悔に、セシリアは声を出せなかった。
「怖かったの、真実を見ることが。まだ子供だったのよ」
「そんなこと……」
「実際、そうよ。……恥ずかしいけど、私みんなのことが本当にうらやましかったの」
「そうなんですか?」
「えぇ。……みんな年上だし、私は女で、兵士達からも子ども扱いされるし。私より経験も多くて焦っちゃって……でも、真実だけはいつも見えてて……早く大人になりたかったのよ。だから誰よりも鍛錬して、勉強も頑張ったの」
子供でしょ?とカミツレは困ったように笑う。
意外だった。彼女は誰よりも大人びていて、誰よりも自由で憧れの存在だったから。
「……分かってるの、年齢も性別も、誰よりも経験が少ないことも仕方ないって」
「そう、ですね。そればかりはどうしようも出来ないです」
「だから、背伸びしないようにするわ。生きていたら嫌でも大人になるんだもの」
いたずらっぽく笑うカミツレに、心が軽くなった気がした。
その日の夜、セシリアが天幕に向かうとアルセーヌとフロラン、シャルルが既にいた。
「そこに座ってくれる?」
「……はい」
シャルルに言われ、セシリアは空いている席に座る。処刑されても仕方ない、と思っていた。
「本来なら、シャルル様を暗殺しようとしたのは死罪だ」
「……はい、分かっています」
「だが、シャルル様とカミツレ……王女からの恩情だ。罪に問うまい」
「……え?」
しかし、そう言われると思っていなかったセシリアは目を丸くする。
「でも、何も罰を与えないわけにもいかない。……だから、これからは自分で考えなさい。死ぬことは許さない。きっとそれが、君への最大の罰だと思うから」
「……はい」
シャルルの言葉に、セシリアはコクッと頷いた。そのあと、アルセーヌが口を開く。
「カミツレ、ずっとお前を心配していたぞ」
「彼女が……」
「あぁ。……だからあいつと話してこい。あいつは俺達以上にお前の帰りを待っていた」
アルセーヌのその声は優しかった。
天幕から出て、カミツレのもとに向かうと彼女は一人で歌っていた。
「カミツレ……」
「あ、お説教は終わった?」
声をかけると、彼女は振り返って笑う。セシリアは隣に立ち、
「……なんで私をそんなに気遣ってくれるんですか?」
気になっていたことを尋ねた。
実際、カミツレは従騎士の時からずっとセシリアのことを気にかけていた。軍師志望だから、という理由だけではない気がする。
その質問にカミツレは微笑んで、
「やっぱり覚えていないのね、アイビー」
そう言った。それと同時に、セシリアの頭に幼い頃の記憶が流れた。
「……あ、もしかして、あの時の……」
セシリアが言葉を選んでいると、カミツレは紙袋から何かを取り出した。
「これ、あげる。懐かしいでしょ?」
――それは、幼い時一緒に食べたカップケーキだった。
一口食べてみると、あの時と同じ甘さが口に広がった。
「……おいしい……」
「えぇ。……あとでシャルル様達にも渡しに行こうかしら」
クスクスと笑う幼馴染にセシリアは今度こそ、救われる気分だった。
「……私、死にたかったんです」
セシリアが口を開くと、カミツレは静かに聞いてくれた。
「城で見たあの絵、覚えています?」
「えぇ。あのきれいで悲しい絵よね」
「はい。……あなたから、あれが死者の絵だと聞いた時……あんなふうに、きれいに死にたいって思ったんです。暗殺者の私は、いずれ無惨に殺される……それが、分かっていたから」
ギュッと、拳を握る。
「……あんなふうに、苦しまずきれいなまま、死にたいって思ったんです」
そこまで聞いたカミツレは、その拳に手を重ねた。
「……そうね、私もその方がいいわ」
その返答に、セシリアは彼女の方を見た。
「でも、それじゃダメなのよ。どんなに苦しくても、命を絶つことは許されない。死んでいった人達のためにも……私達が生きて生きて生き続けていかないといけないの。死ぬその瞬間まで、ね」
セシリアを見つめるその瞳は、寂しさを宿していた。
二人は、劇場で出会った。
カミツレが一人で歌の練習をしていると、迷い込んだセシリアが声をかけてきたのだ。
「あ、あの……」
「どうしたの?」
「その……こ、ここはどこ、ですか……?」
不安げなセシリアを見て、カミツレは自身の母親を呼んだ。丁度休憩時間だったサルビアはすぐにやって来て、
「お母さんはどこにいるか分かる?」
などと聞いていた。
「名前は?」
そう聞かれた時、セリシアはとっさに「アイビー」と名乗った。名前を名乗ってはいけないと教えられていたから。
それから、二人はよく遊ぶ仲になっていた。あの事件が起こるまでは。
「カミツレ、なんでセリシアを庇うの?」
次の日、アメリーに聞かれキョトンとする。
「急に何?」
「だって私達を……シャルル様を裏切ったのよ?それなのに……」
「だってあの時と変わっていないもの、セシリアは」
紅茶を飲みながら、カミツレは答える。
実際、セシリアはカミツレが覚えているあの時と何一つ変わっていない。
「……ふぅん……でもやっぱりあたしは信用出来ないわ」
「仕方ないんじゃない?私もアメリーの立場ならすぐに信用出来ないもの」
アメリーが苦い顔をする。本当にカミツレの考えていることが分からない。
「あ、あの……」
セシリアがカミツレに声をかけると、アメリーが睨みつけた。
「す、すみません……」
それを見たセシリアはまた後で話そうとすぐに立ち去ろうとした。
「大丈夫よ、それよりどうしたの?」
しかしカミツレはアメリーを制してセシリアに尋ねた。それを見て彼女はギュッと拳を握って、
「その……私を前線に出してくれませんか?」
そう、頼み込んだ。ふむ、とカミツレは考え込む。
「でも、セシリアは魔法が得意なのよね?後方支援の方が向いていると思うのだけど」
「そうかもしれませんけど……私は捨て駒も同然です。だから盾役にいいかと思って……」
「セシリア」
カミツレから名前を呼ばれ、ビクッと震える。
「戦争は盤上遊戯じゃないのよ。一人一人が大事な命なの」
そこまで言って、カミツレは一つため息をついた後アメリーの方を向いた。
「……ごめんなさい、少し席を外してくれないかしら?」
「え、なんで……」
「あまり聞きたくないことだと思うから。セシリアと話をしないといけないしね」
「……分かったわ」
アメリーが席を外すと、セシリアを隣の席に座らせる。
「セシリア、あなたはまだ分かっていないのね」
「……ごめんなさい」
「謝ってほしいわけじゃないのよ、きっとあなたの過ごしてきた環境が悪かったの」
だからこそ、教えないといけない。
「確かに戦争は、いろんな人の命が奪われるわ。兵士達はもちろん、民だって犠牲がまったくないと言い切れない。でも、だからって人の命をつぶしていくのは間違っているの」
「…………」
「何のために私が軍師として策を立てているか分かる?」
「……主君を、守るため?」
セシリアが小さく答える。
「もちろん、それもあるわ。でも、それ以上に犠牲を減らすためよ。敵の兵力を調べて、地形を確認して……そうやって主君や仲間達を、そして民を守るの」
そこまで言って、一息つく。そしてセシリアを見た。
「私からしたら、あなたも守らないといけないの。誰に言われたのか分からないけど、あなたを悪く言う人なんて気にしたらダメよ」
「そうだね」
後ろからエドワールの声が聞こえてきた。ビクッとセシリアが震える。
彼もカミツレの隣に座り、セシリアを見た。
「セシリアだって、大事な仲間だよ。少なくとも僕はカミツレの意見に賛成するかな」
「エドワール殿……」
「大丈夫、僕達が味方でいてあげるから。だから自分が犠牲になるなんて、そんなことは考えないで」
「……はい、ありがとうございます」
一緒に過ごした先輩にも言われ、セシリアは涙を浮かべながら笑った。
それを、陰ながら聞いていた人がいた。
いつ攻め込んで来るか分からないため交代で夜番をしているとアルセーヌが「今の夜番はカミツレか」と声をかけてきた。
「はい、そうですよ。アルセーヌ殿はまだでしたよね?」
「眠れなくてな……」
彼が隣に座る。どうやら一緒にいてくれるようだ。
「休んだ方がいいんじゃないですか?」
「俺は慣れているから平気だ。……なぁ」
アルセーヌが呼びかけると、カミツレは「どうしました?」と彼の顔を見る。
彼の瞳はいつにも増して真剣なものだった。緊張して背が伸びてしまう。
「こんな中で言うことではないと思うが……お前のことを好いているんだ」
その言葉にカミツレはキョトンとする。何を言われたのか分からなかったが、頭の中で理解していくとみるみるうちに顔が赤くなっていった。
「え、あ、え?」
「そこまで戸惑うのも無理はない。ゆっくり考えてくれていいさ」
そう言って笑うアルセーヌにカミツレは考える。
彼は頼りになる先輩だ。強くて、カミツレの目からしてもかっこよくて……。
「……私も、好きです」
気付けば、そう答えていた。それにアルセーヌも驚いて見ていた。
「……無理はしなくていいんだぞ」
「そんなわけないですよ。本当に、尊敬出来る先輩なんです」
カミツレが頭を乗せる。その行動に彼も肩を抱き寄せる。
「し、しばらくは内緒にしておきましょうね」
「あ、あぁ。そうだな……」
恥ずかしさで顔を赤くしながら、二人は頷きあった。
朝、起きてくるとシェーンが「おはよう、カミツレ」と挨拶をした。
「おはようございます、シェーン様」
隣に座ると、彼女は寂しげな顔を浮かべる。
「……早く、この戦争が終わったらいいのに……」
それに、カミツレも頷いた。
この戦争が終わったら、シャルルとシェーンは結婚するのだろう。今から二人の晴れ姿を見るのが楽しみだ。
「……あら?あの二人は……」
シェーンが遠くを見て首を傾げる。遠くから、男女がそれぞれ馬に乗ってきていたのだ。
「お久しぶりです、シェーン様」
「ジルベール?それにマドレーヌも。来てくれたの?」
「あの、お二人は……?」
この様子を見る限り、知り合いなのだろう。カミツレが尋ねると、シェーンが答えてくれた。
「彼はジルベールよ、元騎士なの。彼女がマドレーヌで、オノリーヌとリリアーヌの妹で彼のお嫁さんよ」
「そうなんですね。初めまして、カミツレと申します」
「初めまして、俺はジルベールだ。アルセーヌが何かやらかしてないか?」
「え、アルセーヌ殿が、ですか?」
突然出てきた恋人の名前に首を傾げる。それにフフッと彼は笑った。
「あいつと同期なんだ、幼馴染でね。あいつは身体を動かす方が得意だからね」
「あ、そうだったんですね。いい先輩ですよ」
「そうなんだ!あ、あたし達は今商売をしているんだ。でも今、シャルル様達が大変だって聞いていてもたってもいられなくて」
そんな話をしていると、「お、ジルベールか?」とアルセーヌが駆け寄ってきた。
「よう、久しぶり」
「あぁ。駆けつけてくれたのか?」
「もちろんだ、国が大変だって時にジッと見ていられないからな」
幼馴染だというのは本当なのだろう、仲良さげに話す二人に少しモヤモヤしていたが気にしないことにした。
「マドレーヌ、お姉さん達と話してきなよ」
「うん、そうするね」
ジルベールに言われ、マドレーヌは姉達のもとに向かう。
「昔からお前はモテ男だったな」
「そんなことないって。アルセーヌもかなりいい奴だと思うぞ?俺がいた時から意外とお前を気にしている女性がたくさんいたぞ」
「興味ないな。俺は本当に愛した、添い遂げる相手が一人いればいい」
「お前らしい」
そう言い切ってしまうアルセーヌにジルベールも笑う。彼の視線の先にはカミツレが映っていた。




