三章 王女から騎士になる決意
アルセーヌが書類を見ていると、エドワールが声をかけてくる。
「アルセーヌ殿、仕事ですか?」
「ん?あぁ、それもあるが従騎士のことを知りたくてな。フロラン殿に頼んだんだ」
その言葉で、彼が持っているのは従騎士達の情報だと気付く。
「……あ、カミツレ、魔法が使えるんですね」
「そうみたいだな。特に光魔法が得意らしい」
そこから、話はカミツレのことになっていく。
「……彼女、どうやら男性が苦手らしいんです」
「そうなのか?」
「はい、どうやら僕達のことは大丈夫みたいですけど……」
「……そうか。それならいいが」
アルセーヌが考えるようにしているとエドワールが「本当にカミツレのことを気にしているんですね」と笑った。
「あいつは俺が見てきた中で特に優秀だからな。それにおごらず、鍛錬を続けているから支えてやりたいんだ。ああいう奴ほど、騎士にしてやりたい」
「アルセーヌ殿がそこまで言うなんて珍しいですね」
「そうか?俺は当然のことをしているだけだが」
事実、彼は実力のない者、誠実でない者は容赦なく落としていく。そんな彼がそこまで言うのは本当に珍しい。
(……本当に、彼女のこと……)
そんなことを思ったが、きっと気付いていないだろうとエドワールはこれ以上何も言わなかった。
あの夜以降、カミツレのそばには誰かしらつくようになってしまった。
「……あの、シリル?気にしなくていいのよ」
隣に立っている意外と誠実な青年に声をかけるが、彼は首を横に振った。
「いーや、絶対にダメだ。ドミニクもエクトルもお前を一人にさせないって言っているしな」
「あれは結構特殊で」
「一人にしてたらぜってー怪我するだろ」
……何を言っても聞き入れてくれない。
先輩騎士達は仕事で忙しいためそんなことはしてこないが、暇な時は一緒に過ごしてくれるようになった。そのおかげで仲良くはなったが……。
(な、なんか複雑ぅ……)
大事にしてくれているのは分かるが、そこまで過保護にしなくても……とも思う。
しかし、あの女性は少し目を離したすきに逃げ出したと聞いているため甘えることにした。
夜、城の中を歩いているとセシリアが立っていることに気付いた。
「どうしたの?」
カミツレが声をかけると、彼女は目を丸くしていた。
「あ、その……絵画を見ていたんです」
「絵画?」
そう言ってセシリアが見ていた方を向くと、確かに美しい女性の絵が飾られていた。
「本当ね」
「えぇ、きれいで……」
「……でも、少し悲しいわね」
カミツレの言葉に今度はセシリアが彼女の方を見た。
「この人ね、水の中で亡くなっているみたいよ。美しいけれど、寂しい絵なの」
「そうなんですか?」
「えぇ。殺されたのか自ら身を投げたのか分からないけれどね。……どこかの物語の結末を描いた絵なんだって」
その説明にセシリアは物憂げな瞳を浮かべていた。
数日後の朝、カミツレが剣の手入れをしていると、セリシアに「あの、カミツレ」と声をかけてきた。
「どうしたの?」
「その、この小隊に入りたいって人がいるんです。いいですか?」
「私はいいけど……どうして?」
「実は……その人の小隊の人達が逃げちゃったみたいで……困っているみたいなんですよ」
それならと頷くと、「よかったです」とセリシアは笑った。
そのあと、彼女は一人の女性を連れてきた。
「あなたがこの小隊の隊長?」
「えぇ。カミツレよ、よろしく」
「あたしはアメリー。よろしく、隊長」
少し強気な人だなぁ、と思ったが仲間が増えるならそれに越したことはない。戦略も増えるだろうと笑った。
その日、親交を深めるためにアメリーを含めて話をすることにした。
「アメリーは槍が得意なのね」
カミツレが紅茶を準備しながら聞くと、「えぇ」と彼女は頷いた。
「しかし、まさかほかの隊から人が来るとはな」
「みんな逃げ出しちゃったのよ、それで困っていたらセシリアが誘ってくれてね」
ありがとう、とアメリーにお礼を言われ、カミツレは「いいのよ、こういう時がお互い様だもの」と答えた。
それからしばらくして、最終試験の日になった。相手は今まで実技の教官だったアルセーヌ。
「さぁ、俺を倒して見せろ!」
それを聞きながら、カミツレは周囲を確認する。
弓兵が隠れられそうな木々、通り抜けられない川辺……。
(こっちが不利かも……)
しかし、この状況から勝たなければ騎士になることが出来ない。さて、どうするか……。
「カミツレ、どうしたらいいかしら?」
アメリーがカミツレのところに来て、尋ねてきた。
「そうね……正直、木々から攻撃されるかもしれない。そうなると……」
カミツレの呟く声が聞こえ、アルセーヌは口の端をあげる。
「……さすがだな」
そして、聞こえないほどの声で呟いた。
実際、潜伏兵がいるのは確かだ。新米騎士ならそこまで頭が回らず、無理やり攻めてくる小隊が多い。そんな中、そこまで見抜くことが出来るとはやはり軍師の才もあるだろう。
「……決まったわ」
カミツレが頭の中で作戦を固める。
「みんなは先に進んで。私は後ろを追うように行くわ」
「……?分かった」
隊長の指示に首を傾げつつ、全員が先に進んだ。エドワールとシェーンは知っているからか、口をはさんではこなかった。
カミツレが耳を澄ましながら歩いていると、カサッと少しだけ木が揺れるような音が聞こえた。
同時に、カミツレが隠し持っていた魔導書を持つ。そして、雷魔法を放った。
(本当は最終手段だったけど……)
まぁ、仲間内なので知られる分には構わないだろうと判断した。
「おっと……そういえば、カミツレは魔法もある程度使えるんだったな」
フロランから渡された書類を思い出しながら、アルセーヌはなおも余裕そうに笑っていた。
アルセーヌ自身は騙し討ちなど嫌っているため、これ以上の下手な仕掛けはしていない。あとは正々堂々と戦うだけだ。
ほかのメンバーが兵士と戦っている間、カミツレがアルセーヌの前に立つ。
「さぁ、どこからでもかかってこい」
それを聞いたカミツレは魔導書を地面に置いている。きっとここはお互い剣で戦うつもりだろう。
それなら、期待にそわねばとアルセーヌも剣を握る。アルセーヌとしては、ここから勝てる算段がいくつも浮かんでいる。
しかし、フロランの指示だ。彼女達が少し頑張って勝てるような作戦でいかねばならない。それで勝てなければ、努力不足として落とすだけだ。
(しかし……彼女にかかれば、そんなことしなくても大丈夫そうだな)
彼女は今まで担当した中で、一番の優等生だ。現に先ほども見抜いて対策してみせた。
カミツレが一歩踏み出す。アルセーヌは一歩も動かず、それを見ていた。
そのまま、剣が打ち合う音が響き渡る。最初はアルセーヌの方が優勢だったが、
(手数で攻めてくるタイプか……!)
アルセーヌは比較的すぐに決着をつける戦い方だ。それに対してカミツレは細やかに技と素早さで攻めてくる。短期戦ならアルセーヌの方が有利だが、長期戦になるとカミツレが有利になっていくのが目に見えていた。
それに、絶対に右側には立たせない。自身の視野を把握している証拠だ。
しばらくしてカミツレが、アルセーヌの剣を飛ばす。それに彼は目を丸くするが、
「……フフッ、アハハ!」
突然、嬉しそうに笑いだした。それに彼女は戸惑ったような表情を浮かべていた。
「今回の新米は本当に期待出来そうだな」
彼は剣を拾うと、カミツレの肩を叩いた。
「俺をここまで本気にさせたのはお前が初めてだ。お前は自分の弱点を知って、それを強さに持っていくだけの実力がある」
そして、そう褒めてくれた。それにカミツレは頬を染める。
もちろん、最終試練は無事合格。正式に騎士となることが決まった。
夜、カミツレが歌を歌っていると、
「……きれいだね」
声をかけられ、慌てて振り返る。そこにはシャルルが微笑んで立っていた。
「しゃ、シャルル様。いつからそこに……?」
「きれいな歌声が聞こえてきたから、ついね」
まさかのことに顔を真っ赤にする。シャルルが隣に立ったことでさらに緊張した。
「……母上を思い出すよ」
しかし続く言葉に、カミツレは首を傾げる。
「シャルル様の母に、ですか?」
「うん。……僕の母も歌が上手でね、いつも歌ってくれたんだ」
「そうだったんですね……」
カミツレはシャルルの話を聞いていた。
「本当に優しい人でね。母がオスクリタ王国に狙われていると分かった時に、父が逃がしてくれたんだけど……ずっと、僕のことを気にかけてくれたんだ」
「素敵な母ですね、私は王妃様のことを知らないですけど……」
「君がまだ幼い頃だろうからね。カミツレは?ご両親はどんな人だったの?」
それを聞かれ、カミツレは考え込む。きっと、彼には両親がいないことは伝わっているのだろう。
「そうですね……父は知りません。母からはいい人だと聞いていましたが……私の記憶にはないですね。母は本当にいい人で、私のやりたいことをさせてくれました」
「そうなんだね……その、あんまり思い出したくないなら話さなくてもいいからね」
「いえ、大丈夫ですよ」
シャルルが不安そうに見てくるが、カミツレはあまり気にしない。
実際、父は知らないが母が言うのなら本当に優しい人なのだろうと信じていた。いつか迎えに来てくれると思っていた。だから、父がいなくても耐えられた。
「……そっか」
シャルルはそれだけ言って、一緒に遠くを見た。
戴冠式までの数日間、カミツレはいつものように鍛錬をしていた。その休憩がてら周囲を探索しているとセシリアが涙を流していることに気付く。
「どうしたの?セシリア」
カミツレが駆け寄ると、彼女は「な、何でもないです……」とその涙を拭った。
「そ、そう……?何かあったのなら話してくれていいのよ?」
「本当に何でもないですよ。心配させてごめんなさい」
その言葉にカミツレは違和感を持った。そして自身の左目の奥に何かが映るが、違う、そんなわけないと目をそらしてしまった。
そして、迎えた戴冠式。シャルルがカミツレ達新米騎士に激励の言葉を言おうとすると、外が騒がしくなった。
「な、何!?」
アメリーが悲鳴を上げる。振り返ると、そこには謎の仮面を被った人達が入り口まで襲ってきていた。
(あれは……!?)
カミツレはその仮面に、心当たりがあった。
――だって、母親はあの仮面の男に殺されたのだから。
そして、すぐに気付く。奴らが今度は、シャルルを狙っていると。
「危ない!」
カミツレがシャルルを抱きしめながら横に飛ぶと、シャルルがいた場所に雷と矢が飛んできた。
「か、カミツレ……」
「大丈夫ですよ」
一本だけ、足に矢が刺さったがこの程度ならどうにでもなる。カミツレは痛みを耐えながらそれを引き抜き、立ち上がって剣を構えた。
実戦は、エドワールをサポートした時以来だ。正直、身体が震えているが……。
(ここでやらないと……みんなの命が危ない)
彼らがどれだけ姑息で、人を殺すだけの力を持っているのか。カミツレは身をもって知っている。
しかしすぐに、違和感に気付いた。
「……セリシア?なんで、そっちに……」
そう、ずっと一緒に戦ってきたはずの女性が奴らのところに立っていたのだ。
動揺していたからか、反応が遅れてしまった。
「……ッ!」
セリシアが炎魔法を放ってきて、カミツレはシャルルを守るように立った。やけどをしてしまうが、これならまだ立てる。
(どうしよう……まさか、セリシアが……裏切った?)
信じたくなかった。……しかし、信じたいと思う気持ちはあっさりと裏切られた。
「カミツレ……ごめんなさい、私……」
その言葉がすべてだった。ギュッとカミツレは剣を握る手が強くなる。
――ここで説得しても、意味がない。
なら、覚悟を決めるしかない。
カミツレは一つ息を吐き、動き出すとドミニク達も慌ててそれについた。
先輩騎士達はシャルルとシェーンを守りながら、奴らに立ち向かっている。
(カミツレ……どうしたんだ?)
ドミニクは、カミツレの様子が少しおかしいことに気付いていた。だてに今までともに過ごしてきていない。しかし、聞くことなどできなかった。
「……っ!待て!」
守られながらもともに戦っていたシャルルだったが、突然焦るように叫んだ。見ると、明らかに普通のものとは違う剣が持ち去らわれそうになっていた。
カミツレは走ってその人物を追いかけ、その手首を蹴り上げる。すると痛みのせいか、手を離したと同時に剣が宙に浮いた。カミツレがそれを握ると、突然光り出す。
「え、なんで……!」
シャルルの驚いた声が聞こえたが、気にしている暇はない。カミツレはそれで盗もうとした男を切り裂いた。
予想外の出来事だったのか、「お、おい。あれを使えるのは王だけじゃなかったのか……?」と声が聞こえてきた。
「……そうか。こいつ、あの時逃がした……」
ある一人が呟くが、アルセーヌに斬られていた。
「……さすがに、これでは分が悪いですね」
「……っ!待って!」
セリシアの呟きに全員が引いていく。追いかけようとしたが、それはエドワールに引き留められた。
「やめた方がいいよ。今追いかけるのは危険だと思う」
その言葉に、カミツレも冷静になっていった。
「すみません、感情的になっていました」
「ううん、仕方ないよ。僕だって君の立場なら、追いかけようとしていたと思うから」
エドワールがカミツレの手を握って、みんなと合流する。
カミツレは先ほどの剣をシャルルに返した。
「申し訳ありません、勝手に使ってしまって……」
「いや、それはいいんだけど……その……」
シャルルは怪訝そうな顔をしている。それに全員が首を傾げた。
「……その剣、王族にしか使えないはずなんだよ」
その言葉に、全員がバッとカミツレを見る。しかし彼女もわけが分からなかった。
「え、私、歌姫の娘ですよ……?それなのになんで……」
その言葉に、シャルルは思い当たることがあった。
「ねぇ、カミツレ。もしかして、この痣あるの?」
そう言って、彼が首筋にある痣を見せた。それには、カミツレも見覚えがあった。
「それ……同じの、あります」
カミツレは右の籠手を外す。そこには、同じ痣があった。
それを見た二人は黙り込んでしまう。
「……グウゼンモアルモノデスネ」
「いやいやいや、それじゃ片付かないよね?」
もはや現実逃避を始めたカミツレにシャルルは苦笑した。
「その、母親の名前は?」
「母、ですか……?確か、サルビア、だったと思います」
「……僕の母親も、サルビアだよ」
「…………」
ここまで来ると、認めざるを得ないだろう。
「……お母様から何も聞いてないんですけど……」
「ま、まぁまぁ、母上も、いろいろあったんだよ」
カミツレが頭を抱えながらため息をつく。実際、母から何も聞かされていないのだ。
正直、カミツレは卒倒しそうになるが無理やり意識をとどめる。
「……そうか、母上は、カミツレを逃がしてくれていたんだ……」
「え、ど、どういう……」
全員が首を傾げると、「……手当てをしながら話そうか」とシャルルが話し出した。
シャルルとカミツレの父――前王のフィエルターは帝国に住んでいた竜人である母のサルビアを王妃として迎えた。
サルビアは竜人の中でも強い力を持っていたらしく、オスクリタ王国から狙われていたようだ。それでも、フィエルターが守ってくれたため無事にシャルルが生まれた。
しかし、二人目――カミツレを身ごもった時に、ついに見つかってしまった。竜人の力を悪用されてはいけないと捕まる前にフィエルターはサルビアをムーンライト歌劇団に話をつけて雲隠れさせてもらったようだ。
「そのことは僕達王族と一部の人しか知らなかったんだ。だからみんなが知らなくてもおかしくはないよ」
手当てをしながら、シャルルが口を紡いだ。それを静かに聞いている。
「でも、どこから漏れたのかムーンライト歌劇団は壊滅させられた。父も僕も、絶望していたんだけど……」
シャルルが、カミツレをギュッと抱きしめた。
「……本当に、生きててよかった。二人とも、死んだと思ってたから……」
涙声になっているのが分かる。
前王は、前の戦争で命を落とした。それはカミツレも聞いている。……身内が亡くなってしまう苦しみはよく分かる。
カミツレは優しく抱きしめ返した。安心させるように。
「……ごめんね」
やがて、泣き止むとシャルルは離れていった。
「いえ、大丈夫です。……しかし、まさか王族の血を引いているとは……」
「あはは……まぁ、多分母上ももう少し待ってから伝えようと思っていたんだと思うよ」
実際、狙われていると分かっているならその判断もおかしくはないだろう。
ふと、シャルルが真面目な顔をする。
「……これからカミツレは狙われるだろうね」
「なんで、ですか?シャルル様の方が……」
「前に、襲い掛かられたんでしょ?きっと、相手に生きているって気付かれていたんだと思う。……そうじゃないと、タイミングがよすぎる」
シャルルの言葉も一理ある。……いや、むしろそれしかないだろう。
「……そうだとしたら、君はどこかに隠れていた方が……」
「お言葉ですが、私は守られてばかりではないですよ。私だって戦えます」
「でも……」
「シャルル様。カミツレの強さは本物です。これは王女など関係なく、騎士として本当に優秀ですよ」
シャルルが不安そうにしているが、フロランがそう進言してくれた。実際、カミツレは騎士としてかなり優秀できっとこの国の平和を守ってくれるだろう。
「……そうか。それなら、カミツレを近衛騎士にさせてほしい。僕も、カミツレを守れるだろうから」
「それでシャルル様の不安がなくなるのなら」
兄の不安が少しでも軽くなるなら、そうするほかない。そんなカミツレの反応に、シャルルは本当に安心した表情を浮かべた。
「ありがとう、わがままを聞いてくれて」
「……あ、そうだ。これ、お母様が兄にって」
カミツレがポーチの中から、顔も知らぬ兄に渡してほしいと持っていた腕輪を取り出して渡す。
「これは?」
「お母様から再会出来るか分からないから、あなたが持って行ってほしいって言われて預かっていたんです」
「……母上が……」
シャルルがそれを受け取る。
――一瞬、目の前の少女が王女様のような姿になった。
その腕輪は、まるで星空のような美しいものだった。
「……母上、本当にずっと……」
シャルルの悲しげな表情を見て、カミツレは少し考える。そして、彼の手を優しく握った。
「……シャルル兄様、今度、劇場の跡地に行きますか?あの日以来、まったく行っていないから騎士になったと報告もかねて行こうと思っているんです」
その提案にシャルルは目を丸くした後、笑った。
「うん、そうだね」
その優しさに胸が温かくなりながら。
「きっと、母上驚くだろうね」
「そうですね、まさか私が騎士になるなんてって目を丸くしますよ」
そんな会話をしている二人は、本当の兄妹そのものだった。
その日の夜、外で剣の手入れをしているとドミニクが声をかけてきた。
「カミツレ、まだ起きていたのか?」
「ドミニク。えぇ、眠れないもの」
「そうか。……隣に座っていいか?」
「もちろん」
カミツレが寄ると、彼も座った。
しばらく、沈黙が流れる。それを破ったのはドミニクだった。
「……カミツレ、本当に王族に戻るつもりはないのか?」
「えぇ。騎士の方が私にはあっているもの」
「そうか。……まぁ、私もその方が距離感を覚えなくていい」
「王女様なんて、私にはあっていないわよ」
アハハ、とカミツレは笑う。
……本当に、いい子だな……。
フロランから、彼女は自分より年下だと聞いている。それなのに、自分達を導いてくれているのだ。……本当に、すごいと思わされる。
「ドミニクはどうしてここに来たの?いつもならもう寝ていると思うのだけど」
「あぁ、私も少し眠れなくてな。散歩していたんだ」
「そうだったのね」
カミツレが剣の手入れを終えると、それを鞘に戻した。
「……かなり丁寧に手入れしているんだな」
「何かあってからじゃ遅いもの。皆を守れるようにしなきゃ」
そう言って笑う彼女は、どこか寂しげだった。
「……だって、あの時の惨めさを二度と味わいたくないから」




