番外編4:利他と工学の境界線(ディバイド)、そして合理主義者の傲慢なる方程式3
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、団体、特定の宗教、および書籍等とは一切関係ありません。また、作中に登場する戦術や描写には一部創作が含まれており、特定の生き方や価値観を誹謗中傷する意図は一切ございません。エンターテインメントとしてお楽しみください。
女の「ヤリチンに遊ばれたくない」という防衛線を、先回りして「古い形式に縛られた価値観はダサい、君はもっと自由でハイスペックな女のはずだ」と、綺麗事の言葉の盾でハック(洗脳)して消し飛ばすのだ。
酒の力を借り、対等な体温を演出され、自分の市場価値を全肯定された女は、もはや理央の誘導に抗う術を持たない。
タクシーのシートに滑り込み、ホテルのベッドに倒れ込んだ瞬間、女は自分が理央のチェス盤の上で完璧にチェックメイトされたことすら気づかずに、快楽の中で貪り合っているのだった。
富、名声、女。すべてを確率の手の平の上で転がし、令和の頂点で勝利の美酒に酔いしれていた神崎理央。
そんなある夜、彼が高級マンションの自室で、次の獲物をスクリーニングするためにネットの画面をスクロールしていた時のことである。
スマートフォンの画面に、たまたま比叡山での地獄のような安居の修行、そして命をかけた【千日回峰行】を達成し、若き高僧となった僧侶・一真の報道記事が流れてきた。
記事の中で一真は、泥にまみれた草鞋を履き、何年も山の中を這いずり回り、死と隣り合わせの祈りを捧げてきた生々しい体験と共に、こう説いていた。
「現代は、便利さの裏で人々が孤立し、宗教離れが進む新世界です。ですが、だからこそ私たちは、小手先の綺麗事ではなく、泥にまみれた中を生き抜く、本物の『利他の心』と『目に見えない人間のご縁(信頼)』を取り戻さねばなりません」
それを見た理央は、冷え切った高級コーヒーを口に含み、フッと最大級の冷笑を画面に投げつけた。
「……ハッ、バカじゃねえのか」
理央の脳内にある圧倒的な合理主義の正義が、その泥臭い仏教哲学を「非効率の極み」だと一瞬で断定した。
今の現実を見てみろ。お寺の跡取りや坊主どもですら、自分たちの道徳や説法じゃ人が集まらず、宗教離れで食えなくなって、結局は俺たちが作った『みんなでペアペア』みたいな世俗的なマッチングアプリに頼って、必死に女の条件を品定め(スクリーニング)して右往左往してやがる。どれだけ命をかけて山を歩こうが、千日回峰行をやろうが、そんな泥臭い「利他」なんてものは、現代の洗練された情報社会の前では1円の腹の足しにもならないゴミだ。女の脳のバグすらハックできず、年収や身長のデータで一秒でロスカットされて、都合の良い「友達ホルダー」の牢獄にハメられて搾取されるのがオチだろ。そんな負け犬の足軽根性を「生きる哲学」などと綺麗事でパッケージして、ありがたがっている大衆も、その坊主も、全員が眼高手低のイカれたモブに過ぎない。
「この環境(令和)においては、俺の恋愛工学(確率論)こそが唯一絶対の『正解(正義)』だ。
泥を歩むしか脳のない奴らは、一生データに踏みつけられて這いつくばってろ」
理央は、直接の面識もない高僧・一真のことを、自分の「効率の正義」を誇示するために、裏のアカウントで徹底的に叩いて嘲笑する投稿を打ち込んだ。
画面の向こうの一真は、ただ静かに夜の山の中で、すべての衆生の救いを願って祈っており、理央の傲慢な書き込みの存在すら知らない……。
しかしこれこそが、後に2人を真の友へと導く運命に繋がる事になっていくのを、まだ2人は意識すらしていなかった。




