番外編4:利他と工学の境界線(ディバイド)、そして合理主義者の傲慢なる方程式1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、団体、特定の宗教、および書籍等とは一切関係ありません。また、作中に登場する戦術や描写には一部創作が含まれており、特定の生き方や価値観を誹謗中傷する意図は一切ございません。エンターテインメントとしてお楽しみください。
この世界が完璧な絶望の更地へと変えられる、ちょうど1年前の令和のストリート。
そこには、すべてを「数値」と「確率」だけでハックし、恋愛市場の頂点に君臨していた一人の男がいた。
名前は、神崎理央。
元・合理主義の投資家。株のチャートを冷徹に分析するように、女性の脳内アラームのバグをハックし、独自の「恋愛工学マニュアル」を極めたナンパ師である。
彼はその洗練された数式を武器に、世の非モテの足軽たちを救うためのナンパ本を出版。
何人もの男たちを一発の恋愛成功へと導き、絶大な富と名声を手にしていた。
理央にとって、女を計算で落とすことなど、ただの単純な作業に過ぎなかった。「恋愛なんてものは、綺麗事のハートじゃない。ただの『主導権の等価交換』だ」理央のマニュアルは徹底していた。
マッチングアプリ『みんなでペアペア』でのメッセージのやり取りから、それは開始される。多くの誠実な養分(男たち)が「こんにちは!よろしくお願いします✨」などと100点満点の挨拶を送り、相手の顔色を窺って自ら奴隷ホルダーに志願する中、理央が送るのは常に短文の『揺さぶり(ネグ)』であった。
「プロフィール写真、2枚目のやつだけやたらと強そう(笑)。普段はもっと大人しいでしょ?」
褒め殺しをされて調子に乗っている女の自尊心に、あえて小さな傷をチクリと刺す。女の脳内で「なによこの男……」というアラームが鳴った瞬間、すでに理央の術中にはまっているのだ。
感情を揺さぶられた女は、無意識に理央の承認を求め始め、気がつけば向こうから長文の返信を必死に送ってくるようになる。
リアルなストリートにおけるナンパでも、理央の方程式は無敵だった。週末の京都、四条河原町の雑踏。品定めをするような冷ややかな目で歩く若い女に、理央はアローズのジャケットの襟をバシッと立て、ブルーシャネルの香水を漂わせながら、あえて正面からではなく「斜め後ろの死角」から軽やかに声をかける。
「ねえ、ちょっと待って。一瞬だけ足止めて。減るもんじゃないから(笑)」
当然、女は最初は警戒し、露骨に嫌そうな顔をして無視しようとする。ここで大半の足軽男は心が折れてロスカット(退場)するが、理央は動じない。女が放つ「嫌悪感の防衛線」すらも、マニュアルに折り込み済みだった。




