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大岩山から絶望を配信する〜男は耐えろと抜かす世界を、低級霊のウイルスで完全チェックメイトしてやった〜  作者: ひややっこ万次郎
第5章:『市場価値ゼロの黙示録 〜泥濘のサバイバーと、世界崩壊前夜(ラストナイト)の利他コード〜
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番外編3:市場価値ゼロの荒野、そして河川敷の孤高なる防衛線2

 男は膝を抱えたまま、濁った水面を見つめ、ぽつりと弱音を漏らした。「……もう、限界だよ」

 その声には、一切の建前も、見栄もなかった。「いつ死ぬか分からない……。毎晩、誰かの悲鳴が聞こえて、昼は空から知らない人の醜い本音が降ってくる。こんな生活、いつまでも続けられるわけがない。僕は、ただ普通に生きて、普通に誰かと……いや、もう何でもいい。こんな世界で生き残るなんて、僕には無理だ……」

 男の口から溢れ出たのは、この一週間、美紀がずっと胸の奥に閉じ込めていた絶望そのものだった。

 世界が普通だった頃、美紀は「理想の檻」に閉じこもり、男は「トラウマの檻」に引きこもっていた。お互いに自分の人生を素直に生きられず、情報社会のイカれた荒波に揉まれて、勝手に身動きが取れなくなっていたのだ。

 地べたに這いつくばり、涙を流す男を見下ろしながら、美紀の心にすとんと、一枚のパズルがはまるような感覚があった。(ああ、そうか……。夢ばかり見せてくる情報社会の方が、よっぽどイカれてたんだわ)

 かつてアプリの画面に並んでいた【あなたにイイね!した人達(164)】という記号。

 条件を満たさない男を「面接(デート)するのも気持ち悪い」と切り捨てていた自分の傲慢さ。

 そんなハリボテのプライドは、この市場価値ゼロの荒野では、一滴の水ほどの価値もない。

 美紀は男の前に歩み寄り、泥のついたスニーカーの前に、静かにしゃがみ込んだ。

「ねえ」 美紀は、短く切った髪から滴る水滴を拭いもせず、男の目を真っ直ぐに見据えた。顔に泥を塗り、男物の作業着を着た今の彼女は、少女漫画のヒロインでもなければ、高スペックな処女の受付嬢でもない。

「私、地方の農村育ちなの。どこに野草が生えてて、どこに罠を仕掛ければいいか、都会のハイスペ男よりは詳しいわよ」

 男が、驚いたように顔を上げた。「……え?」「あんた、名前は?」「……タカシ、です」「そう。私は美紀。タカシ、あんたに生きる気があるなら、私の防衛線(ここ)に入りなさいよ。市場価値なんてクソ喰らえのこの更地で、生身の私たちがどこまでやれるか、試してやろうじゃない」

 美紀は、生まれて初めて、建前も嘘の方程式もない、本当の自分の人生の選択肢を、その手で掴み取ろうとしていた。

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