番外編2:泥濘(でいねい)のサバイバー、そして更地と化した理想郷1
大岩山の頂上から放たれた低級霊のウイルスは、わずか一週間で、築き上げられた東洋の巨大なバベルの塔――首都・東京を、完膚なきまでに物理的・精神的にロスカットしてみせた。
かつて洗練されたスーツを着たエリートや、流行の服で着飾った美女たちが闊歩していたオフィス街は、今や言葉通りの「全空の処刑場」と化している。
空を覆う赤黒いデジタルノイズのスクリーンには、今なお狂ったように人々の最も醜悪な脳内ログや、悍ましい性犯罪、身内の殺害シミュレーション映像が実名付きで強制デリバリーされ続けていた。
その映像を見上げていた群衆の末路は、あまりにも惨たらしかった。
自分の裏の顔を同僚や家族の目の前で開帳され、絶望の過呼吸で脳圧を限界突破させた者たちは、口から不気味な泡をブクブクと吹き出しながら、アスファルトの上に折り重なるようにして絶命していった。
その死体の山を避けるようにして、正気を失った操縦士が霞ヶ関の官庁ビルへと激突させた報道ヘリの黒煙が、秋の青空をどす黒く汚している。
だが、真の地獄はそこからだった。
ネットの海から逆流した怪異の振動により、警察や政府といった統治機能は初日で完全消滅。
通信を遮断された世界各国は、この人類未踏の精神兵器が自国へ逆流することを恐れ、日本からの海底ケーブルや衛星通信を物理的に切断した。
さらに、日本の周海には海外の軍艦がズラリと並び、「汚染地帯からの脱出者は一般人であっても容赦なく撃沈する」という冷酷な封鎖線を敷いたのだ。
世界から見捨てられ、完全な情報的・物理的孤島となった日本は、わずか一週間で白旗を掲げ、国家崩壊を迎えた。
ライフラインが永久にストップした都市では、生き残った者たちによる命がけの生存競争が始まった。
スーパーやコンビニには、飢えに狂った暴徒たちが詰め寄ってガラスを叩き割り、食料を強奪するための血で血を洗う殺し合いが多発。
法の消滅した無法地帯では、武器を手に入れた男たちによる凄惨な略奪やレイプ事件が日常茶飯事となり、夜な夜な女たちの悲鳴が廃墟に響き渡った。
昨日までの綺麗な仮面を剥ぎ取られた人間たちは、互いの脳内を覗き合っては爪を立て、噛み付き合う、阿鼻叫喚の狂宴を繰り広げていた。
そんな、死臭と暴力が渦巻くコンクリートの砂漠の片隅。 荒れ果てた河川敷の近くに、爆風でひしゃげたコンクリートと鉄骨のガレキが重なり合う、狭い死角があった。




