番外編:眼高手低の残光、そして東京全空の処刑場1
日常生活で接するうちに好きになるならいいけれど、好きになるためにわざわざ面接に行くだとか、ホント気持ち悪い――。
都内のオフィス街にある、ガラス張りのオフィス。
昼休憩の喧騒の中、原田美紀(31歳)は手弁当の包みを前に、スマートフォンの画面を死んだ目で見つめていた。
画面には、マッチングアプリ『みんなでペアペア』の通知。
事務的な記号となって並ぶ【あなたにイイね!した人達(164)】という数字が、彼女の脳細胞をひどく苛立たせていた。
「あれ、原田さんもペアペアやってんだー」
背後からトレイを持った同僚の若い男が、ニヤニヤと薄笑いを浮かべて覗き込んできた。
美紀はぎくっとして、咄嗟に画面を胸元に伏せる。「ちょっ……覗かないでくださいよ!」
「ごめんごめん。でもそういうの、既婚者も紛れてるっぽいから気をつけなよ〜。まぁ、原田さんも31歳だし、そろそろ焦る気持ちも分かるけどさ」
男の放った、マニュアル通りの、悪意のない綺麗事のトゲ。
それが美紀の胸の防衛線をチクリと刺した。美紀はフッと冷たい鼻笑いを漏らし、スマートフォンの角をテーブルにトントンと叩きつけた。
「……知ってますよ。でも、他に出会いがないし、仕方ないじゃないですか。私だって、こんな人工的な出会いなんかしたくないんです!」
「原田さん、それって理想が見る目の一人前だけど、自分の戦闘力が追い付いてない『眼高手低』って言うんだよ? 好きになれるレベルの男からは好かれなくて、好いてくれるレベルの男は好きになれない。もっと理想を下げるか、自分の市場価値を上げるかしないと、この情報社会じゃ何も起きないよ?」
同僚の言葉は、恐ろしいほどの正論だった。
31歳、未婚、独身、恋愛経験なし。
かつてクラスの人気者イケメンに片想いしては、可愛い女子たちに惨敗してきた過去。
アプリを開けば、自分の「許容条件」に偶然引っかかっただけの地味なモブ男たちが、コピペのセリフで群がってくる。
本当は、そんな男たちに選ばれてもこれっぽっちも嬉しくない。
ちゃんと生身の私を知った上で、私だからこそ選ばれたい。
だが、そんな「私」なんて、この世界のどこにも存在しない。あれもダメ、これもイヤ。気づけば自分で自分の人生の選択肢を狭め、理想の檻の中で八方塞がりになっていた。「理想、高すぎなのかな……。未だに少女漫画みたいな完璧男なんて求めてないつもりなのに……」
美紀の後ろの席で、同じくみんなでペアペアに登録していた
女性もまた、口には出さないが、美紀の気持ちには激しく同調していた。
分かる…。なんで自然に出会えないんだろう、私たちは…。




