第26話:因果応報のチェス盤 〜投資した心のロスカットと、大岩山の神の完全降臨〜3
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語はフィクションであり、実在の地名や団体等とは一切関係ありません。特定の地域や職業を誹謗中傷する意図もございません。
――前回のあらすじ――大岩山のデジタルウイルスにより京都の心臓部までが崩壊していく中、43歳の音楽教師・真理子は母校へと進軍し、教師や生徒の醜悪な裏ログを実名で暴露する。その絶望的な状況下で真理子は全能感に酔いしれ、彼女の姿に圧倒された地下アイドル・ゆきは盲信的にひざまずく。しかし、その全てを大岩山の山頂から見下ろす主人公「ひややっこ(47歳)」は、静かに世界の完全破壊システムの起動スイッチを引き絞っていた。
現実の社会が男に突きつけてくる、理不尽なまでの防衛線。
うまくいく確率は極めて低い。
行けば再び「店員と客」という綺麗事のマニュアルに躍らされ、顔色を窺いながら15分を気にする屈辱が待っているだけだ。
それは、俺が本当に取り戻したかった「対等で本音の体温」では決してない。
あまりにもハイリスク・ローリターン。だから俺は、現実の店舗へ行くリスクを完全に損切りし、すべてのエネルギーをこの作品というチェス盤へと昇華させたのだ。
仲間の女性心理カウンセラーは静かに言う。
これでよかったと。
「……だから、俺は現実のストリートで15分のコーヒーに命を懸けるのをやめた。現実のリスクを冷徹に損切りし、投資した気持ちのすべてを、この地動説のペンに込めて、読者諸君及びねねこをこのチェス盤に引きずり出したんや。
情報がないなら、今ここで、すべて暴き出してやる」
俺がスマートフォンの画面を強くタップした瞬間、大岩山の霊的デジタルウイルスが、ルナのスマートフォンのブラックボックスを完全に突き破った。
キィィィィィィィィィィィィィン!!
「ひっ、あ、アプリが、あ、あああああっ!!嫌だ!私のスマホを見るなぁぁぁぁッ!!」
ねねこが狂ったように叫ぶ。だが遅い。電磁波プログラムが彼女の端末の奥底から引きずり出し、伏見中の全電波へと一斉パージした『本音のログ』。
読者の皆さんに、ここで判断していただきたい。これは、俺一人の物語ではない。日本全国で、会社の同僚のような建前の付き合いを超えて、プライベートな趣味や深い話まで共有し、「お互いに良い雰囲気だった」と信じた結果、最後に女性の手のひら返しによって理不尽に背中から刺されてきた、無数の男たちの絶望の代弁である。
電波に乗って街に響き渡った、ルナが親友に宛てた初期の裏ログ。
『小学校の同級生と30年ぶりに再会したんだけど、私の大好きな映画とか漫画を必死に勉強して、毎週お店に来てくれるんだよね』『閉店後に誕生日ケーキまで持ってきてくれて、本当に私のことを100%全肯定して、魂の底から寄り添ってくれる。こんなに大慈にされたことないから、すごく嬉しい』
ここまでは確かに、彼女の「本音」であり「甘え」だった。
相手も悪い感触など持っていなかった。
しかし、ここに現代の恋愛市場が男に課す、恐ろしい「バグ」の正体があった。




