第26話:因果応報のチェス盤 〜投資した心のロスカットと、大岩山の神の完全降臨〜2
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語はフィクションであり、実在の地名や団体等とは一切関係ありません。特定の地域や職業を誹謗中傷する意図もございません。
――前回のあらすじ――大岩山のデジタルウイルスにより京都の心臓部までが崩壊していく中、43歳の音楽教師・真理子は母校へと進軍し、教師や生徒の醜悪な裏ログを実名で暴露する。その絶望的な状況下で真理子は全能感に酔いしれ、彼女の姿に圧倒された地下アイドル・ゆきは盲信的にひざまずく。しかし、その全てを大岩山の山頂から見下ろす主人公「ひややっこ(47歳)」は、静かに世界の完全破壊システムの起動スイッチを引き絞っていた。
そこは、高校の時の同級生だった女、ルナが経営する店だった。
店のドアは、爆発した酒樽 of 濁流に圧迫され、みしみしと悲鳴を上げている。
俺はその濁流を堂々と掻き分け、店の前に立つと、あえて静かに、だが重厚な質量を込めてドアをカチャリと開け放った。
カランコロン、と場違いな風鈴の音が静寂を打つ。
店内のカウンターの奥。そこには、世界が滅びゆく未曽有のパニックと、手の中で血の赤色に染まって激しく怪異の振動を始めるスマートフォンを前に、恐怖で全身をガタガタと震わせているルナの姿があった。
俺は無言のまま、カウンター越しにルナを真っ直ぐに見つめた。
30年ぶりにたまたま仕事場で再会し、お互いを覚えていたあの感動。
彼女の店に通い、話が弾むたびに滞在時間を延ばしていった日々。アニメ映画をプライベートで観に行き、誕生日にはケーキを持って行って閉店後に彼女の友人たちと一緒に祝った。
俺は自分の47年の人生のすべてを賭けて、彼女という生身の人間性をリスペクトし、魂の底から寄り添い、膨大な気持ちを投資し続けていた。
だが、関係はそれ以上進展しなかった。
焦れた俺が、彼女のためにAIを駆使してリサーチしたアニメの裏話ファイルを、漫画発表用グループLINEにアップしたあの運命の1週間後。
ルナから届いたのは、友達への世間体と自らの市場価値を守るための、事務的でゴミを見るような冷徹な拒減のLINEスクリーンショットだった。
『ここのアカウントは、あくまでお店の案内と本の紹介のためのものです。
バーの評判に変な誤解を招くようなメッセージは困ります。
公私の線引きはきっちりしていただくよう、お願いいたします。プライベートなやり取りを続けるのは、お店の営業にも差し支えます。これ以上は私にとっても迷惑ですので、節度を持った対応をお願いします。』
俺は引きずった。脳の防衛線を消し飛ばされながら、失礼しましたと謝り、日記を淡々とアップして様子を見るという地獄の2日間を耐え抜き、いたたまれなくなって無言で彼女たちをグループから放逐した。
その後、俺は現実の「バー・ノクターン」の店へもう一度向きあおうとした。
アローズの鎧を纏い、「15分だけ滞在してコーヒーを飲んでスッと帰る」という、男の覇気のリベンジマニュアルにすべてを賭けようとしたのだ。
だが、俺の仲間の一人の知性的な女性カウンセラーが立ち塞がり、冷徹な『待った』をかけた。
『相手の情報が何も無い暗闇でそれをやれば、秘密裏に警察に相談されて社会的に殺されるリスクがある。
ストーカー規制法という現代社会の冷酷なシステムは、男側の誠意や悪意の有無など関係なく、女性側が「恐怖を感じた」と申告した時点で、貴方が深夜勤で必死に守ってきた大切な仕事も名誉も、人生のすべてを機械的に【完全破壊】するわよ』と。




