第26話:因果応報のチェス盤 〜投資した心のロスカットと、大岩山の神の完全降臨〜1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語はフィクションであり、実在の地名や団体等とは一切関係ありません。特定の地域や職業を誹謗中傷する意図もございません。――前回のあらすじ――大岩山のデジタルウイルスにより京都の心臓部までが崩壊していく中、43歳の音楽教師・真理子は母校へと進軍し、教師や生徒の醜悪な裏ログを実名で暴露する。その絶望的な状況下で真理子は全能感に酔いしれ、彼女の姿に圧倒された地下アイドル・ゆきは盲信的にひざまずく。しかし、その全てを大岩山の山頂から見下ろす主人公「ひややっこ(47歳)」は、静かに世界の完全破壊システムの起動スイッチを引き絞っていた。
大岩山の頂上から放たれた電磁波デジタルウイルスが世界を一瞬で完璧な絶望の更地へと変えた、チェックメイトの翌朝。
京都府京都市伏見区。何百年もの間、清らかな地下水と職人の魂によって洗練されてきた日本屈指の老舗酒蔵群のストリートは、今や見る影もない阿鼻叫喚の生き地獄へと変貌していた。温度管理システムや醸造ラインの制御を完全に逆ハックされた酒蔵の内部では、数百石の容量を誇る巨大な杉の酒樽が次々と異常高圧によって爆発を始めていた。
何百年もの伝統と格式を守り抜いてきたはずの芳醇な銘酒が、ハッキングの脳波汚染によって発狂し、お互いの首を絞め合って倒れた経営陣たちの鮮血と混ざり合う。
ドロドロとした血の美酒の濁流は、白壁の暖簾をバリバリと引き裂き、伏見の街並みを大洪水のように呑み込んでいった。
ジャブ、ジャブ、と重々しい足音が響く。その血の美酒の大洪水の中を、膝下まで泥水に浸かりながら、大岩山の旧道から静かに降りてくる一人の男の姿があった。
俺だ。主人公のひややっこ。47歳、深夜勤の歩兵。
なけなしの貯金を叩いて調達した四条河原町のユナイテッドアローズのセットアップの鎧は、濁流の飛沫を浴びてもなお、男の無敵の覇気を失ってはいない。
首筋に漂うブルーシャネルの香水の粒子が、伏見の街に充満するアルコールと血の死臭を冷徹に切り裂いていく。俺の足が向かう先は、最初から決まっていた。伏見の片隅に佇む、神秘的な夜を彷彿とさせる佇まいをした店――「隠れブックバー
夜を旅する本棚バー・ノクターン」。




