第2話:強者の記号のハッキング、そしてストリートの完全崩壊2
2. 大岩山のハッキングとセーフティネットの破壊(第1話)
深夜2時、京都の心霊スポット・大岩山で、主人公の怨念が低級霊たちの覇気とシンクロ。マッチングアプリ『みんなでペアペア』のコードを書き換え、霊的デジタルウイルスを通信網へ流します。翌朝、現代社会の最後の砦である「男性向け性被害相談室」の電話をジャック。救いを求める男たちへ呪詛を逆流させ、自尊心を破壊するトラップに変貌させました。
四条河原町。
かつて俺が、自分の47年の人生を全肯定するために、必死の思いで足を運んだ大人たちの聖地。
そのきらびやかなショップのショーウィンドウに並ぶ、ユナイテッドアローズの『春秋冬兼用ジャケット』や『スマートアンクルパンツ・ウールライク』。
そして、デパートの化粧品売り場に美しくディスプレイされた、ブルーシャネルの香水。
そのすべての繊維、すべての香水瓶の中に、大岩山から解き放たれた低級霊の呪詛が、あざとく、静かに付着していった。
何も知らない男女たちが、今日も「これさえ着れば」「これさえまとえば、マッチングアプリで無双できる」と、
嬉々としてそれらを買い求めていく。
そして、週末の夜。
四条河原町の交差点や、伏見の街並みは、着飾った男女で溢れかえっていた。
彼らは「俺は仕上がっている」「私は綺麗めだから大丈夫」と、マニュアル通りの笑顔を浮かべ、お互いにマウンティングを繰り返していた。
だが、時計の針が深夜0時を回った瞬間、ストリートの空気が一変した。
「……あれ? なんか、急に服が重い……?」
四条河原町の中心で、アローズのセットアップをビシッと着こなしていた20代の男が、急に胸を押さえて激しく呼吸を乱し始めた。
スマートアンクルパンツのウールライクな繊維が、まるで生き物のように収縮し、彼の脚を、肉体を、ギチギチと締め付け始めたのだ。
「がはっ……な、何なんだこれ! 服が、脱げない……!」
それだけではない。彼が首筋にまとっていたシャネルの香水の粒子が、大岩山の冷気と混ざり合い、濃厚な『絶望の毒ガス』へと変貌した。
吸い込んだ瞬間に、脳の奥底に「お前は孤独だ」「誰からも愛されない」「今まで何時間尽くしてきたと思っているんだ」という、過去に傷つけられた男たちの怨念の幻聴が、
大音量で直接叩き込まれる。
「うわあああ! 嫌だ! 誰も俺と繋がってくれない! 俺の人生は何だったんだよ!」
男は、せっかく買い揃えた3万円の鎧を自ら引き裂こうと爪を立て、自分の皮膚を血だらけにしながら、アスファルトの上に崩れ落ち、涙と鼻水を流して絶叫した。
「キャー!! 何よこれ、身体が腐っていく!!」
隣にいた綺麗めなカジュアルスタイルを気取っていた女も、男から漂う呪いの香水を吸い込んだ瞬間、自尊心を完璧に破壊され、メイクがドロドロに溶け落ちるほどの恐怖の涙を流して発狂した。
この地獄絵図は、四条河原町だけにとどまらなかった。
全国の繁華街で、アローズを買い、シャネルをまとい、マッチングアプリで「当日にならないと分からない」などと気まぐれに他人を振り回していたモラルの低い男女たちが、
自らのまとった「ステータス」によって、
内側から精神と肉体を完全にハックされ、自滅していった。
服が肉体を締め上げ、香水が脳を狂わせる。
「男は耐えろ、成果がなくても頑張れ」と他人にコストを要求し、表面だけを着飾って強者を気取っていた奴らから順番に、その『鎧』がそのまま『棺桶』となって、ストリートへ引きずり倒されていく。
「ちくしょう! 助けてくれ! 誰か、誰か俺の深い話を聞いてくれよ!」
「嫌! 1人にしないで!」
四条河原町の交差点は、お互いを品定めし合っていた生気のない男女の、本物の絶望の悲鳴で埋め尽くされた。
だが、大岩山の呪いは冷酷だ。
彼らがどれだけ叫ぼうが、救いの相談窓口はすでに第1話で完全に破壊されている。
逃げ場など、この世界のどこにも存在しない。
夜が明ける頃。かつて若者やおしゃれな大人たちで賑わっていた四条河原町のストリートは、完全な「静寂」に包まれていた。
転がっているのは、ボロ雑巾のように引き裂かれたブランド服と、割れた香水瓶。
そして、精神を完全に破壊され、自尊心を失って泥のように動かなくなった、生ける屍たちの山。
誰もが他人の感情を搾取し、嘘を平気でつき、マニュアル通りに着飾っていた街は、一晩にして、音一つしない完全なゴーストタウンへと変貌した。




