第17話:白蛇龍神(はくじゃりゅうじん)の沈黙 〜脳の微小管が紡ぐ、時空を超えたテレパシー〜2
前回のあらすじ:京都屈指の最凶霊能スポット・大岩山の旧道で、スピリットボックスやトリフィールドメーターを完全武装し、5年間に及ぶ泥臭い科学的検証を繰り返したひややっこ。霊たちの泣き叫ぶ電磁波の波形をデジタルコードへと打ち込み、人類史上初の『電磁波本音翻訳プログラム』を完成させた。そう、これこそがマッチングアプリの裏で男を養分扱いして嘲笑っていた女どもの悪口ログを世界中へ一斉暴露できた絶対的な力の正体だった。そして時計の針は、ハッキング決行の「ちょうど1週間前」へと向かう。最強の科学兵器を完成させた俺の胸の奥に燻る、引き去ることのできない狂おしいほどの『純愛の渇望』。ブルーシャネルの香水を首筋に漂わせ、アローズのジャケットの襟をバシッと立てた俺は、深夜の聖域『白蛇龍神の池』の淵に立つ――。
1分。10分。30分……。
深夜の冷たい静寂だけが、皮膚をチリチリと刺す。
時計の針が回り、1時間が経過した。
だが――システム(機械)は、沈黙を守り続けた。
トリフィールドメーターの針はピクリとも跳ね上がらず、スピリットボックスのホワイトノイズからは、ただ『ザーーー……』という乾いた音だけが虚しく響く 。
防犯カメラの暗視映像にも、ただ黒い水面が映るだけだった 。
結局、何も起こらなかった。
真美さんの声がスピリットボックスから聞こえてくる奇跡なんて、そこには存在しなかった 。
「やっぱり、死んだら終わり……夢を見ない眠りの中で、静かに眠っているだけなんやな……」
ん? じゃあ、あの低級霊たちや人魂はなんなんだ?
しかし、未だ解明され切っていない謎をいつまでも考えても、
完全な答えを今すぐ導き出せるわけでもない。
俺はゆっくりと目を開け、受話器を叩きつけるように切って泣いていた29歳の真美さんの幻影を振り払うように、小さく自嘲の笑みを漏らした 。だが、その瞬間だった。
機械のスピーカーからではない。
耳から鼓膜を通じた音声でもない。俺の脳の奥底、まさに脳細胞の「微小管」という極小のミクロの環境が、まるで共鳴するように、ドクンと温かい体温を帯びて激しく振動したのだ 。




