第13話:歯車たちのプレリュード 〜半年前の群像、すれ違う5つの覇気〜1
前回のあらすじ:完璧なエリートの皮を被った闇の美人局グループにハメられ、隠し撮り動画を人質に底なしの恐喝ループに叩き落とされた音楽教師・真理子。他人の誠意をナメくさっていた傲慢な彼女の精神は、誰にも言えない暗闇の中で完全にチェックメイトされていた。物語の時間はここから、運命のハッキングの「半年前」へと収束していく――。
時間は、それから半年が経過した。47歳の男・ひややっこが、アローズの鎧をまとい、ブルーシャネルの香水をまとって大岩山の頂上から世界の通信網を完全破壊した、あの運命の夜 ――その、ちょうど「半年前」の、ある交錯の記録だ。
この時、京都・伏見の夜空の下、そして日本中の電波の海の中で、5人の男女が、お互いの存在をまだ何一つ知らないまま、同じマッチングアプリの戦場で、すれ違いながら血を流していた 。まずは、俺――主人公のひややっこだ 。
社会のインフラを支える深夜勤という、命を削る過酷な仕事の合間、俺は冷え切った自室でスマホを握りしめ、必死にアプリの海をサバイブしていた 。
「なかなかマッチングがいかへん、マッチングがいかへんな……」
世間のマニュアル本を読み漁り、必死に気を張ってメッセージを送るものの、待っているのは理不尽な現実ばかりだった。
トラブルこそ幸い上手く凌いで回避しているものの、店までバチッと決めた直後に気まぐれにドタキャンされたり、
「他にいい人が見つかりましたので!」というテンプレのひと言でゴミのように切り捨てられたり 。
羽束師の女のように「当日にならないと分からない笑」と、男の時間をナメくさった態度に振り回され続けていた 。
「俺って、本当に女運がないんやろか……」
だが、この時の俺はまだ耐えていた。耐えながら、この恋愛市場というシステムがいかに男を家畜扱いし、搾取してくるかという『クソみたいなルール』を、冷徹に、骨の髄まで【学習】し、大岩山への決断のエネルギーを静かに蓄えていたのだ 。
同じ夜、46歳の女性・美咲もまた、自室で深い孤独に震えていた 。高卒から30年間、一途に仕事を頑張ってきた彼女は、純粋すぎるがゆえに、アプリの男たちからのメッセージに、どれだけ疲れていても必ず丁寧に返事を返していた 。少しでも相手を喜ばせようと、若干長文気味で相手を一生懸命に褒める言葉を紡ぐ 。
だが、市場にいるモラルの低いモブ男たちは、その真面目な長文の熱量を「うわ、なんかこの46歳、重くて引くわ……」と勝手に察してビビり、彼女の容姿が飛び切りの美人ではないという残酷なスペックだけを見て、何も言わずに無言でフェードアウトしていった 。誠実であることが、そのまま「重い失点」として格付けされる歪んだ地獄。
美咲は「何がいけなかったの……?」と、自分のメッセージを消しては泣いていた 。




