第12話:虚飾のポリフォニー 〜43歳・エリート教師の自滅と、プライドの檻〜3
前回のあらすじ:クズ男の歪んだ下心から逃れるため、必死のパッチで夜の繁華街を駆け抜けたゆき。しかし、誰にも助けを求められない暗闇の中、我慢し続けていた猛烈な尿意が限界を迎え、路上で崩れ落ちて大声で泣き叫んだ。システムに心を殺され、尊厳を完璧に破壊された彼女の魂もまた、完全にチェックメイトされていた――。時計の針はさらに、もう一人のアラフォー女性の絶望へと巻き戻る。
写真の完璧なエリートの姿は、男がプロのカメラマンにスタジオのセットでとびきり綺麗に撮影してもらった、ただの「偽りの鎧」 。メッセージの知的な会話も、プライドの高いアラフォー女性を簡単にハメるために作られた、
ただのマニュアル(コピペ)に過ぎなかった 。
表ではあれほど親の言うことを聞き、真面目な研究者をナメきって蹴飛ばしていたはずの43歳のエリート教師は、そのヤリ目のプロの安っぽいハリボテの罠に簡単に引っかかり、男の都合の良いホテルのベッドの上で、ただの「使い捨ての高級なオモチャ」として、そのプライドも肉体も、徹底的に搾取され、消費されていった 。
――だが、彼女の本当の地獄は、そこから始まった。
翌朝、男のアカウントからは跡形もなくブロックされ、ゴミのように捨てられた真理子は 、実家に帰っても親にはその事実を「絶対に言えない」まま、1人で胸の奥にモヤモヤとした不浄の塊を抱えて悩み続けていた 。
「私はエリートなのに……どうしてあんな男に雑に扱われたの……?」
自尊心を激しく擦り減らし、ベッドの上でモヤモヤと悶え苦しんでいた数日後、彼女のスマートフォンに、見知らぬアカウントから1通の通知が届いた。
画面を開いた瞬間、真理子の顔から血の気が完全に引き、肺の空気がすべて凍りついた。
そこに添付されていたのは、あのホテルのベッドの上で、高いプライドをすべて剥ぎ取られ、醜態を晒して貪られている「彼女自身の隠し撮り写真と動画」だった。
そして、その下には、彼女が勤務する学校のホームページのスクリーンショットと、冷酷な脅迫のメッセージが添えられていたのだ。
『京都の音楽教師、真理子先生(43)。実家暮らしの箱入り娘が、裏で男にみっともなく股を開いてる動画、学校のPTAや、サークルの連中に一斉送信されたくなかったら、今すぐ指定の口座に30万円振り込みなさい(笑)』
男の正体は、単なるヤリ目などではなかった。
プライドの高い、実家暮らしの世間知らずなアラフォー女を狙って恐喝を繰り返す、本物の闇の犯罪グループ(美人局)だったのだ。
「いや……っ! 嫌あああああああああ!!」
真理子は実家の豪華な自室のベッドの上で、高価なシーツを掻きむしり、涙と鼻水をドロドロに流して絶叫した。
警察に駆け込めば、自分のこの醜い私生活が両親や世間にすべて露呈してしまう 。
あれほど内心で見下していたピアノ教師の女性に頭を下げて相談するプライドなど、彼女には1ミリも残っていなかった 。
彼女は、親から与えられたなけなしの貯金口座から、ガタガタと震える指で、30万円を振り込むしかなかった。
だが、悪魔の搾取は一度では終わらない。
『次は50万。払えなければ明日、職員室に動画を郵送する』
成果もないのに、なお金を毟り取られ、自分の虚栄心を守るためだけに、ただ耐えて金を振り込み続けろという、逃げ場のない底なしの恐喝ループ。
親の作った生ぬるい温室の中でプライドだけを肥大化させ、他人の誠意をナメくさっていた43歳の音楽教師は 、誰にも言えない暗闇の中で、人格が完全に歪み、精神が完全に「チェックメイト(絶望)」されていたのだ。
男たちが理不尽なドタキャンに血を流していたその裏側で、男たちを条件で値踏みして強がっていたエリート教師もまた、この世界の本当の闇の底で、自業自得の悲惨な叫びを上げていたのだ 。(第13話へ続く)
ご一読ありがとうございます。ハリボテのエリートにハメられ、隠し撮り動画を人質に底なしの恐喝ループに叩き落とされた真理子。他人の誠意をナメくさっていた傲慢な音楽教師は、誰にも言えない暗闇の中で精神を完全に破壊されました。次回、【第13話 歯車たちのプレリュード 〜半年前の群像、すれ違う5つの覇気〜1】。物語は運命のハッキングから「半年前」の記録へと収束する。ひややっこ、美咲、ゆり、ユキ、真理子。お互いの存在すら知らない5人の男女が、同じマッチングアプリという戦場で、それぞれの絶望の歯車を激しく噛み合わせ始めていた――。すべての点と線が繋がる運命の前奏曲を、お見逃しなく。




