第12話:虚飾のポリフォニー 〜43歳・エリート教師の自滅と、プライドの檻〜2
前回のあらすじ:クズ男の歪んだ下心から逃れるため、必死のパッチで夜の繁華街を駆け抜けたゆき。しかし、誰にも助けを求められない暗闇の中、我慢し続けていた猛烈な尿意が限界を迎え、路上で崩れ落ちて大声で泣き叫んだ。システムに心を殺され、尊厳を完璧に破壊された彼女の魂もまた、完全にチェックメイトされていた――。時計の針はさらに、もう一人のアラフォー女性の絶望へと巻き戻る。
ピアノ教師の女性が、真理子のために必死の思いで探してきたお見合い相手。
それは、大学の研究室で黙々と研究に全てを捧げている、地味で無口な、普通に恋愛市場にいたらまずモテないであろう、だが「本物の知性と堅実な誠実さ」を持った素晴らしい研究者の男性だった 。
だが、そのお見合いの席で、真理子の父親と母親は、その男を一瞥しただけで冷酷に言い放つのだ。
「何よ、無口で冴えない男ね。こんな男、うちの可愛い真理子にはこれっぽっちもふさわしくないわ! 却下よ、却下!」
普通の大人なら、ここで親の過保護を突っぱねて相手の誠実さを見るだろう。
だが、真理子もまた、自分の肥大化した虚栄心の檻の中にいた。
「そうよね。お父さん、お母さんの言う通りだわ。私のような知的な音楽教師に、こんな地味な男が釣り合うわけがないわ。男のくせに使えないわね!」
仲立ちを引き受けているピアノ教師のおばちゃんがどんなに誠実な男を連れてきても、
必ずそこで一緒になって蹴飛ばし、親の甘い言葉の依存症になって満足する 。
結果、43歳にして、まともな「恋愛経験がたったの1つもない」という、空っぽな売れ残りの子供 。
それが彼女の本当の正体だった。
そんな彼女が、親に隠れてこっそりと手を出していたハンコ(反逆)――それが、マッチングアプリ『みんなのペアペア』だった 。
表向きは強がりながらも、夜の底なしの孤独に耐えかねた彼女がアプリの画面で求めたのは、自分が最も渇望する『年収800万以上』というスペックと、知的なインテリジェンスを感じさせる高度な会話劇を放ってくる男たちだった 。
写真を開けば、いかにも一流企業で役職に就いているような、スーツを着こなした完璧な大人の男の姿 。
真理子は「ついに私の知性と釣り合う、本物のエリートが現れたわ!」と、胸をときめかせて一瞬で心の壁を融解させ、男の指定したラグジュアリーな空間へと進んでいった 。
だが、それこそが、恋愛市場の最底辺に蠢く「ヤリ目のプロ(強者個体)」が仕掛けた、見え透いたハリボテの罠だったのだ 。




