第12話:虚飾のポリフォニー 〜43歳・エリート教師の自滅と、プライドの檻〜1
前回のあらすじ:クズ男の歪んだ下心から逃れるため、必死のパッチで夜の繁華街を駆け抜けたゆき。しかし、誰にも助けを求められない暗闇の中、我慢し続けていた猛烈な尿意が限界を迎え、路上で崩れ落ちて大声で泣き叫んだ。システムに心を殺され、尊厳を完璧に破壊された彼女の魂もまた、完全にチェックメイトされていた――。時計の針はさらに、もう一人のアラフォー女性の絶望へと巻き戻る。
時間を、大きく巻き戻そう。47歳の男・ひややっこが、アローズの鎧をまとい、ブルーシャネルの香水をまとって伏見の大岩山の山頂へ向かい、世界の通信網をハッキングしたあの運命の夜
――その、ちょうど「1年前」の、ある秋の日の出来事だ 。
京都の由緒ある学校の職員室で、海外旅行のパンフレットをめくりながら、実家暮らしの圧倒的な余裕を周囲に見せつけている一人の大人の女性がいた。
名前は、真理子
――43歳、音楽教師 。表向きの人当たりは抜群に良く、生徒たちからの受けもいい。
誰もが彼女を「自立した、知的な大人の女性」として羨望の眼差しで見ていた 。
だが、彼女の内面は、30年前にいじめの闇からひややっこを救い出した真美さんの持つ「純粋で気高い芯の強さ」とは、全く真逆の怪物に支配されていた 。
それは、年齢と共に肥大化し続け、自らの首を絞め続ける【プライドという名の頑丈な檻】だった 。
43歳、未婚、独身、子供なし 。
実家に守られ、学校という閉ざされた階級社会の中でチヤホヤされてきた彼女は、いつしか男性を「条件」と「知性」の天秤にかける、冷酷な品定めを当たり前にするようになっていた 。
彼女の傲慢さは、プライベートの音楽サークルでも遺憾なく発揮されていた。
彼女が個人レッスンを受けているのは、ある別のピアノ教師の女性だった。
その人は、少し発達障害があり、一度喋り出すとマシンガントークが止まらない癖があったが、ピアノを弾かせれば誰もが息を呑むほどにめちゃくちゃ上手い、本物の才能を持った人だった 。
それだけではない。そのピアノ教師は、今時珍しいほどに人が良く、43歳で売れ残っている真理子を心配して、面倒な「お見合いの話」をいくつも親身になって引き受け、段取りまでして連れてきてくれる、本当の『善意の人』だった 。
だが、高いプライドの檻に引きこおる真理子は、そのお見合いおばちゃんのことを、内心では激しく「見下して」いた 。
お見合いの話を持ってきてくれるから、上から目線で受けてはあげる。
だが、そこに立ち塞がるのが、実家で暮らす真理子の父親と母親――過保護の極みのような両親の存在だった 。
「真理子は本当に可愛いなあ。うちの最高の実力自慢の娘だ」両親は、43歳になった娘を未だに温室の雛のように甘やかし、現実の市場価値を見ようとしなかった 。




