第11話:楽屋裏の猟犬ども 〜24歳・地下アイドルの恐怖と、歪んだ性癖の罠〜2
前回のあらすじ:男を家畜として搾取するアイドルビジネスの真ん中で、激しい孤独に身を焦がしていた24歳の地下アイドル、ゆき。肩書ではなく生身の自分を見てくれる大人の男を求め、彼女は素性を隠してアプリ『みんなでペアペア』に登録した。しかしそこに待っていたのは、コスプレ趣味の女を性的なオモチャとしか見ない、底なしに歪んだ狂気の怪物たちの群れだった――。
「僕、ゆきちゃんのどんな姿も愛するからさ。その姿を写真に撮影させてもらって、ずっと君のこと、君の綺麗なところも、汚いところも、みんな大事に手元に残しておきたいんだよ。いいじゃん、ここでやってよ(笑)」
男の手が、怯えて漏れそうな彼女の衣服に強引に伸びる。
大勢のファンに囲まれ、スポットライトを浴びていたはずの24歳の女性が、アプリの裏側に潜むクズ男の歪んだ性癖と、逃げられない力による支配の恐怖の前に、生き地獄の淵に立たされていた 。
男は最初から、彼女の好きなコスプレの文化も、誠実な人間性も1ミリもリスペクトしていなかった。
ただ、「お洒落なコスプレ趣味の女なら、お酒を飲ませて裏側に連れ込めば、簡単に性的なオモチャ(被害者)にできる」と、彼女の純情を底なしにナメて、罠にハメていただけだったのだ 。
(嫌だ……っ、なんで私が、こんな目に遭わなきゃいけないのよ……!!)
その瞬間、ゆきの心の中で、恐怖を突き抜けた「火事場のクソ力」が爆発した 。
彼女は意図したわけでもなく、無我夢中で、全体重を乗せて男の金玉(股間)を思い切り蹴り上げたのだ 。
「ぶはっ……!?」
男が悶絶してその場にうずくまった隙に、ゆきはバックヤードの重い扉をこじ開け、夜のストリートへと飛び出した 。
「はぁ、はぁ、はぁっ……!!」
背後から男が追いかけてくる恐怖に怯えながら、必死のパッチで夜の繁華街の街を走り続けた 。
頼りがいのある大人の男も 、助けてくれる警察の影もない暗闇の中を、ただただ走り、なんとか誰もいない高架下の暗がりにまでたどり着いた。
だが、男の手から逃げ延び、安堵の息を漏らしたその瞬間――張り詰めていた肉体の限界が、一気に崩壊した。
「あ……っ……」
我慢し続けていた猛烈な尿意が、彼女の意志を無視して溢れ出した。夜の冷たいアスファルトの上に、シャーっと、切なく、長い時間をかけて広がっていく温かい液体の音 。
24歳のアイドルのプライドも、オシャレをしていた女の子としての尊厳も、その瞬間、完全に夜の闇へと溶け落ちていった。
「う……うわあああああん!!」
ゆきは、おしっこで濡れた地面に崩れ落ち、自分の膝を抱えながら、情けなさと屈辱で涙と鼻水を流して大声で泣き叫んだ 。「なんで……なんで私ばっかり、こんな目に遭わされるのよ……!! 私だって、ちゃんとした男の人と一緒にいたい……! 一緒にいたいのに……っ!! アイドルとか、アニメとかコスプレとか、そういう変わったことが好きだったら、普通の幸せを望んじゃダメなの!? 誰か……誰か教えてよ!!」 夜空に響く、一人の女性の魂からの絶望の咆哮 。
「もう、こんなことばっかり……。どうして良いのかわからない……。私は、何のためにオシャレをして、誰のために笑っているの……?」
システムに心を殺され、クズ男の異常な性癖によって尊厳を完璧に破壊され、孤独の限界に達していた彼女の魂は、完全に「チェックメイト(絶望)」されていたのだ―― 。男たちが理不尽なドタキャンに血を流していたその裏側で、男たちを都合よく搾取するシステムの側に立たされていた24歳の地下アイドルもまた、この世界の狂った歪みの中で、完全に絶望していたのだ 。
(第12話へ続く)
ご一読ありがとうございます。襲いかかるクズ男の股間を蹴り上げ、夜の街へと逃げ延びたゆき。しかし、高架下で張り詰めた肉体の限界を迎え、アイドルのプライドも女の子としての尊厳も、冷たいアスファルトの上へと無残に溶け落ちていきました。次回、【第12話 虚飾のポリフォニー 〜43歳・エリート教師の自滅と、プライドの檻〜1】。1年前のあの夜、絶望の淵に立たされていたのは彼女たちだけではない。過保護な両親に甘やかされ、高いプライドの檻の中から男を冷酷に値踏みし続けてきた43歳の音楽教師・真理子。自業自得の牙が、彼女の知性を内側から喰い破る――!逃げ場のないプライドの檻の末路を、どうぞ見届けてください。




