第10話:スポットライトの死角 〜24歳・地下アイドルのやきもきと、偽りの熱狂〜2
前回のあらすじ:トリプルワークの激務と息子の反抗期に耐え、やっと出会えた「尊敬します」という男の優しい言葉。だがそれこそが、シングルマザーの弱みに付け込んだクズ男が仕掛けた、最も残酷な罠だった。繋いだ手の温もりを刃に変えられ、台所の床に這いつくばって血を吐くような嗚咽を漏らすゆり。男たちがドタキャンに血を流す裏側で、真面目な母親の魂もまた完全にチェックメイトされていた――。
なぜなら、彼女には絶対的な、冷酷なマニュアルの境界線があったからだ。
「ファンの男の人とは、逆立ちしたって一緒にはなりたくない」
どれだけ「好きです」と熱烈にアピールされようが、彼女にとってファンは「自分の生活とアイドルビジネスを維持するための、都合の良い家畜(養分)」でしかなかった。
チェキを撮り、笑顔を売り、握手をしてコスト(金)を巻き上げるだけの対象。
そんな男たちを、自分の人生を分かち合う「対等な男」として見るなど、生理的に200%不可能だったのだ。
「せっかく、周りに男の人はたくさんいるのに。私を全力で慕ってくれている人もいるのに、なんで誰も私の本当の寂しさを救ってくれないの……?」
男たちを家畜として見下すプライドの裏側で、一人の24歳の女性としての彼女は、激しいやきもきと孤独に身を焦がしていた。
アニメの話を本音のテンポで対等に語り合える、マニュアル通りのオタクではない「本物の大人の男」に出会いたい。
条件やアイドルの肩書を剥ぎ取った、生身の私をリスペクトして引っ張ってくれる強者が欲しい 。
だが、この狂った恋愛ビジネスの世界(天動説)は、彼女をさらに深い闇へとハメていく。
「ゆきちゃん、ファンの男を繋ぎ止めたければ、もっと『当日にならないと分からない笑』って気まぐれなLINEを送って焦らせなさい。男にばかりデートのコストを要求して、耐えさせて、おねだりすれば、いくらでも金を落とす家畜になるから(笑)」
所属事務所やファンサークルの大人たちから、そんな「男をナメて搾取するあざといテクニック」ばかりを吹き込まれ、彼女の心は、さらに冷酷に、そして孤独にすり減っていった。
いくら男を焦らせても、チェキ代が増えるだけで、私の心は1ミリも満たされない。
アプリに登録してみても、メッセージを送ってくるのは、すぐに下心を剥き出しにしてくるクズ男か、ライブ会場にいるのと同じような、自分の顔色を伺ってビクビクしている奴らばかり。
「もう、どうして良いのかわからない……。私はこんなに大勢の男に囲まれて、一体何をやっているの……?」
1年前のあの夜。楽屋の鏡の前で、ゆきは華やかなコスプレ衣装を着たまま、スマホの画面を睨みつけて声を殺して泣いていた。出口のない深い暗闇。システムに心を殺され、偽りの熱狂の中で孤独の限界に達していた彼女の魂は、完全に「チェックメイト(絶望)」されていたのだ――。
男たちがドタキャンや理不尽な拒絶に血を流していたその裏側で、男たちを都合よく搾取するシステムの側に立たされていた24歳の地下アイドルもまた、この世界の歪みの中で、完全に絶望していたのだ 。(第11話へ続く)
ご一読ありがとうございます。華やかなステージの上、何百人ものオタクに囲まれながらも、心底冷え切った目で世界を睨みつけていた24歳の地下アイドル・ゆき。「男を家畜として搾取しろ」という大人たちのマニュアルの裏側で、彼女の魂もまた、孤独の限界に達して完全にチェックメイトされていました。次回、【第11話 楽屋裏の猟犬ども 〜24歳・地下アイドルの恐怖と、歪んだ性癖の罠〜1】。アイドルの肩書を隠し、生身の自分を見てくれる大人の男を求めてアプリに登録したゆき。しかし、そこに潜んでいたのは、これまでのクズ男どもとは全く異質の「底なしに歪んだ、狂気の怪物たち」だった。薄暗いバックヤードの死角に追い詰められた彼女を、最悪の生き地獄が襲う――!緊迫の次話を、どうぞお見逃しなく。




