第1話 大岩山をハッキング2
1. 絶望と完全損切り(プロローグ)
主人公は、いじめや孤独に耐え続け、47歳で深夜勤の仕事をしながら真面目に生きてきた男。しかし、1年間魂を込めて尽くした女性「のんこ」から、事務的で冷酷なLINEのスクショ(拒絶メッセージ)を送りつけられます。さらに世間の「男なら耐えろ」という自己責任論に絶望し、世界のシステムそのものをハッキングして破滅させることを決意。「大岩山」へと向かいます。
翌朝。大阪に新設されたばかりの『男性向け性被害相談室』のオペレーター室には、異様な空気が流れていた。
「男だって傷つくし、男だって声を大にして被害を訴えていい」という、現代社会が用意した最後のセーフティネット 。
だが、そのシステムこそが、大岩山から逆流した霊的ウイルスの最初の標的だった。
ジリリリリリ!
室内の電話が一斉に鳴り響く。
「はい、男性専用相談窓口です……」
相談員が受話器を耳に当てた瞬間、その顔が恐怖に凍りついた。
受話器の向こうから聞こえるのは、人間の声ではない。
大岩山の低級霊たちの、呪詛の波動だ。
『お前は男じゃない』
『どれだけ耐えても成果はない』
『誰も、お前とは繋がらへん』
「あ、あ、あああ!」相談員は頭を抱え、
受話器を投げ出してその場に崩れ落ちた。
脳に直接低級霊を送り込まれ、自尊心を完璧に破壊されたのだ。
救いを求めて電話をかけたはずの全国の傷だらけの男たちの端末にも、その呪いの波動が逆流していく。
命綱だったセーフティネットが、一瞬で「人間を廃人にするトラップ」へと変貌した。
同時に、マッチングアプリの画面でも『大崩壊』が始まっていた。
街中のおしゃれな男女が、端末の画面を見て息を呑んでいる。アプリの画面には、誰もが「本音で深い話ができる最高のパートナー」と錯覚する、
完璧な容姿とプロフィールの異性が大量発生していた。
「ついに出会えた……! この人なら、俺の深い話を分かってくれる!」日本中の何万人、何十万人という誠実な男たちが、アローズの服を着込み、シャネルの香水をまとい、店をバチッと決めてデートの約束を取り付ける。
だが、彼らが最高潮の希望を胸に、待ち合わせ場所に足を踏み入れたその瞬間――。
端末の画面が一斉に明滅した。
届いたのは、全員同時に、一文字の狂いもない冷酷な拒絶のメッセージ。
『うーん。あなたには悪いと思ったんだけど、伝えとかないといけないと思って! 気になる人が出来たので、今日のデートには行けません✨
ほんと、ごめんなさい!
でもお店まで決めてくれたから、言っとかないといけないと思って。
さようなら。』
「な、何なんだよこれ……!」
「店まで決めてたのに、当日になっていきなり……!」
期待を限界まで跳ね上げられた直後に、脳の奥底まで突き刺さる絶望の往復ビンタ。
デートスポットだった四条河原町や、京都の街、そして全国の至る所で、男たちが一斉に膝を突き、頭を抱えて涙と鼻水を流しながら絶望の悲鳴を上げ始めた。
その男たちの壊れた心から、新たな低級霊のエネルギーが溢れ出し、さらなるウイルスとなって街を侵食していく。
大岩山の山頂。鳥居の前に腕を組んで佇む俺のスマホに、羽束師の女からメッセージが届く。
『今何してるん? 今週の日曜日って用事ある?』
かつて俺を気まぐれに振り回し、当日にならないと分からないとナメた態度を取っていた女が、世界のシステムが崩壊し始めた焦りから、必死に俺にしがみつこうとメッセージを送ってきている。
俺はフッと冷たい笑みを浮かべ、その画面をフリックして『完全既読スルー(完全放置)』の闇に葬り去った。
「遅いんや。お前らのワガママに付き合って、耐えて頑張るお利口な客は、もうこの世界にはおらんのや」
大岩山の山頂から見下ろす京都の街は、低級霊のデジタルウイルスによって、静かに、確実に、逃げ場のない混乱と絶望の底へと沈み始めていた。
耐えることをやめ、世界をチェックメイトした俺の、本当の復讐劇の幕が上がったのだ。
(第2話へ続く)
ご一読ありがとうございます。セーフティネットを破壊し、マッチングアプリで同時多発ドタキャンを引き起こしたひややっこ。かつて自分をナメていた女からの命乞いを冷酷にスルーし、復讐の手綱を握り締めます。次回、【第2話 強者の記号のハッキング、そしてストリートの完全崩壊1】。「アローズの服を着てシャネルをまとえばモテる」と、なおも自己責任論とステータスを煽り続ける恋愛アドバイザーども。ひややっこは、その『強者の鎧』そのものを呪物へと変貌させる――!次回も応援よろしくお願いいたします!




