第1話 大岩山をハッキング1
1. 絶望と完全損切り(プロローグ)
主人公は、いじめや孤独に耐え続け、47歳で深夜勤の仕事をしながら真面目に生きてきた男。しかし、1年間魂を込めて尽くした女性「ルナ」から、事務的で冷酷なLINEのスクショ(拒絶メッセージ)を送りつけられます。さらに世間の「男なら耐えろ」という自己責任論に絶望し、世界のシステムそのものをハッキングして破滅させることを決意。「大岩山」へと向かいます。
深夜2時。
京都府京都市伏見区深草向ヶ原町。
大岩山の山頂へと続く旧道は、街灯の光すら届かない完全な漆黒に包まれていた。
かつては不法投棄の山として荒廃し、今なお独特の不気味な結界を形成しているこの場所は、地元民なら誰もが知る、京都屈指のドローカルな心霊スポットだ。
アローズのスマートアンクルパンツが草木に擦れる音だけが、静寂に響く。
普通の人間がこの道を歩けば、低級霊の放つ冷気に身体が震え、恐怖で一歩も動けなくなるだろう。
だが、今の俺の胸の奥にある絶望の質量は、この山に渦巻くどの怨念よりも遥かに重く、冷たかった。
山頂付近にある、あの奇妙な幾何学模様が刻まれた「大岩神社」の鳥居の前に立つ。
視界の端に、無数の半透明な人影がゆらゆらと蠢いているのが見える。
居場所を失い、他人の感情のゴミ箱にされて擦り切れた、無数の低級霊たちの群れだ。「おい、お前ら」俺はドスッと地響きを立てるような低い声で、蠢く影たちに語りかけた。
「お前らも、世間の綺麗事の割を食って、ここに捨てられたんやろ。必死に耐えて、頑張って、最後は『都合のいい存在』としてケジメをつけられて、ここに這いつくばってるんやろ」
低級霊たちの動きがピタッと止まり、一斉に俺のほうを振り向いた。
「俺の手を貸してやる。この大岩山の結界を電波塔に変えて、お前らを世界中の人間に一斉配信してやる。
男にばかり『耐えろ』と抜かすこの理不尽な世の中を、一緒の絶望に叩き落とそうやないか」
俺がそう吠えた瞬間、胸の奥からドス黒い覇気が溢れ出し、大岩山の霊的磁場と完全にシンクロした。
霊たちが歓喜の悲鳴を上げながら、俺の身体の周りを高速で旋回し始める。
携帯端末を取り出し、マッチングアプリ『みんなでペアペア』の画面を開く。
退会まであと1週間だったアカウント。
そこへ、大岩山の全霊力を注ぎ込み、デジタルウイルスのコードを書き換えていく。
「まずは、女どもの『承認欲求』と、男たちの『繋がりへの飢え』のシステムをハックする」俺の指先から放たれた霊的エネルギーが、端末を通じて通信網へと逆流し、アプリのアルゴリズムを完全に支配した。
大岩山の低級霊たちが、デジタルデータへと変換され、ネットワークの海へと無限に増殖しながら流れ出していく――。
ご一読ありがとうございます。大岩山の結界をハックし、低級霊をデジタルウイルスとしてネットワークに解き放ったひややっこ。次回、【第1話 大岩山をハッキング2】。牙を剥いた霊的ウイルスが、まずは現代社会が用意した「男たちの最後のセーフティネット」へと襲いかかる。救いを求めた男たちの端末に流れる、最悪の呪詛とは――!?ぜひ次回も、この絶望のリアル戦線を見届けてください。




