第9話:反抗期の残雪〜 37歳・シングルマザーの孤独と、すり切れた母の祈り〜3
大金を毟り取られ、男たちのナメくさったメッセージに自尊心を粉々に砕かれ、成果もないのに「もっと耐えて媚びろ」と要求される 。
男たちが理不キャンや拒絶に血を流していたその裏側で、トリプルワークで必死に子供を育ててきた37歳の母親もまた、この狂った恋愛市場の歪みの中で、完全に「チェックメイト(絶望)」されていたのだ 。
「もう、どうして良いのかわからない……。私は、どうやって男の人と出会い、どうやって結ばれれば良いの……?」
出口のない深い暗闇。1年前のあの夜、冷え切った台所の床で、ゆりはスマホを握りしめたまま、声を殺して涙を流していた。
孤独の限界に達した1年前、彼女は藁にもすがる思いで別のマッチングアプリの門も叩いた 。
彼女の生活に、何件も結婚相談所を登録するような余裕はなかった。
しかしそこで、奇跡的に「最高に感じの良い大人の男」とマッチングし、1回目のデートへと漕ぎ着けたのだ。
その男は、これまでのクズ男たちとは全く違っていた。
「シングルマザーで男の子3人をトリプルワークで育ててるなんて、本当に尊敬します。今まで1人でよく頑張りましたね。これからは僕が、あなたの話を聞くし、心の支えになりますよ」
その優しい言葉、温かい体温に、ゆりの凍りついていた心は一瞬でほどけた。
デートの帰り道、2人は自然と手を繋ぎ、大勢の人が行き交う繁華街の夜道を歩いた。
繋いだ手の温もりに、ゆりは「神様、私やっと、苦しかった30代の人生を救ってくれる、本物のパートナーに出会えたのかもしれません……」と、胸を熱くして涙ぐんだ 。
だが、その救いの光こそが、この狂った恋愛市場が仕掛けた、最も残酷なトラップ(罠)だった 。
心を許し、手を繋ぎ、本当に楽しく幸せな時間を過ごした、まさにその直後。
男はスマホの画面を見つめながら、フッと冷たい、クズの本性を剥き出しにした薄笑いを浮かべて、ゆりにこう言い放ったのだ。
「あ、ごめん。やっぱり付き合うとかは無理だわ。だってさ、中学生の子供が3人もいるシングルマザーなんて、まともに籍入れたら俺が一生そのガキどもの養育費の奴隷になるだけじゃん?(笑)
でもさ、身体の相性は良そうだし、これから週1回、都合の良い時だけホテルで会う『セフレ』としてなら、可愛がってあげてもいいよ?(笑)」
「……え……?」
繋がれていた手の温もりが、一瞬で氷の刃に変わって脳髄を突き刺した。
感じの良い大人の男という化けの皮の裏に隠されていた、あまりにも醜く、あまりにも女の誠実さをナメくさった、強欲な本性(下心) 。
男は、最初から彼女の必死な生き様をリスペクトする気など1ミリもなかった。
ただ、「弱っているシングルマザーなら、優しくして手を繋げば、簡単にタダで身体を搾取できる(セフレにできる)」と、彼女の純情を底なしにナメて、罠にハメていただけだったのだ 。
「もう、どうして良いのかわからない……。私は、どうやって人と出会い、どうやって結ばれれば良いの……?」
1年前のあの夜。冷え切った台所の床に這いつくばり、ゆりはスマホを握りしめたまま、血を吐くような嗚咽を漏らして涙を流していた。
出口のない深い暗闇。
システムに心を殺され、クズ男の本性に尊厳を完璧に破壊され、孤独の限界に達していた彼女の魂は、静かに、完全に燃え尽きようとしていた―― 。
男たちが理不尽なドタキャンに血を流していたその裏側で、真面目に生きてきた37歳の母親もまた、この世界のクソどもの手のひらで、完全に「チェックメイト(絶望)」されていたのだ 。
(第10話へ続く)




