第9話:反抗期の残雪 〜37歳・シングルマザーの孤独と、すり切れた母の祈り〜2
子供たちは全員、中学生になり、激しい反抗期に突入していた 。
トリプルワークの激務を終え、足を引きずるようにして帰宅した夜の静まり返ったリビング。
「……明日の学校の準備、ちゃんとやったの? お弁当の仕込みもあるから、早く言ってね」
心配になって優しく手を貸そうとするゆりに対し、息子たちが投げつけるのは、ゴミを見るような冷たい視線だった。
「あー、余計なことしなくていいんだよ、ババア。うぜえな」 「俺のことなんてほっといてくれよ」
ババア、うぜえな、ほっとけ。思春期特有の反抗期だと頭では分かっていても、私、こんなに命を削って頑張っているのに、一体何をしてるんやろ……と、情けなさと悔しさで、子供たちが憎いわけじゃないのに、1人で風呂場や台所で声を殺して泣き崩れる夜が何度もあった。
「私は一人の人間として、誰のために生きているんだろう……。私のこのすり切れた心を、ありのまま分かち合ってくれる、温かいパートナーが欲しい……」
孤独の限界に達した1年前の夏、彼女は藁にもすがる思いで大手の結婚相談所やマッチングアプリ『みんなでペアペア』の門を叩いた 。
だが、そこは、ただ真面目に子供のために生きてきた母親の尊厳を、さらに踏みにじる残酷な「スペック主義の地獄」だった 。
プロフィールに「シングルマザー、子供3人(中学生)」と書いた瞬間、男たちの対応は露骨なまでに冷酷を極めた。
マッチングした男たちから送られてくるメッセージは、目を疑うような品定めと侮辱の言葉ばかりだった。
『子供3人もいるなら、デート代は男持ちとか期待しないでね(笑) むしろ金蔓探してんの?』
『中学生3人とか反抗期で荒れてそう(笑) 連れ子の面倒とか見るの御免だわ、セフレならいいけど』
さらに、親身なフリをする中小の結婚相談所のカウンセラーからも、個室の面談で血も涙もない言葉を叩きつけられた。
「ゆりさん、37歳で子供3人のシングルマザーなんて、市場価値は実質ゼロですよ? 男の人は自分の子供を産んでくれる若い子か、負担のない独身を求めてますから。結婚したければ、30万円のプレミアコースに入って、男の性欲を満たすような都合のいい女になる努力をしなさい」
「……そんなの、違う。私は、男の人の財布が欲しいわけでも、都合のいい玩具になりたいわけでもない。私の頑張りをリスペクトして、お互いに支え合える本物の繋がりが欲しいだけなのに……!」




