番外編40:二、三時間の狂気上演(おままごと)の果てに漏れ出す生体データ~去勢された快楽殺人鬼の網膜フリーズと、暗黒上野から這い出る巨大消化器官の逆ハック~1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
チ、チ、チ、チ……。
とっくに夜の帳が下り、放課後公園の路地裏は光を拒絶するような、どす黒い漆黒の闇に包まれていた。
アスファルトの熱を吸って増殖した、数千、数万のウジ虫たちが、幼児の腐敗死体の粘膜を咀嚼し、カサカサと微細な摩擦音を立てて這い回る「地動説(自然界の分解システム)」の不快な生体ノイズだけが、夜の静寂をねっとりと侵食している。
九条彩香(45歳)は、脳内最深部のバグ――『インセクトフィリア(昆虫愛好症)』がもたらす極上の皮膚感覚に脳を焼かれ、完全に時間を忘れていた。
すでに二、三時間もこのヘドロの臭気が満ちる路上にしゃがみ込み、ウジ虫の這う幼児の死体を抱いて「おままごと」の上演を継続している。
「フフ、アハハ……。いい、かおるちゃん。お家の中ではどれだけパパとバカ騒ぎできても、一歩お外に出れば『女の子らしくしなさい』って檻に閉じ込められる。そんな平和な時代の二重の抑圧なんて、この市場価値ゼロの荒野では、すべて無意味にロスカット(完全灰滅)されたのよ」
彼女がその白く滑らかな指先で死体の肉の裂け目を愛撫するたび、変色した脂を纏ったウジ虫が彼女の手首を伝い、腕の皮膚へと這い上がってくる。
冷たく、ドロドロとした生々しい物質の感触(生存のファクト)。
皮膚のレセプター(受容器)がその生体ノイズを感知するたび、彩香の全身の神経はゾクゾク、ゾクゾクと狂気的に震え上がっていた。自分が一切の汚れもない女王などではなく、この子を侵食する虫たちによって、世界で一番嘘をつかない『クリーンな物質(死体)』へと一緒に還っていっているのだという、最悪の全能感の完成。
物陰の死角、自動小銃の銃口を向けたまま配置に就いている元警察幹部や元エリート機動隊員たち――彩香を聖母として奉る男たちは、その異様な上演を冷徹な網膜プロセッサでじっと監視していた。
【感情の完全隠蔽】によって呼吸をシステム化し(吸って5秒、止めて5秒、吐いて5秒)、ウイルスのハッキングをスルーし続けている彼らの知性を持ってしても、この凄惨なおままごとには強烈な不気味さと呆れを抱かざるを得ない。
(一体、聖母は何を始めているんだ……。あの非モテの男に下ネタを叫ばせて、ウジ虫を弄ぶなんて、完全に脳のプロセッサがイカれている……)
しかし、少しでも感情の動揺を見せればウイルスに脳をハックされて即死する。
さらに、彩香の提供する肉体的・生理的なご褒美がなければ、この無法地帯では高級な缶詰や水すら維持できない。
男たちはただ、冷ややかな視線を暗闇に固定し、黙ってインモラルな護衛の役割を演じるしかなかった。




