番外編39:市場価値ゼロの夜に響く、怪物たちの噛み合わないシステム論~放課後公園の暗黒で起動する、ウジ虫まみれの絶対聖母教育論と、精神的去勢を呑み込む快楽殺人鬼の擬似おままごとプロトコル~3
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
「……は? ババア、マジで頭おかしいんじゃないの?」
カミソリを握る連続殺人鬼の顔が、初めて本物のドン引きの表情へと歪む。しかし、暗闇から気配がする。
それは、彩香の親衛隊の元エリート警察官数名だった。
彩香の知恵が生きる生命線になっていた彼らは、彼女に悟られないように、常に彼女の身辺に隠れ、警護していたのだ。
突きつけられた無数の銃口という物理的な圧倒的格差を前に、幽二の脳内プロセッサは瞬時に「擬似ログ」を弾き出した。
(ここで死んだら、僕のクリーンな人形生産システムが完全にロスカットされてしまう。……最悪だけど、ここは従ったフリをしてこのコミュニティの内部に入り込んでやる。隙を見て、このババアの首をカミソリで切り裂けばいい)
「……はぁ。分かったよ、やればいいんだろ、お父さん役。……で、何させたいわけ?」
幽二は心底の嫌悪感を押し殺し、カミソリをポケットに収めて直立不動の姿勢をとった。その姿を見つめる彩香の目は、完全に彼を「父親という都合の良い無機質な記号」へと格下げ(認知)していた。
「簡単よ、あなた。平和な時代、女の子が家の中でどれだけ心を解放しようとも、一歩外に出れば『女の子らしくない』って二重の檻に縛られていた。家庭内という仮初めの安全圏ですら、外の査定システムを意識させられていたの。それが嫌で嫌で仕方がなかった……。だから、お父さんであるあなたが、この子(娘)の檻を壊してあげるのよ」
彩香はグシャグシャに濡れた顔で笑いながら、幼児の腐敗死体を幽二の足元へと差し出した。
「さあ、この子に向かって、心の底から『うんこ!ちんちん!ま〇こ!』って、笑顔で大声で叫び続けなさい。平和な時代に、父親たちが、少年漫画誌が、男の子にそうして開放感を与えていたようにね!
なぜ、女の子にはその機会がないの?!
女だって、解放されたいの!!」
幽二の網膜が、足元のドロドロとした有機物の塊を捉える。
若い可憐な少女に「清楚なクリーンさ(芸術)」のみを求めていた彼にとって、ババアや取り巻きの警察の威圧に怯えながら、ウジの湧いた幼児の死体に向かって下俗な言葉を絶叫させられる行為は、自身の美学を内側から完膚なきまでに汚される、最悪の精神的去勢(尊厳破壊)であった。
「……っ」
喉が引き攣り、胃液が逆流しそうになるのを耐えながら、幽二は引きつった「理想の父親の笑顔」を顔面に張り付けた。
「わ、わーい……うんこ、ちんちん……ま、ま〇こ……。今日も、元気だね、僕たちの娘は……」
「フフ、アハハハハ! そうよ! もっと強く、もっと大声で叫ぶのよ、お父さん!」
彩香の歓喜の絶叫が重なる。さらに彩香は、幼児の肉体の裂け目から蠢き出るウジ虫を指差し、恍惚の表情で迫る。
「見て、私たちの娘がこんなに元気に生命のパルスを動かしているわ。あなたも触って、褒めてあげなさい」
幽二は、心底虫酸が走るのを自尊心のプロセッサで無理やり塗り潰しながら、幼児の腐敗した肉体へと手を伸ばした。カミソリを握るはずの指先で、カサカサと蠢くウジ虫を摘み上げる。
「うあ……本当に、元気な、ウジ虫、だね……。お母さんに、似て、可愛い、よ……」
「ああ……、んっ……、心地いいわ、あなた……!」
ウジ虫を這わせた聖母が下ネタを絶叫し、その横で、心の中で「絶対に殺してやる」と包丁のような殺意を研ぎ澄ましながら、笑顔で幼児の死体と虫を褒めちぎる殺人鬼の父親。
この、脳髄の限界を突破して引きずり込まれるような、新世界の夜。
法律も世間も死に絶えた放課後公園の暗闇で、完全にすれ違った二人の怪物のシステム論が、最悪の疑似家族として、今、おぞましく起動した。
番外編40へ続く




