番外編39:市場価値ゼロの夜に響く、怪物たちの噛み合わないシステム論~放課後公園の暗黒で起動する、ウジ虫まみれの絶対聖母教育論と、精神的去勢を呑み込む快楽殺人鬼の擬似おままごとプロトコル~1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
チ、チ、チ、チ……。
放課後公園のコンクリートの物陰に、完全な静寂が戻っていた。いや、それは静寂ではない。アスファルトの熱を吸って増殖した、数千、数万のウジ虫たちが、幼児の腐敗死体の粘膜を咀嚼し、カサカサと微細な摩擦音を立てて這い回る「地動説(自然界の分解システム)」の不快な生体ノイズだ。
「わーい!ま〇こ!ま〇こ!」
脳内最深部のバグ――『インセクトフィリア(昆虫愛好症)』を完全駆動させ、涙と恍惚の汗で顔をグシャグシャに濡らした九条彩香(45歳)の絶叫が、夜の帳が下りた路地裏に虚しく反響していた。手首を伝い、滑らかな皮膚を這い上がるウジ虫の冷たいパルス。それは彼女にとって、平和な時代のジェンダーの二重の檻(らしさの押し付け)を完膚なきまでに爆破する、究極の解放の儀式であった。
だが、その狂気の上演空間に、唐突に割り込んできた不協和音(生体データ)があった。
ガサリ、と瓦礫が鳴る。
物陰からばっぱりと姿を現したのは、衣服を完璧に整えた一人の男だった。その手には、鈍い銀光を放つカミソリが握られている。生きた可憐な少女を、一番美しい瞬間に「嘘をつかないクリーンな人形」へと変換するシステムを完成させたばかりの連続殺人鬼――狗飼幽二であった。
二人の怪物の網膜プロセッサが、同時に互いの存在をロックオンする。
読者が目撃すれば、心臓が凍りついてひっくり返るような、新世界における「異常者同士のファーストコンタクト」。
しかし、そこにサスペンス映画のような熱量のある緊迫感は、1ミリも存在しなかった。
そこに横たわっていたのは、ただただ冷徹で、絶対的な、互いへの「生理的嫌悪」と「圧倒的な見下し合い」であった。
「……チッ。一体このババアは、夜中にこんなところで何をやってるんだ……?」
幽二の脳内プロセッサは、目の前の光景を視認した瞬間、急速に冷え切っていた。
次の「クリーンな芸術」を求めて夜の荒野を徘徊していた彼にとって、45歳の九条彩香など、性欲の対象としても、コレクションの標的としても、完全に価値の無い「有機物のゴミ」に過ぎない。
それどころか、そのババアが、緑色に変色してガスで膨張したドロドロの幼児の死体を抱き抱え、自分自身にもウジ虫を這わせながら下ネタを絶叫しているのだ。
幽二が最も忌み嫌う「死体の尊厳を破壊する汚い腐敗システム」のど真ん中で、顔を濡らしている狂人。
(最悪だ。せっかくいい気分だったのに、とんでもないゴミ屋敷の主に出くわしちゃったな。キモすぎるだろ、このババア……)
幽二のカミソリを握る手は完全にブラ下がり、そこには呆れ果てた、不気味なものを見るような軽蔑の視線だけが宿っていた。
一方、その冷ややかな視線を浴びた瞬間、九条彩香の【ステルスマインド】の内側でも、最悪の防衛プロトコルが作動していた。




