第8話:逆光の羅針盤 〜46歳・真面目に生きてきた彼女の、もう一つの絶望〜1
前回のあらすじ:真美さんをスペックで切り捨て、俺の47年の純情をナメくさった恋愛市場を、地動説のペンで完全破壊したひややっこ。大岩山の山頂で無敵の覇気を放つ男の戦いから、時計の針は「1年前」へと巻き戻る。京都の片隅で、過酷な肉体労働の現場を30年間一途に守り抜いてきた46歳の女性・美咲。彼女の凍えるほどの孤独と、勇気を出して一歩を踏み出したアプリの世界で待ち受けていた罠とは――。
時間を、大きく巻き戻そう。
47歳の男・ひややっこが、アローズの鎧をまとい、ブルーシャネルの香水をまとって伏見の大岩山の山頂へ向かい、世界の通信網をハッキングしたあの運命の夜
――その、ちょうど「1年前」の、ある日のことだ。
京都の片隅で、静かに夜を迎えようとしていた一人の大人の女性がいた。名前は、美咲――46歳 。
高卒から30年間、早朝からの仕込み、時には夕方からの不規則な勤務、
肉体労働に近い過酷な現場を、彼女はただ一途に、真面目に守り抜いてきた 。
世間はよく「女性は若いうちに遊んで、男を品定めして楽に生きている」などと一括りに言うが、
それは一部のモラルの低い女たちの話だ 。
美咲のように、不器用で、真面目で、自分の足で自立して生きていこうとする大人の女性にとって、
この現代社会は、男たちと同じように冷酷で、孤独な戦場だった 。
30年間、仕事にすべてを捧げてきた。
気がつけば46歳 。
周りはみんな家庭を持ち、夜勤明けの冷え切った自室に帰るたび、胸を締め付けるような「圧倒的な孤独」が、
彼女の温かい体温を奪っていった 。
「私だって、誰かと心から本音で深い話をしたい。条件や年齢じゃなく、私の30年の頑張りをリスペクトして、寄り添ってくれる温かいパートナーに出会いたい」
そんな、すがりつくような願いを胸に、彼女は勇気を出してマッチングアプリ『みんなでペアペア』を始めた 。
綺麗めな服なんて似合わないから、普段通りのナチュラルメイクと、カジュアルなスタイルで、一文字一文字、誠実にプロフィールを書いた 。




