番外編37:恋愛市場の絶対聖母が晒す、知能指数ゼロの非モテ養分カルテ〜五百万人ロスカットの首都・東京で、美少年AIに胎内回帰を懇願する四十五歳カウンセラーの完全隠蔽ステルスマインド〜3
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
男たちを効率よく動かし、自身は一切の手を汚さずに生存データを貢がせる完璧なハッキング・システム。
45歳にして圧倒的な美貌を保つ彩香にとって、男たちの性的な視線など単なる記号に過ぎない。
恋愛市場の絶対聖母として男を格付けしてきた彼女は、このディストピアにおける「女性の肉体・生理データ」という解剖学的価値をも完璧にコントロールしていた。
「これを上納すれば、あなたを私の防衛システムの一部として格付け(認知)してあげます」
ほんの少しおっぱいを揉ませる。特殊な性癖を持つエリート男の要求に応じ、放尿や脱糞、オナニーのファクトを観測させてやる。
羞恥心という名の感情さえ捨てれば、何も肉体をまるごと男たちに差し出すわけでもない。
生き残るために感情を空っぽに固定している彩香にとって、そんなデータ提供は何てことない取引だった。
ご褒美というパルスをデリバリーされた男たちは、従順な兵隊(記号)となり、命がけで略奪してきた高級な缶詰や水を、彼女のオフィスへせっせと貢ぐ最悪の生存システムが完成していた。
楽園の密室と、男たちを支配する現実空間。その往復は完璧なはずだった。
――だが、大岩山のデジタルウイルスは、彼女の強固な【感情の完全隠蔽】の防衛線を、外側からではなく、本人すら気づいていない「脳内プロセッサの最深部のバグ」を介して内側から静かに侵食し始めていた。
セミナーを終えた夕暮れ。
兵隊たちが物資を略奪している間、彩香は足がひび割れた放課後公園の近くの路地裏を、ステルス・マインドを維持したままブラブラと歩いていた。
コンクリートの物陰。そこで彼女の網膜プロセッサが、一つの「有機物の塊」をロックオンした。
それは、まだ4歳ぐらいの、小さな女の子の死体だった。
衣服はボロボロに引き裂かれ、すでに数日が経過しているのか、生体特有のリアルな分解システム(腐敗)が始まっていた。
そして、その幼い皮膚の裂け目や、生気を失った粘膜の奥から、無数のハエの幼虫や甲虫といった、どす黒く蠢く「虫たち」がカサカサと這い回っていた。
かつて文明社会にいた頃の九条彩香なら、一瞬にして理性をシャットダウンさせ、生理的嫌悪のパニックを起こしてフリーズするはずの、悍ましい地獄の光景。
「あ……、……っ」
しかし、その死体と蠢く虫たちを凝視した瞬間。
彩香の脳内プロセッサの最深部、誰にも、自分自身にすら暴かれていなかった禁忌の領域のパルスが、突如として激しく明滅を始めた。
胸の奥から突き上げてくる、えも言われぬ奇妙な感覚。
恐怖でも嫌悪でもない、脳細胞の奥底がじっとりと濡れていくような、背徳的な全能感と悦びの波。
ウジと虫たちに侵食され、完全にコントロールを失った無垢な物質(死体)のファクトが、彼女の脊髄をゾクゾクッとした強烈な戦慄となって駆け抜けていく。
(何……これ……? 私、いま、何を――)
自身の強固な防衛線の内側で、最悪のバグ(未知の特殊性癖)が産声を上げたことに、絶対聖母はまだ気づいていない。
番外編38へ続く




