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大岩山から絶望を配信する〜男は耐えろと抜かす世界を、低級霊のウイルスで完全チェックメイトしてやった〜  作者: ひややっこ万次郎
第8章:『狂気の上演(おままごと)と、ヤコブソン器官の地動説~二重の檻を放尿パルスで爆破した絶対聖母と、意思疎通完全灰滅に自滅する泥人形どもの黙示録~』
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おまけ第5話:『百合(ゆり)の散る夜 〜正反対の身体と、受け止め合う魂のコード〜』2

【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。

ひややっこは一歩、百合の前に歩み寄り、その声を大岩山の風に乗せた。

「だがな、百合。形や受け止め方は違えど……『誰かを受け止めたい、誰かに受け止められたい』っちゅうその生身の魂の願いだけは、男女で本当に何も変わらんのやぞ」

「受け止めたい、受け止められたい……」

百合はその言葉を、自分の30年間の人生と、ホテルのベッドの上で流したすべての涙に重ね合わせるように、深く、深く噛み締めた。

アプリのアルゴリズムや相談所のスペック主義は、男と女を記号で分断し、お互いを敵対させて消費し合わせる。

だが、その冷たい鎧の下で震えているのは、男も女も、全く同じ「誰かと生身で繋がり、受け止め合いたい」という祈りのような願いそのものだった。

「男側もな、強がって試行回数を誇りながら、その内側では『仮性包茎やサイズでガッカリされたらどうしよう』

『セックスが下手くそやと切り捨てられたらどうしよう』ってお前と同じ恐怖に震え、怯えとる。自信を持つっちゅうのはな、傷一つないサイボーグになることやない。その不完全な『怖さ』を自分の生身の肉体で引き受けて、それでも打席に立つことや。お前がその怖さを超えて自分を全肯定できた時、いつかお前の前に、同じ怖さを乗り越えてユニクロのチケットを握りしめた、生身の男が現れる。その時初めて、お前らの傷口と傷口がガチッと噛み合って、本当の愛が繋がるんや」

ひややっこの言葉が、百合の胸の奥に残っていた最後の淀みを、あたたかい朝の光で完全に初期化(クリーンアップ)していった。

「ひややっこさん……本当に、ありがとうございました。私、この大岩山に、今までの悲しみも呪いも、全部置いていきます。そして、私のこの不完全な身体のままで、いつか誰かをちゃんと受け止められるように、学んできます」

百合は今度こそ、一点の曇りもない笑顔を浮かべ、深く一礼した。そして、カツ、カツ、と力強い足取りで、朝焼けに照らされた大岩山の旧道を下りていった。彼女の背中には、もうシステムの家畜として怯える影はどこにもなかった。

一人残されたひややっこは、去りゆく百合の背中を見届け、ふう、と静かに息を吐き出した。



そして


見上げれば、朝日に照らされた堂本印象のあの奇妙な石の鳥居が、幽玄に佇んでいる。

仏教の地蔵菩薩、キリスト教や海外のアラベスク模様、地上の動物、そして上部に彫られた女神。

あらゆる宗教や民族の記号を闇鍋のようにごちゃ混ぜにした、あまりにもエキセントリックな幾何学の鳥居。

かつて古文書がすべて焼かれ、正確な起源も歴史も失われてしまった大岩山。

ここはただ「結核の治癒」という難病平癒のためだけに人が群がった山ではない。

古来より、本殿の裏に並び立つ「大岩(男神)」と「小岩(女神)」という、おがみとめがみの巨岩を御神体として祀り、世間の理不尽に切り刻まれた「男と女の心の病(精神の擦り切れ)」を、何百年も深く受け止め続けてきた山だったのだ。

なぜ堂本印象は、日本の土着信仰の社に、あえてキリスト教などの世界中のイメージを盛り込んだ鳥居を奉納したのか。

その意味が、ひややっこの脳裏に一つのコードとして繋がる。


(そうか、印象……お前も、このおがみとめがみの岩に当てられたんやな)

思想、風俗、民族、宗教――人間が頭で作り出した「記号(システム)」がどれだけ違っていようとも、剥き出しの生身になれば、男と女であることは何一つ変わらない。

不完全な者同士、一生学び合い、受け止め合うしかないのだという究極の真理を、印象はあの鳥居に込めて、すべての境界線をハックしたのだ。

大岩山の丑三つ時の講義は、これにて本当に閉幕である。

ネットの闇市場に殺されかけた男女の魂は、この朝焼けの山頂のセッションを経て、人間としての気高い矜持へと、完全に反転(ハック)されていた。

おまけ第5話:『百合の散る夜』・完

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