第7話:白き部屋の残光 〜1人で往った彼女が、最期に遺した微笑み〜2
前回のあらすじ:相手のために必死に勉強し、心を通わせようとする真美さんの本物の愛の体温。それこそが、47歳になったひややっこがのんこに注ぎ続けた底なしの優しさのルーツだった。しかし、一人の女性としての幸せを理不尽に奪われ続けた真美さんに、神様は「白血病」というあまりにも非情な2度目の死刑宣告を下す。1999年、彼女は40歳を前にして、静かに世界を去ろうとしていた――。
だから、彼女の口元には、最期の瞬間、本当に優しい微笑みが浮かんでいた。
「私には、ひややっこくんがいてくれた……」
夢を見ない深い眠りへと旅立つ直前、彼女の脳裏に去来していたのは、システムへの呪いなんかではなかった。
自分が興味もない『幽★遊★白書』を必死に読んで暗黒武術会の話を合わせた時、目をキラキラ輝かせて喜んでくれた、あの14歳の少年のピュアな瞳 。
専門学校に進み、「今、こんなことを習ってるんだ」と、21歳になるまで、ずっと変わらずに自分の本音を真っ直ぐに届けてくれた、あの誠実な男の体温 。
条件だけで人を値踏みするクソみたいな市場(世界)の中で、ひややっこくんだけは、私の塾の理念を信じ、私の生身の人間性を100%リスペクトして、寄り添い続けてくれた。
「私の人生は、あの男の子を救い、あの男の子に愛されただけで、100万点満点の大勝利だったよ……」
ガリレオやコペルニクスのように、世界中が赤信号(天動説)を渡る中で、自分だけの青信号(地動説)を信じて個人塾をやってきた自分の人生は、間違っていなかった 。
ひややっこくんという、最高の作品が、今も世界のどこかで戦ってくれているのだから 。
私は、私だけの万有引力で引き寄せる事が出来たのだから。
彼女は点滴の刺さった手でペンを握り、ベッドの上で最後の力を振り絞って、あの1枚の手紙を書き残した。
『1人でも負けないで。あなたがようやく気がついて、そこに向かい合っているあなたを、私も応援しています』
手紙を書き終えたとき、彼女の視界は、静かに白い霧に包まれていった。最期の瞬間、彼女の耳には、かつて自分が遺せなかった未来の子供の姿――「 泡沫の真白」のような愛らしい女の子の産声が、幻聴のように優しく響いていたのかもしれない 。




