おまけ第3話:『水槽(グッピー)のぞき込む夜 〜完璧なお人形のロスカットと、不完全な全肯定〜』1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
深夜2時半。
拓也が己の鎧を脱ぎ捨てて大岩山を下りていった後、入れ替わるように鳥居の前へと辿り着いたのは、百合(46歳)だった。
30年間、汗水垂らして肉体労働を一途に続けてきた実直な女性。
だが、勇気を出して一歩踏み出したマッチングアプリの世界で、彼女の誠実さは無残に切り刻まれていた。
「ひややっこさん……! お願いです、教えてください……!」
百合はくたびれた靴のまま地面に崩れ落ち、胸をかきむしるようにして、誰にも言えなかった最深部のトラウマを吐き出した。
「アプリで出会ったあの人は、最初のデートであんなに優しく、私の肉体労働の話を『尊敬します』って聞いてくれたんです。
だから私、この年齢になって、やっと私の生身の人間性を見てくれる人に出会えたって、魂の底から救われた気がして、ホテルへ行ったのに……。体を重ねて、あたたかい余韻の中で眠りについた翌朝、目を覚ましたら、あの人はもういなかった。枕元に『先に出ます』とだけ書かれたメモが残されていて、焦ってスマホを開いたら、アプリもLINEも、全部ブロックされて消えていたんです……!」
百合の瞳から大粒の涙が溢れ、大岩山の冷たい地面を濡らす。
「私は一人の人間じゃなくて、ただの『性欲処理の道具』でしかなかったんですか!? 私の30年間の人生も、私の心も、あいつらの性欲のスコア稼ぎのために消費されて終わりなんですか……っ!?」
周囲を蠢く低級霊たちが、百合のドス黒い絶望の質量に引かれてヒタヒタと近づいてくる。
ひややっこは腕を組んだまま、冷徹な目で見つめていたが、その声には、ルナに理不尽に切り捨てられてきた自身の「血の記憶」が、静かな覇気となって宿っていた。
「……百合。お前がホテルのベッドの上で、自分の身体を引きちぎりたくなるほどの屈辱と絶望を味わったこと、その痛みの質量はな、この大岩山の怨念の底と完全にシンクロしとる。
だがな、なぜあいつらがそんなケダモノ以下の行動に平気で出られるのか、その歪んだシステムの真理を教えたるわ」
ひややっこは、鳥居の暗闇から百合を見据え、冷徹に言い放った。
「これはな、男女の根深い動物的本能に由来するバグや。元も子もないことを言うが、女のお前だって『他の女から全く相手にされとらん、モテない非モテの男』には本能的に惹かれへんやろ?
男側もな、それを骨の髄まで知っとるんや。
だからあいつらはな、狂ったように『俺は女に価値を認められとる強者なんや』っていう証明を欲しがる。
男がなぜ『何人とセックスできたか、百人斬りやとか千人斬り』という試行回数のスコアを誇るのか、面白い生物の実験を教えてたるわ。
グッピーっちゅう小さな魚を使った、水槽の実験や」




