おまけ第2話:『500万の鎧を脱いだ夜 〜淡々とした映し鏡と、ユニクロの打診ルート〜』1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
深夜2時15分。
大岩山の山頂に漂う空気は、先ほどよりも少しだけ和らいでいた。
拓也は泥のついた膝を払い、ひややっこが提示した「ユニクロのチケット」と「上半身にかける布団の優しさ」という生身のハッキング論を、己の血肉にするように噛み締めていた。
だが、マッチングアプリという冷酷なシステムの海を泳ぐイメージを巡らせるうち、拓也の脳裏に、さらなる生々しい葛藤が泥水のように湧き上がってきた。
「ひややっこさん……! 具体的にお話を聞いて、身なりやセックスの本質は分かりました。でも、そもそも最初のメッセージのやり取りで、どうしても自滅してしまうんです。カウンセラーには『相手のプロフィールを熟読して、最初から一人の人間として真剣に向き合って盛り上げろ』って言われたんですけど、何十人もの長文を読み込んで趣味を調べてメッセージを作るだけで、頭が狂いそうになるんです……!」
山頂の暗闇の中で、ひややっこはフッと自嘲気味に笑った。
「あほ。お前はまたあいつらのシステムに正面から突っ込んどる。ええか、結婚相談所やマッチングアプリっちゅうのはな、構造的に『圧倒的な数をこなさざるを得ん地獄』なんや。そこを勘違いして、最初のメッセージから全員に魂を込めとったら、お前のライフ(精神)は一瞬でゼロになるぞ」
「えっ……じゃあ、どうすればいいんですか?」
「メッセージの初期段階はな、感情なんか1ミリも入れるな。淡々と、機械的にテンプレートを回せ。まずマッチングした一通目。
お前が送る言葉はな、『マッチングありがとうございます。よろしくお願いします。』――これだけや。
テンプレの挨拶一言でええ」
「それだけですか!? 質問とか、趣味の話とか振らなくていいんですか?」
「いらん。なぜなら、これだけで終わる関係なら、何を送ってもそこで終わりやからや。相手がただの間違いいいねや、やる気のないゾンビなら、この一通目で返信は途絶える。それでええ。お前の貴重な精神のエネルギーを1ミリも無駄にせずに『はい、次』と損切りできる。
だがな、相手から『よろしくお願いします』と返ってきたら、そこからが次のフェーズや。プロフィールの『結婚願望』や『理想の家庭』なんていう重い記号は全部カットしろ。
『仕事』と『趣味』の2点だけを読んで、生身の人間としての輪郭を1つだけ掴んで、シンプルな質問を投げるんや。
たとえばや、相手のプロフィールに『休みの日は音楽コンサートに行くのが好きです。よろしくお願いします』と書いてあったとする。お前ならどう返す?」
「ええと……『俺も音楽好きです! ロックとかよく聴くんですけど、〇〇さんはフェスとか行かれますか? 最近の流行りだと――』みたいに、共通点を見つけて盛り上げようとします!」




