おまけ:『500万の鎧を脱ぎ捨てた夜 〜深夜二時の大岩山で、システムにハックされた魂を完全救済(ロスカット)してやった〜』4
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
「そういうことや。
もう一度、完全に分かるようにおさらいしてやろう。
お前がさっきからガタガタぬかしとるペニスのサイズや、セックスの上手い下手についても、お前の脳みそは完全にアダルトビデオやネットの言説にハックされとる。女が本当に求めてるんは、AV男優みたいなペニスの長さや、テクニックの品評会やない。お前ら男はすぐ『挿入時間の長さ』や『サイズ』という、目に見える数字でマニュアル化したがる。だが、生身のセックスで一番大事なのは、相手の身体と心にどれだけ丁寧に向き合えるか……『生身のコミュニケーション』や」
「コミュニケーション、ですか……?」
「そうや。具体的に言うたる。たとえばホテルの部屋に入った時、お前はスリッパをまっすぐ揃えて脱いどるか? 女がシャワーやトイレに立った時、その隙に、女の靴を『すぐに部屋から出られる向き』に出口の方へ向けて綺麗に揃えておいてあげる……そんな、相手への細やかな気配りをしたことがあるか?」
拓也はハッとして目を見開いた。そんなこと、総計500万円をはたいた恋愛マニュアルのどれにも一行も書いていなかった。
「お前が『ペニスの大きさで幻滅されたらどうしよう』『うまくできるかな』って怖がって震えてるようにな、実は女側も同じように怖いんやぞ」
「女の人も……怖い?」
「当たり前やろ。生身の自分の裸を直接見られて、『胸が垂れてないかな』
『私、どこか汚いところはないかな』って、女だって常に自分の身体に怯えて、コンプレックスを抱えとる。
お互い様なんや。
だからこそ、いざ挿れるっていう時に、女の上半身にそっと布団をかけてあげるんや。裸を晒す恐怖から、相手の心を守ってあげるための優しさや。これができればな、サイズなんか関係なく完璧なんや。サイズがどう、テクニックがどうと悩む前に、相手の呼吸に合わせ、丁寧に愛撫し、声を聴け。それができん男が、どれだけ高い手術をして一瞬形を変えたところで、女の心には1ミリも響かん」
ひややっこは一歩踏み込み、拓也の肩をがしっと掴んで、まっすぐその目を射抜いた。
「もし、そうやってお前が誠心誠意向き合ってもなお、サイズがどうのと文句をつけてお前を切り捨てるような女がおったら、そこで本当の縁終わり(ロスカット)や。
もちろん、女やなくて、お前の方からな。
そんなスペック厨の空っぽな女は、こっちから完全損切りして当然の存在なんや。
そんな奴のために、お前のなけなしの自尊心を1円たりともすり減らすな」
ひややっこの言葉が、拓也の脳の防衛線に突き刺さり、あたたかい覇気となってジンワリと広がっていく。
「500万の鎧も、増大の幻想も全部捨てろ。仮性包茎でも、配送業のバイトでも、牛丼屋の裏方でも、それがお前のリアルやろ。
その歪で、泥臭くて、必死に生きてる生身のお前のまま、画面の向こうで震えてる女の孤独をハックしに行け。
お前自身を全肯定できん限り、お前は一生あいつらの家畜のままやぞ」
「お前自身を、全肯定しろ……」
拓也は、ひややっこに掴まれた肩の熱さを感じながら、泥に汚れたスマートアンクルパンツの膝を払い、ゆっくりと、しかし確実に自分の足で立ち上がった。大岩山の冷気が、今はなぜか、心地よく彼らの肌を撫でていた。




