おまけ:『500万の鎧を脱ぎ捨てた夜 〜深夜二時の大岩山で、システムにハックされた魂を完全救済(ロスカット)してやった〜』3
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
「でも……! でも、仮性包茎でサイズが小さかったら、女の子にガッカリされるんです! 実際、裸になった瞬間にあからさまに嫌な顔をして、それっきり連絡が取れなくなった女もいたんです! だから俺は……!」
拓也が過去の生々しいトラウマを思い出して激しく身震いする。ひややっこは、そんな拓也の肩をがしっと掴み、まっすぐその目を射抜いた。
「拓也。裸のサイズを見ただけであからさまに態度を変えて、お前を切り捨てるような女がおったんやな?」
「はい……」
「ええか、よう聞け。そんな女とは、そこで縁終わり(完全終了)や」
「え……?」
「お前を『スペック』や『サイズ』っていう、あいつらが作った歪んだ減点方式の物差しでしか評価せんような女なんか、こっちから完全損切りして当然の存在なんや。
そんなモラルの低い、他人の生身の魂を記号としてしか消費せん奴に、お前の誠実さを使う価値なんか1ミリもない。
そんな女に執着して自分を責めるのは、あいつらの作ったシステムに脳をハックされとる証拠や。
お前がやるべきなのは、サイズを大きくすることやない。そんな空っぽな価値観を持った女を、最初からお前の人生の視野から『ロスカット』する強さを持つことや」
ひややっこの言葉が、拓也の脳の防衛線に突き刺さり、あたたかい覇気となってジンワリと広がっていく。
「お前のメッセージが当日ドタキャンされるんは、お前が『マニュアルを喋るロボット』やからや。
女側もな、アローズを着てシャネルの匂いをさせた、量産型の『客』には飽き飽きしとるんや。500万の鎧も、増大の幻想も全部捨てろ。
仮性包茎でも、配送業のバイトでも、それがお前のリアルやろ。その歪で、泥臭くて、必死に生きてる生身のお前のまま、画面の向こうで震えてる女の孤独をハックしに行け。
お前自身を全肯定できん限り、お前は一生あいつらの家畜のままやぞ」
「お前自身を、全肯定しろ……」
拓也は、ひややっこに掴まれた肩の熱さを感じながら、泥に汚れたスマートアンクルパンツの膝を払い、ゆっくりと、しかし確実に自分の足で立ち上がった。大岩山の冷気が、今はなぜか、心地よく彼らの肌を撫でていた。
(「お前自身を全肯定しろ……」と立ち上がろうとする拓也に、ひややっこがフッと冷たい笑みを浮かべて釘を刺す)
「……しかし、勘違いするなよ、拓也。全肯定せえと言うたんは、お前が毎日風呂にも入らんと、ヨレヨレの汚いスウェットを着てアプリをやってもええという意味やないぞ」
「え……? でも、さっき鎧を脱げって……」
ひややっこはあきれたようにため息をつき、頭を振った。
「あほ。ネットのシステムを使う以上、最低限の『身なり』と『清潔感』は、相手の土俵に上がるための共通通貨や。髪を整える、ヒゲを剃る、サイズに合ったシワのない服を着る……これは相手に対する最低限の礼儀であり、減点されんための『マニュアルの武装』やない。生身の人間として『お話をする準備ができています』というサインや。3万のアローズはいらん。ユニクロの感動ジャケットでええから、清潔な自分を整えろ」
「なるほど……身なりと清潔感は、騙すための鎧じゃなくて、相手に向き合うためのマナーなんですね」
「そういうことや。そしてな……お前がさっきからガタガタぬかしとるペニスのサイズや、セックスの上手い下手についても、お前の脳みそは完全にアダルトビデオやネットの言説にハックされとる」
ひややっこは一歩詰め寄り、拓也の目をじっと見据えた。
「女が本当に求めてるんは、AV男優みたいなペニスの長さや、テクニックの品評会やない。お前ら男はすぐ『挿入時間の長さ』や『サイズ』という、目に見える数字でマニュアル化したがる。
だが、生身のセックスで一番大事なのは、『相手の身体と心にどれだけ丁寧に向き合えるか』や。
自分のコンプレックスで頭がいっぱいになって、相手の顔も見ずに独りよがりなピストン運動をしとる男が一番『下手くそ』って言われるんやぞ。
相手がどこを触られたら気持ちいいのか、今どんな表情をしとるのか、生身のコミュニケーションをサボるな」
「コミュニケーション……」
「サイズがどう、テクニックがどうと悩む前に、相手の呼吸に合わせ、丁寧に愛撫し、声を聴け。それができん男が、どれだけ高い手術をして一瞬形を変えたところで、女の心には1ミリも響かん。もし、そうやって誠心誠意向き合ってもなお、サイズがどうのと文句をつけてお前を切り捨てるような女がおったら、そこで縁終わり(ロスカット)や。そんなスペック厨の女は、こっちから完全損切りして当然の存在なんや。そんな奴のために、お前のなけなしの自尊心を1円たりともすり減らすな」拓也は、ひややっこの言葉を一つ一つ、今度こそ血肉にするように深く頷いた。




