番外編32:腐敗の砂漠に咲いた奇跡の残光 〜妄想をチェックメイトする解剖学的ファクトと、手首に刻まれた絶望の聖痕〜2
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
最初の光景。
それはまだ「市場価値」や「性別」という醜悪な記号すら持たない、よちよち歩きの幼い彼女の映像だった。
お父さんとお母さんに両手を繋がれ、初めて幼稚園の門をくぐった瞬間。
両親の手のぬくもりから離れるのがただ怖くて、大粒の涙を流して母親のスカートにしがみついていた。
そこには「愛されたい」という純粋無垢な始まりの感情が確かに記録されていた。
場面は切り替わり、小学校の運動会。ゼッケンを胸につけ、泥だらけになりながら100メートル走を一生懸命に駆け抜けた記憶。
歯を食いしばり、必死に地面を蹴ったが結果は3位。
あともう少しで1位になれたのにと、小さな拳を握りしめて涙をこらえた、あのリアルな「悔しさ」のパルスが空間を震わせる。
さらに中学校の受験合格の記憶。深夜まで明かりを灯し、消しゴムのカスを溜めながらノートを真っ黒に染めて勉強した日々。
合格発表の掲示板の前で、自分の受験番号を見つけた瞬間に「やったぁ!」とお母さんと抱き合って飛び跳ねた、努力が報われた瞬間の瑞々しい喜びの全能感。
最後に流れたのは、大学入学時の、未来への純粋な希望のログだった。地元の田舎から期待を胸に上京し、大学の入学式に向かう電車の窓に映る、輝くような18歳の彼女の笑顔。
「東京に行ったら、建前や嘘のない、心からお互いを尊重し合える本物の王子様に出会えるかもしれない」
彼女は、まだ見ぬ未来と人間を、100%信じて上京してきたのだ。 そのあまりにも純粋で、懸命に生きてきた彼女の20年間の人生のグラフィティ(残光)を見せつけられた瞬間、狗飼幽二の精神の核は完膚なきまでに破壊された。
死体こそが「自分の妄想を受け入れてくれる無機質な人形」だと思い込んでいた。
しかし、空間に大放送される走馬灯は、目の前に転がっている肉体が、かつて自分と同じように喜び、悔しがり、傷つきながら懸命に生きていた「圧倒的な尊厳を持つ、一人の人間であった」という現実を容赦なく叩きつけてくる。
冷たい肉に熱を奪われ、気色悪さに慄いていた彼の脳内に、「自分は今、この純粋だった少女の20年間のすべてを踏みにじり、ただのゴミのように汚している」という底知れない加害のファクトが逆流した。
「あああ、あああああッ!! 違う、僕が求めていたのは、こんな……こんなものじゃ……っ!!」




