番外編31:腐敗の砂漠に咲いた奇跡の残光 〜妄想をチェックメイトする解剖学的ファクトと、手首に刻まれた絶望の聖痕〜2
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
黒髪のボブカットに、小柄で華奢な体躯。
ブランド物の鎧で武装した港区女子たちとは一線を画す、お淑やかで清楚な、どこか文学少女のような儚さを漂わせる顔立ち。
衣服の乱れもほとんどなく、ウジもアリもまだたかっていない。
他の死体のように暴徒に肉体を切り刻まれた形跡はなかった。
ただ、すべてに絶望しきった彼女が自らの手でカミソリを引いたのだろう、その細く白い手首には痛々しい直線傷が刻まれており、周囲のコンクリートを赤黒く染める大量の血しぶきだけが、彼女の最後の生命のパルスを証明していた。
死後硬直すら始まっていないその肌は、まだ生真面目な温もりを微かに残しているように見えた。
(本物だ……本物の、僕だけのクリーンな死体だ……!)
ネットのクズどもは誰も成し遂げられなかった領域。
誰も嘘をつかず、自分を値踏みもしない、完全な虚無の肉体。
二十数年間一度も性行為のなかった狗飼のペニスが、狂気的な全能感とともに、ここにきてギンギンに横領(猛り狂う)を始めた。
狗飼は周囲の地獄の臭いすら忘れ、恍惚とした表情で、彼女のまだ弛緩しきった足元へと這い寄った。
衣服を剥ぎ取り、初めての挿入を果たす。
生身の女のように拒絶の声を上げることもなく、冷酷なスペック値で格付けしてくることもない。
筋肉が完全に脱力(初期弛緩)した肉の空洞は、彼のペニスを抵抗なく、滑らかに受け入れた。
「これだ……これこそが、僕がずっと求めていた誠実なエデンだァァァッ!!」
かつてない強烈な快感に、狗飼の脳波はハックされ、全能の神にでもなったかのような錯覚に陥る。 ――しかし。
行為が数十秒、数分と経過するにつれ、異常な、そして冷徹すぎる解剖学的ファクトが彼の肉体を逆ハックし始めた。
血流の止まった死体には、自発的な熱の生産が一切ない。
それどころか、心臓の止まった肉の管は、狗飼のペニスから生体のぬくもりを「一方的に、暴力的なスピードで吸い取っていく」。
ぬるかったはずの肉は、時間が経つごとに、冷たい粘土、あるいは硬化していく脂の塊へと変貌していった。
さらに、生体特有の粘膜の分泌(愛液)が完全に停止しているため、擦れ合う皮膚が不自然にギチギチ、ギシギシときしみ始める。
嫌がりもしないが、決して受け入れてもくれない、単なる冷えゆく物質としての質量。
「冷たい……気色悪い……何だこれ、僕は何を抱いているんだ……っ!?」
猛烈な興奮でギンギンだった彼のペニスは、自身の熱を冷たい肉に奪われ、凍りつくような戦慄を覚えて急速に萎縮を始める。
脳内の美しいファンタジー(天動説)が、目の前の解剖学的な虚無(地動説)によって完膚なきまでにチェックメイトされていく。
快感が生理的嫌悪へと退化し、狗飼が恐怖のあまりその肉体から離れようとした、まさにその瞬間だった。
チカッ……チカチカチカッ……!
女子大生の枕元に転がっていた、血の海に浸かったスマートフォンが突如として血の赤色に染まり、激しく明滅を始めた。
大岩山の呪いが、今まさにこの路地裏の空間をジャックする。 彼女が死ぬ数秒前、脳の微小管から宇宙の海へ解き放たれた「生涯の記憶、激しい感情、強い未練」という名の消えない痛みのログが、音声付きの超高画質データとして空間に強制デリバリー(配信)されようとしていた。
番外編32へ続く




