番外編31:腐敗の砂漠に咲いた奇跡の残光 〜妄想をチェックメイトする解剖学的ファクトと、手首に刻まれた絶望の聖痕〜1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
大岩山の呪いが東洋の巨大都市を直撃してから数日。
かつて一千万人の虚栄心が蠢いていた東京は、文字通りの「腐敗の砂漠」へと退化していた。
都市機能を動かしていたライフラインが初日で完全灰滅した結果、エアコンも冷蔵庫も死に絶えたコンクリートの牢獄は、アスファルトの熱に焼かれる巨大な屠殺場と化す。
緑色に変色し、ガスで膨張したかつてのエリートたちの肉体。
そこへ群がる無数のハエ、皮膚の裂け目から這い出るウジ虫、そして甘い体液の臭いに誘われて死体の目や口に真っ黒くたかるアリの列。
「うっ、げほっ……げろぉぉぉっ!!」
路地裏の影で、二十数年間一度も女性経験のなかったモブ――元・大学病院の検体管理助手、狗飼 幽二は、胃液をアスファルトにぶちまけていた。
ネットの裏コミュニティ、鍵垢のタイムラインで「生きている女を寝かせて死体ごっこをしている」
「葬儀屋のバイトでバレないように数秒触るだけで興奮する」
とほざいていた隠れネクロフィリアの同類ども。
狗飼にとって、あいつらはただの妥協者であり、リスク管理(世間体)に怯える腑抜けたクズ、ネクロフィリアの風上にも置けない養分に過ぎなかった。
俺だけは、頭の中の妄想だけで純粋な死体愛好を貫いてきたという自負があった。
だが、画面越しに、自分の脳内プロセッサが作り出していた「綺麗な記号」として消費していた彼のフェティシズムは、
目の前に広がる有機物の圧倒的な腐敗臭と虫たちの羽音という自然界のリアルな分解システム(ファクト)によって、完膚なきまでにへさきを折られていた。
恐怖と生理的嫌悪で凍りつき、ただのサバイバルのパニックへ退化しかけていた狗飼が、ある高級セレクトショップのショーウィンドウの影に這い寄った、その時だった。
「あ……あ、ぁ……っ」
彼の喉から、ひっついたような声が漏れた。
そこには、地獄の悪臭のド真ん中で、一際異質な輝きを放つ「奇跡の残光」が横たわっていた。
まだ死後数十分も経っていない、二十歳前後の極めて美しい女子大生の遺体。
それは、まさに狗飼が二十数年間、脳内の妄想でずっと描き続けてきた「理想のタイプ」そのものの少女だった。




