番外編30:強者どものセルフチェックメイト 〜アプリの総本山・国家権力・タワマンの更地、そして嘘をつかない肉の果樹園〜4
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
男の名は、狗飼 幽二。
元・大学病院の検体管理助手であり、人間の建前、嘘、スペック(記号)の騙し合いに心底反吐を吐いていた孤独な男だった。
これまでのまともな世界であれば、彼はただの陰湿な異常者として、ネット上の陰惨な死体写真を見ることでうっ、とくるような歪んだ性的興奮(妄想癖)を満たすだけのモブとして終わるはずだった。
彼にとって死体とは、嘘だらけの生身のオスとメスに対する、頭の中だけの「静かで誠実な逃避の聖域」だったのだ。
しかし、世界中が他人の本音ログに泡を吹いて殺し合っている中、彼だけは最初から「生身の人間の心」に一ミリも興味がなかったため、ウイルスを騙す必要すらなく、完全なノーダメージ(正気)のまま、死体の転がる街へと足を踏み入れた。
だが、その目の前に広がる光景は、彼のチープな妄想を完膚なきまでに叩き潰す「ファクトの暴力」だった。
タワマンのふもと、血の海と化した警察庁の廊下。
そこには、写真や画面越しに見ていた綺麗なものとは程遠い、生々しい肉の引き裂かれた臭気、内臓の這い出た悍ましい質量、そして仮面を剥ぎ取られて目を剥いたまま固まっている何百、何千という本物の「死体の山」が、圧倒的な現実としてアスファルトに転がりまくっていたのだ。
「ひっ、ひいいぃ……っ!!」
現実の圧倒的な質量に直撃された瞬間、狗飼の脳は興奮どころか、恐怖と畏怖で完全に凍りついた(フリーズ)。
脳内に湧き上がっていたフェティシズムなど、本物の死の強烈な血生臭さの前では一ミリも通用しない。ガチガチと歯を鳴らし、あまりの異常事態への戦慄で腰を抜かした狗飼は、コンクリートの砂漠の真ん中でただ震えることしかできなかった。
怪異ウイルスの前に、狂った異常者すらもその異常性を完膚なきまでにへし折られる。そんな、誰の綺麗事も通用しない新世界の夜が、深く更けていく。
番外編31へ続く




