番外編28:『図面を支配する聖母たち(アーキテクチャ・ブルー)』〜1999年の竹ほうき一閃から20年後、呪いと実存を等価交換して世界を完全チェックメイトした女たちのグランドフィナーレ〜1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
大人の社会がのたまう「内申点」や「世間体」という名の薄っぺらいファイヤーウォール。そんなガラクタのようなスコアリングに、人間の実存が1ビットでも値踏みされてたまるか、と1999年(平成11年)の冬、世紀末のストリートで反逆に打って出た2人の少女がいた。
2年B組のさやかと、1年C組のあみ。
模試会場の静寂のなかで男子優先の欠陥インフラによってシステムクラッシュ(お漏らし)を起こさせられたあみは、さやかたち親友の「12文字の数字暗号」と「人情味パッチ」によって、ついに絶望のシェルターを爆破して再起動を果たしたのだ。
その登校日、少女たちの怒りのエンジンが、学校という閉塞したサーバーのなかで、ついに有言実行の物理攻撃として最大出力で駆動する。
◇
【1999年冬:登校日のシステムバスター】
登校日の朝、あみの部屋には、親友のユカ、真希、そして後に夜のストリートで生きることになる同級生のマリカがログインしていた。
「あみ、下ばっかり向いちゃダメ。これ、絶対可愛いから!」
元々は清楚な黒髪ボブ(内巻きワンカール)だったあみの短い髪。
そのトップの髪を左右に丁寧に小分けし、小さな可愛いゴムでちょこんと2つに結ぶスタイル――「ハーフアップ・ツインテール」。
1999年当時、モーニング娘。のミニモニ。メンバーやストリートの読者モデルの間で爆発的なトレンドだった、短いボブの女の子限定の最強の可愛さ特化フォーマット。
ユカと真希、そして普段は物静かなマリカが、震えるあみの手を握りしめ、涙を拭いながら一生懸命にビルドしてくれた、友情という名の最強の防衛パッチ(髪型)だった。
「……うん。みんな、ありがとう。私、行くよ」あみは顔を上げた。
親友たちに両脇を固められ、覚悟を決めて1年C組の教室のドアをオープンしたその瞬間、廊下の向こうからニヤニヤと近づいてくるモブ男子生徒が、最悪の毒素パケットを投げつけてきた。
「おいおい、あみじゃん! お前高校生だろ? 何、模試の最中に小便垂れてんだよ。汚ねえなァ!」
どっと沸く男子たちの下劣な笑い。
あみのハーフアップ・ツインが、羞恥と悔しさで小刻みに震え、自尊心サーバーが再クラッシュを起こしかけた――その刹那だった。
「――どきなさいよ、モブ」
疾風のごとく廊下から乱入してきた2年のさやかが、公衆電話からの予告通り、学校の竹ほうきを両手でフルスイングし、男子生徒の顔面を最大出力でひっぱたいた。
――バキィッ!!!
「ぎゃあああああああッ!? 痛え! 目に、目にささくれが刺さった!!」
廊下のコンクリートにのたうち回り、顔面を押さえて悲鳴をあげる男。
教室内が凍りつくなか、さやかは竹ほうきを肩に担ぎ、剥き出しの実存のまま言い放った。
「お前たちに女の子の苦しみが分かってたまるか! 一生、女縁がない呪いをかけてやる!!」
騒ぎを聞きつけた学年主任の先生が「これ以上波風を立てるなら内申点を下げるぞ!」と進路を人質に脅してきたが、すでに最悪の不条理を乗り越えたあみ、そしてさやかの根性は、大人のスペック計算を遥かに超越していた。
「下げるならどうぞ? 私たちは、こんな欠陥だらけの世界に媚びて生きるつもりはありません。自分たちの手で、この世界のインフラをリデザイン(設計)するだけですから」
バブル崩壊後の閉塞感の中、世間知らずと言われようとも、「この世のおかしいトイレ事情を私たちが改善する」という夢が、2人の人生の、建設家としての幕開けとなった瞬間だった。
【インターローグ:20年間の設計思想と現実の開拓者たち】
それからの20年間、2人が歩んだ道は、既存の男社会が構築した都市計画への終わりなき宣戦布告だった。
大学の建築学科へとログインした2人は、かつて日本の汚く、暗く、臭い3Kトイレを「誰しもが尊厳を守れる空間」へとリデザインしていき、床面積の平等という欺瞞を暴いて国家のガイドラインを動かしたりなど、もはや伝説の活動家としての魂と完全に変化していた。
あみには、あの17歳の模試会場、男も女もいる前で世界から強制ログアウト(退場)させられた絶対的な悔しさがあった。
さやかには、あの冬の夕暮れ、家を目前にしながら暗黒のトンネルに閉じ込められ、涙ながらに廃車の影でバルブを開くしかなかった激しい憤りがあった。
「私たちのあとに続く女の子たちに、あんな死にたくなるような絶望のバグを踏ませてたまるか」
その強い誓いが、2人の最強のデバッグエンジンだった。
大手の設計事務所がのたまう「コスト計算」や「等面積の割り振り」という名のシステムバグに対し、2人は徹底的に実証データをもってチェックメイトしていった。
女性は解剖学的な理由や衣服の構造、生理の処理によって男性の2.3倍の利用時間がかかること。
面積を半分に分けることは「公平」ではなく、ただ女性に長蛇の列という身体的・精神的苦痛を強いる欠陥コードであること。
2人は独立し、「建築家ユニット」としてストリートへ打って出た。
最初は「若い女が生意気な」「トイレごときで騒ぐな」と旧世代のインフラ(男の建築家たち)にアクセスブロックを食らうこともあった。
しかし、2人は諦めなかった。
駅、劇場、スタジアム、学校。2人が手がける空間は、ただ清潔なだけではない。
防音、消音、個室の広さ、動線、すべてが「人間の尊厳を守る防衛ファイヤーウォール」として完璧に機能していた。




