番外編27:『闘争のアーキテクチャ・レッド』〜1999年冬、通信不全の世紀末ストリートで、少女たちが繋いだ数字のポケベル暗号と、絶望のシェルターを爆破した人情味(エモ・パッチ)の起動ログ〜1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
超難関大学全国模試のあの日を境に、エリート私立女子高の1年C組のネットワークから、一人の優秀なプレイヤーのアカウントが完全に消失(エラー404)していた。
名前は、あみ。
あの日、男も女もいる静寂のデスゲーム(試験会場)の真ん中で、男子優先の欠陥インフラによって生体システムを強制全開(お漏らし)させられ、
マニュアル主義の大人たちに冷酷に強制退出させられた少女。
翌日から、彼女の座席は更地のまま。
風邪という名の薄っぺらい偽装パッチ(建前の理由)の裏で、あみが自宅の自室という暗号化シェルターに閉じこもり、血の涙を流して自尊心サーバーを全損させていることは、誰の目にも明らかだった。
廊下を行き交うモブの男子生徒たちは、「おい、聞いたかよ」「模試の最中に誰か漏らしたってマジ?」と、無責任なテキストパケットをニヤニヤと流通させている。
だが、2年B組のさやかだけは、その薄汚いタイムラインを絶対に許容しなかった。
あの冬の夕暮れ、駅裏の工場横の未舗装駐車場で、大型車の影に滑り込み、涙目でスカートをたくし上げてバルブを開いたさやか。
一歩間違えれば、あの教室か、マクド、あるいは電車の中で世界のすべてからアクセスブロック(BAN)されていたのは、自分だったのだ。
(あの子のせいじゃない。悪いのは、私たちの身体の仕組みを最初から『存在しないもの』として無視している、あのクソみたいな建物の図面を作った社会と男のほうだ……!)
さやかはあみとは面識はなかった。
ただ、すれ違う時に、綺麗に揃ったボブの毛先がふわっと揺れて、ほのかにシャンプーの香りがする可愛い子だなと、データが記憶している程度。
だけど、さやかの魂のプロセッサは、あみをこのまま世界の更地へと見殺しにすることを断固として拒絶した。
◇
【放課後:16:00】 親友プレイヤーへのハッキング
「ねえ、ちょっといいかな」さやかは放課後の1年C組にログインし、あみの席の周りで悲しそうな顔をしてポケベルを見つめていた、あみの本当の親友たち(ユカと真希)に直接接触を試みた。
「……何? 2年の先輩が、あみのことで何か用?」
防衛ファイヤーウォールを張る彼女たちに対し、さやかはブレザーのポケットから手を出し、真っ直ぐに相手の網膜を見つめて、自分の最深部の裏ログ(本音)をデプロイした。
「私、あの模試の教室にいたの。あみちゃんがどんなに苦しかったか、どんなに最後まで綺麗に戦ってたか、全部見てた。
……悪いのはあみちゃんじゃない。あのクソみたいな大学のトイレの構造よ。あんな理不尽な事なんてなかったわよ!
私だって、あの模試の帰り道にギリギリでおもらし寸前になった。
もう我慢できなくて、駐車場でおしっこするしかなかったの。
あみちゃんは、私たちの代わりにあの理不尽の直撃を食らっただけ。
だから……お願い。あみちゃんを、このままログアウト(退学)させないで。
もう一度みんなで普通に笑って、普通に勉強して、遊びに行けるように、あの子の日常を取り戻しに行こう」
その瞬間、ユカと真希の防衛ファイヤーウォールが、大粒の涙とともにメルトダウンした。
「先輩……っ! 私たち、あみから『恥ずかしくて死にたい、もうみんなに顔が見せられない』って連絡が来て、どうしていいか分からなくて……っ」
「よし、パーティ結成ね。あみちゃんの自尊心サーバーを、力技でリブート(再起動)しに行くよ!」
クラスの壁、学年の壁を越えて、少女たちの泥臭い救済同盟(人情味プロトコル)がその場で締結された。




