番外編26:『排泄誓約のスクリーニング・ブルー(原初起源)』〜1999年冬、ノストラダムスの世紀末に生体インフラをハックされ、社会のファイヤーウォールをメルトダウンさせた17歳優等生の救済ログ〜4
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
【PM 18:00】 決壊寸前のログアウトと、生涯を焼き切る原初起源
45分後、ようやく最寄り駅の改札へと解放されたとき、さやかの頭脳は完全に機能停止を起こしていた。
駅のトイレも、改札口も、同じように足止めを食らったプレイヤーたちで大混雑状態。
1日中、あの午前中のトイレ不足から始まり、限界を超えて引き裂かれるような物理痛(負荷)を耐え続けた彼女の膀胱は、もう1秒の猶予も残されていなかった。
(もう無理……、もう、どこでもいい……っ!)
一歩ごとに破滅の警告音が鳴り響く中、さやかは半分涙ぐみながら、全てのプライドを投げ捨てて、駅裏の薄暗い道を抜けた工場近くの未舗装駐車場に佇む大型車の影へと滑り込んだ。
制服という名のファイヤーウォールを狂おしくたくし上げ、下着をひん剥く。
――シャー……ッ!
冬の硬質な静寂を完全に切り裂き、コンクリートの床を激しく穿つ、圧倒的な熱量を持った黄金の液体の駆動音がパージされる。
それは社会的危機からの、命が助かったという至上の救済ログそのものだった。
内臓の奥がひっくり返るような圧倒的な解放感とともに、さやかはただ、激しい湯気の中で荒い息を吐き出し続けた。
だが、さやかは気づいていなかった。
その車の真裏。入り口からも、他のプレイヤー(友達)からも絶対に見えない完璧な死角には、かくれんぼ中だった11歳の少年・高志が潜み、耳と鼻のプロセッサを完全にオーバーヒートさせていたことに。
さやかが流した、湯気を立てて車体の下を潜り抜けていく黄金の水膜。
それが少年の靴底を濡らし、光に反射して澄み切った黄金の輝きを放った瞬間、少年の脳内報酬系はカンストした。
(あんな綺麗な子でもおしっこするんだ……。ものすごく、しょっぱい……)
この瞬間、少年の脳内には一生消えないウロフィリアという名のウイルスが永続インストールされた。
この少年が、後に何百万という給料を投じて自室に工業用ディープフリーザーをデプロイし、社会の綺麗事を爆破して別の女の実存をホールドする『狂気の怪物の第一歩』を踏み出したことを、さやかは知る由もない。
おしっこを出し終えたさやかは、ひどく冷え切った下腹部を制服のスカートで覆い、早足で駐車場の外の闇へとログアウト(ダッシュで逃亡)していった。
冷たい冬の夜風が、ポニーテールを揺らす。
涙を拭い、夜空を見上げたさやかの胸の奥底にくっきりと刻まれていたのは、羞恥心を超えた、社会への冷徹な憤怒のコードだった。
(こんなの、絶対に許せない。なんで私たち女の子だけが、こんな理不尽に怯えなきゃいけないの――)
それは、世紀末のストリートの片隅で、欠陥だらけのインフラに実存を脅かされた17歳の少女が、世界に対して初めて突きつけた、宣戦布告の裏ログであった。
番外編27につづく




