番外編26:『排泄誓約のスクリーニング・ブルー(原初起源)』〜1999年冬、ノストラダムスの世紀末に生体インフラをハックされ、社会のファイヤーウォールをメルトダウンさせた17歳優等生の救済ログ〜3
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
【PM 15:30】 マクドナルドと同調圧力の檻
試験が終わり、開放感に沸くストリート。
さやかは同じ学校の友人グループにホールドされ、駅前のマクドナルドへと流れていた。一応、店内のトイレを覗いたものの、やはり模試帰りの女子高生たちで埋め尽くされている。
プライドの高いさやかの自尊心サーバーは、「暗い・汚い・怖い」の3Kだった駅や街の公衆トイレへのアクセスを頑なに拒絶し、そのまま友達の待つテーブルへと戻ってしまった。
「今日の試験、マジで難しくなかった?」
「あの問題、完全にバグってたよね」
当時流行していたポケベルや、PHS・初期のガラケーをパチパチと叩きながら、100円マックの冷たいドリンク(水分パケット)を喉へとダウンロード(摂取)していく友人たち。
さやかも会話のタイムラインを維持するために、必死に笑顔のパッチを当てて話を合わせる。
下腹部のプールは、すでに限界を知らせる赤ランプが激しく点滅していた。
(おしっこ、行きたい……。でも、みんな普通に笑ってる。誰もトイレに行ってないのに、私だけ『おしっこしてくる』なんて、恥づかしくて絶対に言えない……!)
平成10年代の女子高生コミュニティを支配する、強固な同調圧力。
グループから「浮く」というエラーを回避するため、彼女は再び、生体システムが発する不条理な悲鳴を脳内で強制ロックした。
だが、その瞬間も、彼女の膀胱はギチギチと音を立てて膨張を続けていた。冷たいコーラが胃に落ちるたび、利尿のアルゴリズムが容赦なく駆動する。
下腹部は硬い石のようになり、座席のクッションに触れるだけで、腰の奥まで突き抜けるような物理的な激痛が走った。
(おしっこ、行きたい……。もう、ダメ、本当に行きたい……!)
喉元まで出かかったその一言を、17歳の過剰な自意識が喉奥へと押し戻す。みんな平気な顔をして笑っている。
誰か、トイレに行きたくならないの?
ここで自分だけが「おしっこしてくる」と席を立てば、グループの調和を乱し、さっき教室でBANされたあの哀れな少女の影を背負うことになるかもしれない。
「恥」という名の強力なファイヤーウォールが、生体インフラの悲鳴を強引に遮断する。
さやかは冷や汗でブレザーの内側を濡らしながら、限界を遥かに超えたプールを根性だけでロックし続けた。
【PM 17:15】 寒冷ノイズと、人身事故のフリーズ
友達と別れ、最寄り駅への帰路につくため電車に滑り込んだ瞬間、張り詰めていた精神のプロトコルが終了し、最悪のバグが牙を剥いた。電車内のシートに腰掛けた振動が膀胱を直撃し、視界が一瞬、真っ白に明滅したのだ。
さらに冬の容赦ない寒冷ノイズが一気に彼女の肉体をハックした。
白いハイソックスと短いプリーツスカートの隙間から、容赦なく吹き付ける冷気が太ももを凍らせる。
その瞬間、膀胱の神経ネットワークが一気に暴走を始めた。
寒冷ノイズが自律神経を直撃し、尿意のゲージは一瞬で120%の致死量に達した。
「嘘……、あ、あと30分、家まで持たな――」
ガタン、と激しい衝撃音とともに、電車が駅と駅の間の真っ暗なトンネル(完全なクローズド空間)の中で、唐突にフリーズ(緊急停車)した。
『ただいま、前方におきまして人身事故が発生いたしました。運転再開まで、しばらく……』
車内に鳴り響く、無慈悲なシステムエラーのアラウズ。
逃げ場のない密室。車内にはトイレのインフラなど存在しない。
「っ……、はぁっ、うそ、嘘でしょ……ッ」
さやかは吊り革にすがりつき、顔を真っ赤に歪めて内股を狂おしく激しくハメ合わせた。
歩く振動すら耐えられないのに、閉じ込められた時間は10分、20分、30分と無慈悲に加算されていく。
(あ、あみちゃん……。あの子も、こんな絶望の中にいたの……!?)
脳内プロセッサの処理能力は、100%すべて膀胱のホールド(我慢)だけに消費され、呼吸をすることすらままならない。
さっき教室でお漏らししてしまったあの少女あみの「シャー」という駆動音が、幻聴となって耳の奥で爆音で鳴り響いていた。
一震えすれば、その場で全てが決壊する。
17歳の優等生のプライドが、肉体の物理的な限界によって内側から引き裂かれていくメルトダウンの寸前だった。




