番外編26:『排泄誓約のスクリーニング・ブルー(原初起源)』〜1999年冬、ノストラダムスの世紀末に生体インフラをハックされ、社会のファイヤーウォールをメルトダウンさせた17歳優等生の救済ログ〜1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
大人の社会が構築した「 衛生 ( クリーン ) 」という名の強固なファイヤーウォールを、実につまらない綺麗事だ、とあざ笑うプレイヤーがストリートにはごく稀に実存する。
後年、マイナス80℃の工業用フリーザーという鉄の神殿を自室にデプロイし、愛する女性の「最新の1滴」と永遠の婚姻契約を結ぶことになる男――高志、当時11歳。
彼がノーマルなモブ男の仮面の奥底に、一生消えないウロフィリア(尿愛好)という名の最悪のバグコードを永続インストールされることになった運命のタイムライン。
そのソースコード(発生起源)を握っていたのは、1999年(平成11年)のノストラダムスの終末予言に微かに揺れるストリートを歩いていた、一人の見知らぬ17歳の女子高生だった。
名前は、さやか。エリート私立女子高に通い、黒髪を高い位置できれいに結い上げたポニーテール。
彼女がその日、社会の綺麗事という衣服をすべてエラーブレイクさせ、剥き出しの「生体資源」をパージせざるを得なくなった、逃げ場なきエラーの因果がここから起動する。
◇
【AM 11:30】 世紀末のインフラエラーと、燻る憤りのコード
季節は、吐く息が白く凍りつく冬の夕暮れの一歩手前。
17歳のさやかは、大学受験の命運を握る「超難関大学全国模試」の会場である、都内の格式高い大学キャンパスにいた。
紺色のタイトなブレザーの襟を正し、エリート私立のプライドをまとってまともな優等生のインターフェースを維持していた彼女だったが、昼前の休憩時間、最初の致命的な「インフラのバグ」に直面し、その防衛シェルターの内側で激しいエラーアラートを鳴らしていた。
女子トイレの前にデプロイされた、絶望的なまでの大行列。
1999年当時の大学キャンパスのトイレインフラは、令和の現代とは比較にならないほど遅れていた。
令和の現在でさえ女子トイレの数が少なすぎる問題は取り沙汰されているぐらいであるのに、当時は個室の8割以上が古い和式であり、薄暗く、冷え切ったタイルの床には独特の不衛生な匂いが漂っていた。
何より、さやかを激しく憤らせたのは、その構造的な不条理(仕様バグ)だった。
すぐ隣の男子トイレは、小便器が壁際にずらりと並び、男子生徒たちが数秒のプロトコルでスマートにパケット処理(排泄)を終えていくため、列など1ミリも発生していない。
対して女子トイレは、構造的に衣服の着脱や生理用品の処理で1人あたりの占有クロック数(時間)がどうしても長くなる。
それなのに、設置面積や個室の総数が男子用とほぼ同じという、設計段階からの冷酷な格差。
(男子は秒で終わるのに、なんで女子だけ? 物理的に休み時間内に全プレイヤーが処理できるわけないじゃない……! なんでこの国は、こんな欠陥インフラを放置しているの!?)
それは、ストリートを歩くすべての女子高生が本音では抱きながらも、恥じらいのファイヤーウォールによって決して口に出せなかった「裏ログ(社会への怒り)」だった。
冷え切ったコンクリートの上で待てど暮らせど列は進まず、下腹部のプールが確かな尿意のシグナルをビルドし始めたその時、無慈悲にも次講義のチャイムが鳴り響いた。
「……次の休憩まで耐えよう。試験が終わるまでは、絶対に持つ」
さやかはパージのコマンドを保留して自席へ戻った。
それが、彼女の脳内プロセッサが弾き出した最悪 of 最悪の誤判定であることに、まだ気づいていなかった。




