番外編24:『排泄誓約のスクリーニング・ブルー』〜おしっこが好きなこと以外は至って平凡な男が、リアルな婚姻の檻(普通)からアングラな確定システムへとログアウトするまで(後編)〜5
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
消えてしまった相方は、相方として大事に心に残して、新しい伴侶を望んで再婚へ向かう人たちと同じように、タカシの脳内報酬系は、目の前の現実に生々しく実存する「最新の温かい確定システム」を狂おしいほどに欲しがり始めたのだ。
だが、タカシはもう4年前の愚かなモブではなかった。
彼はこの1年間、来るべき「再婚」のために、何十万、何百万ものパケット(給料)をパージし、自宅のワンルームに、ある驚異的なインフラをハックしてデプロイしていた。
あれから3年の孤独なスタンドアロン期間が流れた今、35歳になったタカシ。
彼はこの4年間、ただ指をくわえてヘタれていたわけではなかった。
「新しい綺麗なおしっこ(伴侶)」を迎え入れ、それを何十年も無害のまま、成分の劣化も濁りも一切起こさずに物理的にホールド(永久フリーズ)し続けるための、最強の神殿をハックしてデプロイしたのだ。
水分を完全にロスカットして粉末にしてしまう真空凍結乾燥機は、液体という本質を損なうため除外した。
タカシが何百時間もの労働の対価である給料をパージして調達したのは、「工業用マイナス80℃のディープフリーザー(超低温冷凍庫)」。
これさえあれば、細菌の増殖も尿素の分解も100%シャットアウトし、あの日の輝きを永久にフリーズできる。
さあ、インフラは整った。
問題は、そのおしっこをどの女性にしてもらうかだ。
だが、タカシのプロセッサが弾き出した答えは、やはりストリートの有象無象のモブ女ではなく、人生で唯一、自分と完璧な同期を果たした「マリカ一択」だった。
タカシは、LINEのタイムラインを駆動させ、マリカにコンタクト(接続要求)を送った。
彼女にはもう故郷で結んだ「旦那」という既婚のプロトコル(現実の檻)があることは百も承知だった。
別に浮気(肉体関係)を求める不倫のコマンドを実行したいわけではない。
ただ純粋な、生体データの提供と、ディープフリーザーへのホールドという永続的な再婚契約の相談。
「久しぶり、高志くん。急にどうしたの? 相談って……」
都内の寂れた喫茶店の片隅。
36歳になり、風俗のバックヤードから完全にログアウトして「普通の主婦」としてのファイヤーウォールを完璧に起動させているマリカが、ハーブティーのカップを置いて優しく微笑んだ。
その目の前で、ユナイテッドアローズのジャケットの襟を正した高志は、どこまでも真面目な、剥き出しの実存の瞳で、新たな仕様書をデプロイ(提示)した。
「マリカ。俺の部屋に、マイナス80℃の工業用フリーザーを設置した。……俺ともう一度、今度は『永久の再婚(おしっこの凍結ホールド)』をしてくれないか」
喫茶店のバックで流れているトルコ行進曲のBGMが、一瞬で遠ざかる。
普通の主婦としてのインフラを回しているマリカの脳内サーバーに、4年前のあの冬の駐車場の湯気と、コンクリートを穿つ激しい水圧音が、最大出力のアラートとなって再び鳴り響こうとしていた。
そして、2人の間にはしばしの沈黙が、そのバックにはけたたましいトルコ行進曲が鳴り響いているだけだったのだ。
番外編25へつづく




