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大岩山から絶望を配信する〜男は耐えろと抜かす世界を、低級霊のウイルスで完全チェックメイトしてやった〜  作者: ひややっこ万次郎
第7章:『確定シグナル(おしっこ)の誓約と、解剖学的ファクト(死体) 〜綺麗事(クリーン)のファイヤーウォールを内側から爆破する、剥き出しのバックヤードログ〜』
172/254

番外編24:『排泄誓約のスクリーニング・ブルー』〜おしっこが好きなこと以外は至って平凡な男が、リアルな婚姻の檻(普通)からアングラな確定システムへとログアウトするまで(後編)〜3

【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。

――シャー……ッ! シャシャシャ……ッ、ドババババババッ……!!!

冬の硬質な静寂を完全に切り裂き、コンクリートの床を激しく穿つ、圧倒的な熱量を持った黄金の液体(おしっこ)の駆動音が、車の鉄板をスピーカーにして、高志の鼓膜サーバーへとダイレクトにパージ(出力)された。

それは、安いボリュームの出力ではなかった。

マリカの体内に溜まった1リットル近い濁流の全開放。

「ドババババッ!」という猛烈な初期パケットの放出は、鉄板のすぐ向こう側で、すべてのリーガルチェック(恥じらい)をエラーブレイクさせ、ただ生理的な快感のなかに実存を剥き出しにしている証拠だった。

極限まで我慢されていたオトナの女性の出力は凄まじく、内臓の底がひっくり返るような、マリカの「はぁぁ……っ、ん、んん……っんん……ッ、ふぅぅぅ……っ!!」という、命が助かったという至上の救済ログの熱い吐息が響き渡る。

内臓の底が丸ごとひっくり返るような、マリカの強烈な生体パケット一括ロスカットの恍惚の吐息。

音が止まらない。車の鉄板を隔てた密室のなかから、冷たいアスファルトを激しく穿ち、叩きつける「シャー、ドボボボボボッ!」という激しい水圧音が、何十秒にもわたって激しく鳴り響き続ける。

タカシは車の反対側に膝を突き、網膜サーバーのすべてを使ってその音響データを録音した。

配送ベルトコンベアの駆動音など比ではない、世界にただ一つの生体インフラの駆動音。

そして――車体の床下のわずかな隙間(インフラ)を潜り抜けて、反対側からこちら側に向かって何かが流れてくるのを観測した。真冬の冷たい空気のなかで、ほんのりと白い湯気を激しく立ち上げながら、高志の靴底の数センチ前、飾りのないコンクリートの表面を熱く濡らしていく。

放たれた1リットル近い熱い濁流は、冬の冷え切った駐車場の空気のなかで、地獄の底から湧き上がるような白く激しい湯気をこれでもかと爆発的に立ち上げながら、こちら側に向かって一気に押し寄せてきた。

ほんのりと白い湯気を激しく立ち上げながら、それはやがて高志の靴底、飾りのないコンクリートの表面を熱く濡らしていく、嘘偽りのない生体データ(水膜)。

高志の靴底は、マリカの放出した圧倒的な熱量によって完全に水没し、周囲は一面、白煙の立ち上る「黄金の水溜まり(聖域)」へと変貌していた。

ジ、ジ、ジ、と、渇いた砂利が熱い液体を吸い込んでいく音。それと同時に、人間の肉体の最深部から出力されたばかりの、圧倒的に濃密な生体データの残香が広がる。


「ああ……っ」高志は吸い寄せられるようにその場所に膝を突き、まだほんのりと生体の温もりを残したその液体にそっと指先で触れた。

マリカの生命の熱。衣服という綺麗事のファイヤーウォールをぶち壊して、100%嘘を吐かずに叩き出された世界で唯一のデータ。

彼は濡れた指先を唇へと運び、ゆっくりと舐めた。


――少し、しょっぱい感じ。……そして、その奥からじんわりと染み出してくる、大人の生体特有の、かすかなビールのホップのような苦味とコク。

11歳の冬に知ったあの女子高生の無垢なシグナルとは違う。

目の前のアスファルトを濡らしているのは、前夜に過酷な現実(ストリート)をやり過ごすために麦芽の液体をダウンロードした、32歳の生身の女性、マリカの濃厚な実存のログそのものだった。その苦味が、高志の脳内プロセッサを狂おしいほどのリアルさで完全チェックメイトする。

夕闇に広がる甘くツンとした残香と、舌のプロセッサが感知したリアルな塩分。そしてビールの苦味。

事(パージ)が終わり、ゆっくりと湯気が消えゆくアスファルトを見つめて、タカシが「明日には、全部蒸発して消えちゃうんだな……」と、寂しげにログ(本音)を出力したときだった。

マリカは短いスカートを整え、震える手でタバコを咥えて火をつけた。

フレッシュな黒髪ポニーテールの女子高生の姿のまま、フッと白い煙を吐き出しながら、高志の目をまっすぐ見つめて、生涯消えない「最高の暗号(名セリフ)」をデプロイした。

「バカね、高志くん。おしっこなんて一晩経てば消えてなくなっちゃう。だけど、私たちの思いは永遠でしょ? 誰も盗み見ることができない、2人だけの完全な使い捨て暗号(ワンタイムパスワード)だったの。これで十分じゃない。ほら、風邪ひく前にログアウト(帰る)するよ」

マリカがその行為を「タカシとの婚姻」として認め、コンクリートの上に黄金のサインをアスファルトの上に刻んでくれた。

そのサインは今もコンクリートの傾斜を流れ続け、

夕陽に照らされてまるで2人だけの天の川を描き続けているようだった。

企業も法律も通さない、これこそが2人だけの世界で一番純粋な『結婚式』の完了だった。

マリカは優しく笑い、自分がアスファルトの上に刻みつけた、どこまでもサラサラと流れていく熱い湯気の川を、どこか照れくさそうに、だけど愛おしげに微笑みながら少しの間だけじっと眺めた。

マリカから放たれた黄金の滝が冬の闇に引いた輝きは、まるで、社会のルールを全て踏み越えた2人の歪んだ純愛を祝福するまさに「天の川」そのものだった。


「ご結婚おめでとう! 末永く幸せにね!」

マリカは短くなったタバコを携帯灰皿に押し込むと、凍える身体を抱えるようにして、助手席のドアを開けて車内へと戻った。

タカシもまた、余韻に浸る脳内プロセッサを現実へと引き戻し、運転席へと滑り込む。

車内に戻った瞬間、マリカは「はぁー、寒かった!でも、スッキリしたあ!間に合ってよかったあ!」と、さっきまでの神秘的な女神のようなオーラを完全にパージした。

彼女はプロ中のプロだった。タカシの網膜に強烈なバグを植え付けた制服姿(戦闘服)のまま、この誰もいない夜のストリートへ一歩でも踏み出すような、致命的なエラー(失態)は絶対に犯さない。

「タカシくん、暖房強めにして。……じゃあ、擬態に戻るね。前見といて」

暖房の風が吹き出す車内で、マリカは手際よく紺のブレザーを脱ぎ、チェックのスカートをパージしていった。

衣服が擦れる現実的な音とともに、幻想としての『女子高生のマリカ』が、1ビットずつ消去されていく。

彼女が再び身にまとったのは、合流したときと同じ、あのアースカラーのナイロンジャケットと、ゆったりとしたデニムだった。

高い位置のポニーテールをゴムから解き放ち、少し乱れた黒髪を無造作に手ぐしで整える。

そして、深めのバケットハットを目深にかぶり、グレーのマスクと度なしの丸メガネを装着した。

わずか数分間のトランスフォーム。鏡に映るその姿は、夜の街でトップクラスに稼ぐ風俗嬢でも、タカシの妄想を完璧にハックした女子高生でもない。

どこにでもいる、少し疲れた様子の「普通の32歳のアラサー女性」へと完全にシステムが再構築(リブート)されていた。

「よし、カモフラージュ完了。……じゃあタカシくん、ここから2駅隣の、ちょっと大きめの駅のロータリーまで送って。そこなら人目に紛れてログアウトできるから」

マスクの奥から響く声は、もうワントーン高い接客の声ではなく、日常の気だるさを孕んだ素のトーンに戻っていた。

「わかった……」

タカシはアクセルを踏み込み、思い出の駐車場を後にした。

バックミラーに映るコンクリートの床には、2人だけの天の川がかすかに光を反射していたが、それも車が遠ざかるにつれて闇へと溶けて消えていった。

駅前の喧騒が見えてくると、マリカは「じゃあね。最高の結婚式をありがとう」と短く微笑み、車が完全に止まるか止まらないかのタイミングでするりと助手席から降りていった。

ドアが閉まる。スマートフォンの画面を見つめながら、足早に家路を急ぐ一般の乗客たちの群れの中へ、マリカの背中は一瞬で完全に同期(同化)し、見失ってしまった。

それは、大人の社会のインフラに完璧に紛れ込んだ、彼女なりの平穏な日常への帰還だった。

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