番外編24:『排泄誓約のスクリーニング・ブルー』〜おしっこが好きなこと以外は至って平凡な男が、リアルな婚姻の檻(普通)からアングラな確定システムへとログアウトするまで(後編)1〜
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
マリカから「半年後の引退・結婚宣告」という無慈悲な仕様変更のパケットを突きつけられ、さらにストリートの綺麗な女からは「ガチの狂気」を拒絶されて1秒でLINEブロックという更地化を食らった高志の脳内サーバーは、完全にブルーアウト(精神停止)を起こしていた。
仕事からボロボロになって帰宅した暗いワンルームで、高志は狂ったようにネットの海をスクリーニング(検索)し、おしっこを題材にしたアングラな二次元の漫画やイラスト小説を貪るように読み耽った。
だが、どこまで行っても、彼のプロセッサの過熱が晴れることはなかった。
液晶画面の中に描かれた黄金の液体は、ただのインクと画素のフェイクコードに過ぎない。
そこには、マリカのお風呂場で喉を潤したあの「生体の圧倒的な熱量」も、舌のプロセッサが感知した「少ししょっぱい味覚(嘘のない生体データ)」も、1ビットも実存していなかったからだ。
(こんな死んだデータじゃ、俺の渇きはデバッグできない――)
絶望のなかでネットサーフィンを続ける高志の網膜サーバーに、ある二つの強烈な歴史的ログがハック(侵入)してきた。
一つは、昭和の初期に発生した「阿部定」の執着ログ。
自分と交わった最愛の男の肉体の一部(銃身)を切り取り、社会のすべてのファイヤーウォールを爆破してでも、自分だけのクローズドシェルターに永続ホールド(所有)し続けた女性の狂気。
そしてもう一つは、リアルタイムのネットニュースに流れてきた「初音ミクと結婚した男」や「エッフェル塔と結婚した女性」という、無機物やキャラクターを唯一無二の伴侶としてホールド(契約)する現代の異類・対物婚姻のアーキテクチャだった。
「正式な結婚……」
タカシの脳内プロセッサに、前代未聞の凄まじい稲妻(救済の仕様書)がインストールされた。
初音ミクと結婚した男性は、大きな初音ミクという概念ではなく「我が家のミクさん(個体)」を伴侶とした。
しかし、公式に正式に認められた夫婦である。
ならば俺も、人間の女という「嘘を吐き、スペックで値踏みし、気まぐれにブロックしてくるバグまみれのシステム」への投資をすべてロスカットし、マリカが放つ「100%嘘を吐かない確定システム(おしっこ)」そのものと、正式に永続契約(婚姻)を結べばいいのではないか。
マリカが結婚してこのアングラ最深部(お店)を去るまで、残り5ヶ月。
思い立った1ヶ月後、高志は夜勤の給料(全パケット)をすべてパージして、マリカのいるお店へと走り、彼女に狂気とも言える「挙式インフラ」の執行を願い出た。
「マリカ、お願いだ。お店の部屋じゃない。俺が11歳の冬に脳を焼き切られた、あの思い出の大きな駐車場に行ってくれ。あそこで、かつての女子高生の再現をして、俺が隠れていた車のちょうど反対側の側面でおしっこをしてほしい。俺は、そのおしっこと、正式に結婚するんだ」
「……は?」
いくら特殊風俗の最深部(聖水コース)で、タカシの「結構いい奴さ(実存)」を100%受け入れて回してきたプロ中のプロであるマリカでも、その言葉を聞いた瞬間は、脳内ファイヤーウォールが完全にフリーズ(驚愕)した。
指の間に挟んだタバコの灰が、ポロリとお風呂のタイルに落ちる。
普通の女なら警察に通報して1秒でロスカットするセクターだ。
だが、マリカは高志の「人となり(まともさ)」を誰よりも知っている。
マリカは高志の目を見つめた。そこには、綺麗事のストリートですり潰され、傷つきながらも、自分が出力する「嘘のない真実」だけを唯一の救いとして愛してくれた男の、剥き出しの純粋さ(バグ)があった。
マリカはタバコを深く吸い込み、フッと笑った。
「……いいよ、高志くん。法律なんてクソ喰らえでしょ。私が、あんたの最高の結婚相手を全開で出荷してあげる」




