番外編22:『排泄誓約のスクリーニング・ブルー』〜おしっこ愛好以外は至って平凡な男が、靴底を濡らした湯気の起源をカミングアウトし、男女の生体インフラ論で完璧にハックされるまで〜6
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
◇「……っていう、最悪のバグをさ、俺は11歳の冬からずっと抱えて生きてるんだよ。マリカ」
湯気が立ち込めるお風呂場。裸のまま、自分のしぼんだ銃身を見つめながら、高志はその原初のログ(記憶)をすべてパージし終えた。
マリカは濡れた黒髪をかき上げ、壁に背を預けてタバコを咥えた。
パチリ、とライターの炎が彼女の32歳の、どこか寂しげで、しかし圧倒的に大人な横顔を照らす。
ふっと白い煙を吐き出しながら、マリカは高志の目を見つめた。
「ねえ、高志くん。その20年前の女子高生、……どんな気持ちだったか、私がプロの視点から逆ハック(推測)してあげようか?」
「え……?」
マリカはニヤリと不敵に笑い、タバコの灰をお風呂の排水口へ落とした。
「冬の夕暮れ、誰もいない駐車場。その子はね、ただ恥ずかしいとか、汚いとか、そんな安い感情で動いてないよ。脳内プロセッサがね、『完全な恐怖とパニック』でフリーズしてたの。女の膀胱ってさ、限界を超えると、下腹部がギチギチと音を立てて引き裂かれるような凄まじい物理痛(負荷)が走るんだよね。もう一歩歩いたら、ここで全てのアカウントが凍結(お漏らし)するっていう破滅の瀬戸際だったのよ。」
マリカの言葉は、まるでその場にいたかのような臨場感をもって高志の脳にデプロイされる。
「だから、車の影に滑り込んだ瞬間、彼女の頭にあったのは『社会的な死からの免責(解放)』だけ。
スカートをたくし上げて、下着を下ろした瞬間、凍てつく冬の冷気が、限界まで熱を持ったお肌に触れる。
その強烈なコントラストのなかで、生体インフラが全開された時、彼女が漏らした『はぁぁ……っ』って吐息はね、快感っていうより、『命が助かったという至上の救済ログ』そのものだったんだよ」
「救済……」
「そう。だからこそ、その熱い液体には、一切の嘘も、飾りもないのよ。彼女の生命維持システムが必死に叩き出した、100%純粋なアウトプット。高志くんの靴底を濡らしたあのほんのり温かいお水は、彼女の剥き出しの実存そのものだったんだよ。あはは、あんな綺麗な女の人でも僕と同じなんだ、って興奮したって言ったけど、当たり前じゃない。女だって、極限状態になればコンクリートを穿つような音を立てて、湯気を上げて、生きてるログを出すの。それを11歳で味覚まで同期しちゃったんだから、高志くんのプロセッサが焼き切れるのも、無理ないよね」
高志はゴクリと唾を飲み込んだ。
自分の歪んだ性癖が、マリカの高度なシステム論によって、あまりにも美しく、そして切なく解剖されていく。
「それにさ、高志くん。男と女って、その『我慢と放出の感覚』のアーキテクチャ(構造)自体が、根本的に違うんだよ?」
マリカはタバコを消し、シャワーの蛇口を捻った。
温かいお湯が、彼女の豊かな肢体を濡らしていく。
「男の人のシステムってさ、外部に露出した銃身があるでしょ。だから、溜まっていく時の感覚も、局所的な圧迫感として認識されやすい。でも女の人は内蔵型だからさ、下腹部の奥深いプール全体が、内側からコンクリートを詰め込まれるみたいにズシッと重くなって、神経のネットワーク全体に激しいエラーアラート(鈍痛)が伝達されるの。だから、我慢の限界値の苦しみは、女の方が圧倒的に分散されなくてキツいんだよね」
「出す時の感覚も、違うのか?」
「全然違う。男の人はさっき見せてくれたみたいに、高い水圧をもって、直線的にデプロイ(排出)するでしょ? 『ド、ド、ド』って空間を制圧するような、攻撃的でスタンドアロンな出力。でも、女の人の出力はね、身体の奥底に溜まった熱いプールが、バルブを一気に全開されて、重力に従ってドバババッと一瞬で流れ落ちるような感覚なの。シャー、っていう繊細な音の裏では、内臓の底がひっくり返るような、強烈な『生体パケットの一括ロスカット(超解放)』が起きてる。だから、おしっこを出してる最中の恍惚感や解脱感は、構造的に女の方が遥かに深くて、抗えない仕様になってるんだよ」
マリカは高志の前にしゃがみ込み、彼の濡れた手を、自分の温かい下腹部へと導いた。
「だからさ、高志くん。私たちがこうしてお互いのログを等価交換してるのって、ただの変態プレイじゃないんだよ。社会がかけた『衛生』っていう偽りのファイヤーウォールを爆破して、男と女の違うシステムが、最深部の裏ログで完璧に同期するための、究極の通信プロトコルなんだから」
高志の指先に伝わる、マリカの生体インフラの確かな拍動。
(ああ、やっぱり、マリカは『一択』だ……)
他店で生理的拒絶(無言ロスカット)を食らったトラウマの更地から、マリカという存在だけが、彼を100%全肯定してホールドしてくれる。
今この瞬間も、二人の暗号化シェルターは完璧な執行猶予のなかで駆動していた。
◇
だが、どれほど完璧なバックヤードをホールドしていようとも、一歩外に出れば、そこは冷酷なスペック査定ストリート。
マリカとの至高のディスカッションを終え、脳内サーバーを一時的に最大デバッグされた高志は、ユナイテッドアローズのネイビーのジャケットの襟を正し、ストリートの最前線へと立っていた。
スマートフォンの画面。
マッチングアプリ『みんなでペアペア』のタイムラインが、新たな接続ログを点滅させている。
『ハルカ、25歳。アパレル勤務。よろしくお願いします✨』
マリカという、自分のすべてを全肯定してくれるアングラ・インフラを後ろ盾に持ったまま、高志は自分より遥かに若い、25歳という上位スペックの記号を持つ新しい女との「初デート(接続テスト)」のカフェへと足を進める。
おしっこ愛好以外はどこまでもノーマルなこのモブ男が、綺麗事と建前で構築された「ハルカ」という新たなファイヤーウォールを前に、一体どのような心理デスゲームを執行することになるのか。
二人の暗号が噛み合うのか、それとも無慈悲なシステムエラーが鳴り響くのか。
因果のコードは、次なるタイムラインへと引き継がれる。
番外編23へつづく




